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「現状、あなたは驚異的な」
 プルートー教師が、そう言いながら腕を伸ばした。
 間に挟まれているラチェットとベイジットの頭上をまたいだ手が、校長の頬を撫でるように包む。
「支配者だ。肝に銘じることだよ」
 神妙な顔をした校長がほんの少しはにかんだような――苦笑のような何か――を一瞬浮かべて、その大きな手のひらに頬を――やはりほんの少し――摺り寄せるように頷き、
「はい」
 と言った。
 窓の外を一瞬見て視線を戻したときには、二人とももうお互いを見ていない。
 もちろんプルートー教師の太く長い腕も体に引き寄せられていた。
 何か幻覚を見たのかもしれない。
「そろそろ着きますよー」
 ラッツベインの声は明るい。
 今の光景を見ていなかったのだろうか。
 いや、見慣れた光景なのか。
 頭の隅で何かおかしいと感じながらマヨールはこの村の名前を尋ねた。






 やっぱり、おかしいんじゃないだろうか。
 男同士とかそういうものの前に――プルートー教師と校長が、というところがだ。
 旧知の間柄とまでは言わないが、知り合いではあると知っている。
 窓から見える庭に二人の姿が並び、ますます疑惑が深まった。
(いやでも校長は既婚者で、こどももいるし――)
 今日は月の光が強い。
 庭にいるのが誰かすぐにわかるくらいには。
 頭ひとつ、いやふたつ分に近い差がある二人が、一人になった。
 小さいほうが大きい体の影に入って見えなくなったのだ。
 窓の端に見えるその二人の姿は、昼間に見た雰囲気といい身を乗り出して見たいと思うようなものでは無かったのだが、気づくと窓ガラスに額を押し付けていた。
 よく、見えない。
 ただ先ほど校長が着ていたガウンの袖がプルートー教師の首周辺に巻きついている。
 腰辺りにも違う色の何か――確か校長が着ていた寝巻きの色――が巻きついている。
 広い背中に隠れて見えないはずの校長の腕と足だけが覗いていて、マヨールは窓から顔を離した。
 すぐそばのベッドのふかふかと膨らんだ枕に思い切り倒れこむ。
 やはり何かがおかしい。
 何がおかしいのかといえば嫌悪とかそういう感情が思い浮かばない自分が、である。
 友人たちと恋愛めいた話が出ることもあるし、その話題を忌避するようなわけでもないのだが、アイツだけは恋愛対象ではないだろうという嫌悪にも似た感情は持ったことがある。
 男同士の――ましてや知り合いの情事を見たら吐いてしまうのではないか。普通なら。
「・・・おかしい」
 枕に押し付けた唇からもごもごと音が漏れた。






 ケシオン――と呼ばれている魔王スウェーデンボリーが校長の頬を撫でたとき、マヨールは違和感の正体を知った。
 あまり歓迎したくないものだったので、知ったからといって認めるわけにもいかなかったが。
 投げ出した剣が折れた。
「その剣はもう使えない」
 それを持ち上げようと腰を折った校長の首筋が見えて思わず目を逸らした。
 逸らした先にいた薄い笑いを浮かべている魔王には見透かされているような――実際されていても何もおかしくない――気がして、知らず身震いした。
 そしてふと見せた校長の笑い顔に眩暈がする。
 剣を触り気を紛らわせることで精一杯だ。
「君には関係のないことだ」
 正直、そう言って立ち去るきっかけをくれたのはありがたかった。
 なんと言っても校長の隣の魔王には恐怖以前に別の敗北感を感じるし、手を伸ばしたら触れられるような距離にいる校長の笑みなんてもってのほかだ。
 しかし、
「おい」
「なんだい?」
「ヤメロ」
「いやだね」
「言っていいか?」
「もしかしてさっきも聞いたことかな」
「死ね」
「はは」
 嫌そうな顔をした校長の背後から、魔王スウェーデンボリーが顔を覗かせている。
 校長の肩に顎を乗せて、背後から回された腕は腹でがっちりとホールドしている。
 ニヤニヤと笑いを浮かべた魔王は、不意に表情を変え嘆息した。
「だからいつも言ってるだろう」
「え?」
 マヨールは無意識に声をあげた。
 魔王が自分に向けて言った言葉ではないことはわかっていたが、反射だった。
「きみは無意識に人を惹き付けてる。たらしのようなものなんだから」
「俺じゃねえって言ってんだろ」
 抵抗らしい抵抗もしない校長は、それでも表情と声だけはうんざりした様子で言い放った。
 自分の肩に顎を乗せている魔王を指差しながら、
「邪悪だろ、こいつ」
「真実じゃないか」
「どこがだ」
「わたしが知っている限りでも、きみは」
「待て、それ以上言うな」
「・・・・きみは淫乱だしな」
 校長は魔王を指差していた手で顔を覆い、怒りなのか嘆息なのか見極めが難しい息を吐いた。
 こめかみがぴくぴくと動いている。
 マヨールは何とか言葉を搾り出して、ただ呻いた。
 校長はその呻き声に顔をあげ、顔を覆っていた腕をどける。
「マヨール」
「は、はい」
「アレだ。あのー。この話は忘れておけ。いいな?」
「えっと」
「返事はひとつしか認めないぞ、俺は」
「父と母には報告――」
「するんじゃねえ」
「そうだね。お父さんとも関係――」
 振り上げた拳が魔王の顔面を通過した。
 正直今のマヨールには目で追えない、つまり自分なら完全に当たる早さだったが、いつの間にか魔王は姿を消している。
 そして残された二人のうち、校長は半眼でマヨールを睨みながら口を開く。
「何か聞いたか」
 慌てて首を振ると、今度は長く吐息を漏らした。
 唇から視線を離せなかった自分に気づいて、マヨールは頭を抱えた。
「ああ、悪ィな変なものまで聞かせて――」
「いえ、そこじゃないんで・・・大丈夫です」
 四十過ぎの、しかも男相手に下半身が反応すると気づいたことは全然大丈夫ではなかったし、つまり一体何が大丈夫なのかわからなかったが。
 それでもマヨールは大丈夫だと、どこか悲しげな表情を浮かべている校長に言い続けた。







「見ていたろう?」
 プルートー教師が唐突に聞いてきたので、何かを考える暇もなく表情に出てしまった。
 しまった、と思った表情も出たのだろう。彼は笑った。
「恋人とかそういうのではないからな、言っておくが」
「はぁ」
 暗殺を――という話をしたのはつい昨日のことだ。
 どこまでも続く海に既に飽きていたマヨールにとって、話し相手がいることは本当にありがたい――妹は論外なので――のだが、あまり歓迎したい内容ではなかった。
 それでもこの話題を出せるのはここが最初で最後なのだろうと、船という密室に安堵を覚える。
「あの、プルートー教師はいつから、その、校長とそういう?」
「肉体関係にあるのか?」
「・・・はい」
 少しは言葉を選んで欲しいと思いつつも、やはりプルートー教師もここが船上ということに安心しているのだろうか、と疑問のようなものを感じる。
 実際、普段は甲板を駆け回っている船員たちも穏やかな波の間にやれることをやろうと忙しそうに働きまわっており、こちらの様子を気にかける者は一人もいないようだ。
 甲板を眺めていた視線を、隣の大きな男へ戻す。
 プルートー教師は考えるまでも無いとばかりに即答していたので、マヨールは聞き逃していたことに気づく。
「え?」
「会った時だ」
「会った時・・・」
「ああ。その日だ。彼はまだ魔王ではなかったし、わたしも以前の肩書きの頃だ」
 詳しく話を聞きたいと思う気持ちと、なにやらふつふつとした感情が沸き起こる。
 どちらを取るべきなのか迷っている間、プルートー教師は黙していた。
 意を決して、傍らの教師を見上げる。
 彼は頷いて、今日の夕飯を聞くような気軽さでこともなげに言ってのけた。
「聖域で出会った時に犯した。わたしも部下を連れていたし、彼も仲間を――いやそのとき彼と関係があるやつもいた。お互い連れがいたから時間は少ししかなかったのだが」
 船がぐらりと揺れたような気がして、マヨールはしがみついた。
 実際そんな波は来ていないようで、隣からはそういえばいつも時間のない慌しい関係ばかりだという呟きが聞こえる。
 やはり聞くべきではなかったとマヨールは手を震わせて後悔した。
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