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 一度はまると癖になるってものがある。
 横を歩くメッチェンの機嫌を伺うのもそうだ。
 しかもなかなか抜けられないってのが困ったもので。
 彼は小さく息を吐いた。
 ふと見たオレイルの目が珍しく笑っていて、何故だか背筋が寒くなった。
 ひきつっているのがわかる笑みを返して――
「そろそろ今日の寝床でも作るか」
 と言いながら肩に掛けていた荷物を持ち直した。
 馬車に揺られっぱなしだった日中のお陰で腰が痛む。
 座り慣れているオレイルのほうが疲れが無さそうに見えた。
「そうだな。薪を探して来る」
 いつも巻いていたバンダナをつけていないので髪が邪魔そうな連れは、そう言って荷物をおろし森へ入っていった。
 数ヵ月前とは異なり、鬱蒼とした森の、三人が座っても苦にならない程度の広さの隙間は昨日降った雨で若干湿っている。
 薪は期待できなさそうだと彼は思った。
 夜露に濡れて重たげな服の裾をパタパタとあおり風を起こしていたオレイルを木の根元に座らせる。
 器用に片足を折って座り、無意識なのだろうが伸ばしたままの足をさすっている。
「痛むのか」
「いや」
 やはり癖のようだった。
 湿った空気が不快らしく、またパタパタと服で仰ぎ出した。
「サルア」
 呼ばれて彼は振り向いた。
 簡易かまどを作っている途中だったので、手に拳大の石を持ったままだ。
「ん?」
「あの剣を渡したと言っていたな」
「ああ」 
「その前だから・・・森で遭遇したときか?」
「あ?」
 じろりと、かつての凄烈さを込めた視線が彼を見た。
 なんのことかわからず、手の中の石をとりあえずかまどの一部にする。
 再び振り向いてからなんのことか尋ねると、オレイルは嘆息した。
「メッチェンにも気づかれているのにわたしが気づかないはずがないだろう」
 背筋を何か冷たいものが流れた気がした。
 近くにあったのだろう、かまどに使えそうな石を彼に放り投げたオレイルは、彼がキャッチしたことを確認してから言葉を続ける。
「メッチェンはお前のことを嫌ってはいなかったが、お前の火遊びは考えるんじゃないか」
 冷水が体を駆け抜けていった気がした。
 ぎこちない笑みを浮かべてからかまどに石を置く。
 こちらからの返事がないせいか、遠慮がちな声でーしかし彼の耳には確実に届く声でオレイルは話を続ける。
「お前の女遊びは知ってはいたがまさか男にまで手を出すとはな」
 やはり間違いなくー恐れていた話題を明確にされて彼ーサルアはかまど用の石を握りしめて振り返った。
「あ、いやそのことなんですがね、なにか二人とも勘違いしてるんじゃないかなと」
「本人から聞いた」
「俺は男に興味――は?」
 間抜けな声を出したと自分でも思った。
 あの男と関わってからろくでもない人生がさらに面倒なことになっている気がする。
 あの日出会った時から何かがおかしい。
「えっと・・・」
「本人がお前のことを話すときに、あのヘタレホモ野郎と言っていた」
「ヘタレってなんだ!?」
「突っ込むところはそこなのか・・・?」
 渋いようなからかうような心配そうな今まで見たことのない表情のオレイルを目の前にしながら彼は突然、二日は髪を洗っていないことを思い出した。
(風呂に入りてぇな…)
 湿った風が横切って行った。
 メッチェンにまでばれているのは――認めたくなかった予感が実感になってひしひしと心にのしかかってくる。
「メッチェンはいい女だ。嫁にするつもりだろう?」
「まあ…アイツが首を縦に振ればな」
「そうか。――まぁ、頑張れ」
 今まで聞いたこともない師の言葉のなかに色々なものが含まれていて、彼は唐突に出てきた涙をこらえるために上を向く。
 木ばかりで空はまったく見えなかった上にちょうど葉から垂れた雨水が鼻を直撃して少しむせた。
 少しばかりの沈黙が訪れて、ガサガサと音がしたほうを向けばやはり手ぶらのメッチェンだった。
「駄目だな。この辺りは全部湿っていて使い物にならなさそうだ」
「そうか」
 そう返事をしてから、サルアは鞄の底からやけに光沢のある紙に包まれた手のひらサイズの何かを取り出して、中から出した黒い塊をかまどに放り込んだ。
 マッチを擦って、黒い塊の真ん中の穴に押し込める。
「水場を探さねえとな」
「それならあっちにあった。川だ」
「んじゃ、明日は水浴びしてから出発だな」
「わかった」
 かまどの上に乗せた網に缶詰を置く。
 いつものように無言の時が流れようとして――珍しくメッチェンが口を開いた。
「サルア、旅をしていて思ったのだが」
「ん?」
「私とお前が夫婦のほうが何かと都合がいいようだから、そういうことにしないか?」
「!?」
「安心しろ。もちろん便宜上のことだ」
「お、おおおおおもちろんだ!むしろ正し」
「悪いな。本命がいるというのに便宜上とはいえ私なんかが相手で」
 ボキッという鈍い音がした。
 訝しげに顔を上げたメッチェンの視線を追うと、自分の手の中でマッチ箱がぐしゃぐしゃになっている。
 苦労して拳を開くと、火傷を覚悟して擦らなくてはいけないマッチの山が手のひらに付いて来た。
 すぐに浮かんだ言葉が情けなかったので他の言葉を探すが、返って来るだろう言葉が簡単に予想できてしまう質問しか思い浮かばなかったので、彼は必死に涙をこらえながら、
「喜んで――夫婦になろう。お前は、いい女だ」
 という言葉を恐らく30秒ほどかけてなんとか搾り出した。
 涙で滲んでよく見えなかったが、先ほどよりは明るい顔でメッチェンが答えた気がした。
 視界の端に頭を抱え込んだような師が映る。
 どうしてこうなったのだろうと自問してみるが――可愛げのない黒髪の男がこちらを指差して
笑っている姿しか思い浮かばなかった。
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