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「初めてケツだけでイかされた日からしばらくは本当に辛かった」
「何をしていてもたちっぱなしだし、不意に感触を思い出してはイッちまうし、あの時は結構本気で引きこもってた」
「聞いてんのかおい」
「一週間。一週間だぞ。わかるかずっとたちっぱなのが」
「だいたいお前みたいなやつがなんで俺の周りに多いんだ」
「それとも何か?男はみんな男にも欲情するのか?俺がおかしいのか?」
「こないだ久々に突っ込まれたらあん時みたいにまーたたちっぱになるしよお」
「あー・・・」
 散々喚いてから、数日後には校長になる男が机に突っ伏した。
 黒髪黒目、30代に足を踏み入れたばかりと言う割には、その顔に浮かぶ疲労は並大抵のものではない。それ以外、多少目つきが悪いことを除けば普通の壮年である。
 その壮年が前述していた言葉に呆気に取られているのは二人。かつては金髪の美少年だった面影を残しているのにどんよりとした空気をまとう青年と、黒い長髪に唇に傷という特徴的な男だ。
 美少年だった青年は首がギシリと音を立てるのではないかと心配しながらゆっくりと長髪の男を見る。長髪の男は小さく不快感をあらわにしていて、それを見た美少年だった青年――マジクは苦笑した。
 悲愴なのか悲壮なのかよくわからない酔いつぶれたこの壮年と一緒に酒を飲む機会は、自分が未成年だった間はともかく、原大陸に渡ってからは何度かあった。それでもお互いの多忙から恐らく片手で数える程度だが。
 そういえば、たまの収入があったときにバグアップズ・インのカウンターで飲んでいる姿を見かけたことがある。あの時も今と同じように突っ伏していたが理由は恐らく違うだろうし――その当時は小さなグラスをなめるように飲んでいたし――片手で足りる酒の席でもこんな姿を見たことはなかった。
 しばしの無言のあと、どうすべきか尋ねるべく顔を上げたマジクの視界にエド――以前コルゴンと呼ばれていたが、こちらに来てからはそう呼ばれているのは聞かない――の、パンの中に虫が入っていたような顔が映る。
 要は責めるような目で見られているのでマジクは慌てて口を開いた。
「ぼ、僕は何のことか知りませんよ!?」
 返事はないまま、その視線はちらりとマジクの隣の壮年へ戻され、同時に音も無く立ち上がると伏せる壮年――オーフェンの襟を引っ張った。
「んんんんぐえ」
「起きろ」
「んあだよ」
「こないだ、とはいつだ。誰が関連している」
「あ?もうねむおいこぎーそれはおれのももかんんぐんぐ」
「・・・」
「寝ちゃってますけど」
「起こすか」
「いやいやいや!疲れてるんでしょうしそんな無体な!」
 慌てて襟を掴んでいる手を振り払おうとすると、手が当たる前にさっと手が避けた。
(なんか嫌な感じ。いや前からか)
「・・・お前は心当たりはあるのか?」
「だから、ありませんって」
 むしろ自分のほうこそあるんじゃないのか、と口をついて出そうになり、慌てて止めた。予想していたのだろう男に睨まれたせいもあるが。
(っていうか自分だってわかってたら睨んでこない、か)
 となると。
「酔って混乱したんじゃないですかね?」
「ありうるな」
「今までこんなに酔ったの見たことないんですけど、いつもこうなんですか?」
「こいつと酒は初めてだ」
「・・・そうですか」
 もしかして、今日たまたまこんな状況になっているのだろうか。もしくは歳で酒に弱くなったとか。
(オーフェンさんはもう30過ぎ・・・か)
 ということは最近顔の皺を気にしていた元師の首根っこを捕まえているエドは30代に片足どころか両足を突っ込んでいると言うことになる。多少歳を重ねたのは顔つきでわかるが、相変わらずの表情の読めない顔に目立った変化は無い。ここで顔を合わせるようになってからもう数年が経ったはずなのに。
 マジクは小さく嘆息した。それを見たエドが頷くのが見える。どうやら校長のことで息をついたように思われたらしい。校長が話した内容はともかくとしてこの状況をどうにかしたいのはお互い同じのようだ。
「じゃあ、僕が連れて行きます」
「お前の体格では心もとない」
 オーフェンの腕を自分の肩に回そうとしていたマジクは、そう言って立ちはだかったエドとしばし睨みあった。無言のままそこから退こうとしない長身の男を見上げて、マジクがゆっくりと口を開く。
「大丈夫です。オーフェンさん軽いですから」
「もう馬車を頼める時間ではないだろう」
「そうですけど」
 新築された校舎の校長室となるところで行われている密かな祝いの席――とオーフェンは言っていたが、単に邪魔が来ないところで今後の打ち合わせをしておきたかっただけだとマジクは思っている――が始まったのは既に夜の九時を過ぎていたはずだ。
 その時点で馬車は帰しているだろうし、考えてみればどうやって帰るつもりだったのだろう。
「でもまあ風邪引かれても後味悪いんで、僕もオーフェンさんとここで寝ます」
 ずるりと持ち上げた酔っ払いは思いの他重い。マジクは多少ふらつく足取りで校長用の椅子からオーフェンの体を引き摺り下ろした。そのままソファへ引き摺ろうとしたところで、横から伸びた腕にオーフェンの体重を持っていかれる。エドは何事もない顔をしながらソファにオーフェンを下ろした。
(複雑だ)
 かなり適当に扱われたはずだが、身動ぎもしなかったオーフェンは、ソファに仰向けでころがされている。
 その本人が言っていたほど老いた気はしないが、確かに一緒に旅をしていた時期よりは歳を重ねていると思う。それは目の下にうっすらついたクマだったり、気難しい顔をよくするのか眉間の皺になりかけている痕だったり、以前はよくしていた遠くを見る目はあまり見ない。ただたまに表情が抜け落ちた顔をする。
 キエサルヒマ大陸をともに旅していたときに着ていた服は、最近見ない。髪も少し短くするようになったし(書類仕事の邪魔になるらしい)、それでも相変わらず黒ばかりの服を着ている。現に今日も黒づくめだ。と、オーフェンのブーツ(これは昔から履いている)を抜き取って傍らに投げ捨てたエドが、オーフェンの足を背と背もたれに挟むようにして半ば強引に腰を下ろした。
「私も泊まるが」
「え?」
「馬車がないのだろう」
「そうですけど、ソファふたつですし」
「問題ない」
「・・・えっと、寝ないんです?」
「眠るが?」
「あ、床で?」
「いいや?」
 最近、エドとの会話は慣れてきたつもりだった。その思考も意外とわかりやすい。構成も性格が出るので――そういえば。
「そういえば今まで聞いたこと無かったと思うんですけど」
「なんだ?」
 魔王と呼ばれる男の泥酔して緩んだ寝顔――悲愴感が漂っていない寝顔はバグアップズ・インでもほとんど見かけたことがなかった――を眺めていた男が、こちらへ向き直り返事をする。ここで視線だけだったり、返事だけだったりしないところは、お互いの関係が昔とは変わったという証なのかもしれない。
「なんで同じ呪文なんですか?・・・って聞いてくる人がいるんです。僕も知りたいですけど」
「――何故だったかな」
「同じクラスだったからとか」
 黙考するかのように視線を逸らしたエドの横で突然オーフェンがむくりと起き上がった。目をしょぼしょぼとさせながらおもむろにシャツを脱ぎ捨て、スラックスの前を寛げた。そのままずり下ろそうと足を上げようとしたらしいが、エドの背とソファに挟まれた足が動かなかったのか、しばしもがいて抜け出せた左足でエドの腕をガシガシと数度蹴ってから――諦めたようにポトリと上半身がソファへ戻った。
 起きている二人はともにその動作を見ていて、ともに同時に視線を合わせた。何かを牽制するかのように。
「覚えていないな」
「そうですか」
 オーフェンを奪われたときのまま突っ立っていたマジクは、オーフェンの顔側の正面のソファに座る。間に置かれたローテーブルには先ほどから飲んでいる酒のビンが何本か乗っていて、空の数本は倒れて(マジクの記憶によれば酔ったオーフェンの手が当たったせいだ)いた。
 斜め向かいに腰を下ろしたエドが再びオーフェンを見やって、ぽつりと呟く。
「・・・何故脱いだんだ?」
 まさかこの緊張の中そんなことを聞かれるとは思わなくて、マジクは拍子抜けしたようにエドを見た。
「いや、寝るときはいつもほぼ裸みたいなもんでしたけど」
「いつも?」
「言ってませんでしたか?うちの宿屋に泊まって・・・いや住み着いて?いたんですよ、1年ちょっとくらい」
「ああ、なるほど」
 そういいながら小さく頷くエドを見たマジクは、もしかして自分が疑うような仲ではないのだろうか、と急に恥ずかしくなった。何となく、オーフェンに近づく男はどうも牽制したくなるのだ。それが嫉妬だとは認めたくないけれど。
「俺と寝ているときは既に裸だったからな」
 自分が――無意識に構成を編んでいたことに、相手の構成を見て気がついた。動揺しながら打ち消すと、相手の構成も消えた。エドは無言で何を考えているかわからないが――マジクはただ、決心した。
 今日は絶対に一人でこの場を去らない、と。








 意識の浮上と同時、頭痛に襲われた。目を開くのも億劫なだるさに圧迫感、寝心地の悪さ。最近はあまりなかった目覚め方に一瞬自分の年齢を忘れそうになる。足を動かそうとして右足だけ動かせず、なにやら生暖かい感触に、彼は恐る恐る目を開けた。
 足元に座っている男の姿が見えた。黒い長髪の隙間から唇と傷が見える。ただ気配は張り詰めていて、頬杖をついているというのに寝ていないことは明らかだった。こちらが目を覚ましたことも認識しているだろう。足は――その男の背中とソファの間に挟まれて身動きが取れない右足はともかく、左足が男の左腕を蹴っているような格好でそこにあった。
「・・・ワリィ」
 言って、左足をそっと退かす。起き上がりたくはないが仕方なく上半身を持ち上げる。右足を抜こうとして――やはり抜けなかった。
「おはようございます」
 左側から唐突に挨拶が来る。反射的に、よぉ、だかなんだかを呟いて見やると、酷い顔をした青年が向かいのソファに座っていた。その間のテーブルにはいくつもの酒瓶が置かれている。
 頭痛を意識の外へおいやり、しばしそのまま沈黙する。ふと目に入った床に自分のシャツが落ちていたので、手を伸ばした。もぞもぞと着込む間も静かに時が流れている。そして。
「なあ、お前ら何してるんだ・・・?」
 小さな嘆息が聞こえてきた。それも同時に、正面と左側からだ。
「お前はしばらく酒を控えたほうがいい」
 そう言って立ち上がった長髪の男――エドが、いつもよりは若干何か感情がこめられた目で見下ろしてきた。突然開放された右足は肌寒く感じたが、とりあえず引っ込める。するとエドはそのまままた腰を下ろしてきた。
 見渡す。疲れた顔の二人と、記憶より2倍はある酒の空き瓶。他は彼の靴が散乱してるくらいで、綺麗に整頓された――といってもあまり荷物は無い――部屋の棚から二人に視線を戻した彼は言った。
「ええっと・・・俺、なんかしたか?」
「まあ、ちょっと」
「あれは絡み酒か?」
「え、マジかおい。悪かっ・・・たな・・・うん」
「覚えてないんですか?」
「うーん。覚えて・・・ねえなあ」
 所在なく頭をかく。二人が再び嘆息したところで、どうやら解散の流れになりそうな気配を感じた。つまり二人の空気が和んだのだ。
「いやほんと、覚えてねえけど悪かった」
 エドから渡されたブーツを履きながら、オーフェンはふと顔を上げる。
「お前ら寝てないのか?」
「積もる話もあるんです」
「は?お前らに?」
「いろいろとな」
「ふーん」
 興味が無いといえば嘘になるが、あまり突っ込むのもどうかと思ったので、靴の具合を確かめるために腰を上げた。正直だるい。窓の外はまだ夜明けまで少し時間がある色をしていたので、もう少しだけならゆっくりしていてもいいのではないだろうか。
 そう思って、腰を落とした。
 腰を上げかけていた二人が、どうしたのかと視線で問いながら見下ろしてくる。
「いや、俺ももう歳だしちょっと頭痛するから、もう少し休んでこうかと思って・・・。お前らは帰れよ。徹夜だったんだろ?」
「いえ、オーフェンさんが起きてるなら」
「いや帰れよ」
「お前が帰るならな」
「・・・なんだよお前ら急に」
 どうせなら一人でゆっくりしたかった。顔の前で組んだ手に額を押し付けて、そうぼやく。そしてなんとはなしに、
「こないだサルアと飲んだときにお前らの仲はどうなんだって聞かれて俺なりに気にしてたつもりだけど、まあ今まで何度も死線をくぐって来たしそう気にするほどの―」
 ピシリ
 何かの音がして、オーフェンは言葉を止めた。待ったが、音はしない。しかし今確かに何かの音はした。手を額から離し、目の前のテーブルを見る。空き瓶のうちの一本にヒビが入っていた。持ってくるときにぶつけたのかもしれない。
「気にするほどのもんでもないって言ったんだけど。なんかそうじゃねえとか言ってたな・・・。仲が・・・仲がなんて言ってたっけか・・・。あ、お前らじゃなくて俺とお前らが、だったか?」
 ピシリ
 また音がして、オーフェンは口をつぐんだ。テーブルの上にあった酒瓶の3本ほどにヒビが入っている。そのビンに一番近いところにいる長髪の男を見上げる。無表情でこちらを見ているその男に、ビンを指差しながら尋ねた。
「昨日、この辺のビンでボーリングでもしたのか?」
 エドは小さく頷き、
「ああ」
 続いてマジクが、
「酔ってましたからね」
 と続けた。
 この二人が仲良くボーリングをする姿なんてまったく想像が出来なかったが、この二人がそれでいいというならそれでいいのだろう。
 オーフェンは自分にそう説明して、軽く頷いた。
「それで俺とお前らの仲はちゃんとしておけって言いやがるから、じゃあまあたまには飲むかとお前らを誘ったわけなんだが、俺一人さっさと寝ちまったみたいで悪かったな」
「悪かったなんてとんでもない」
「そうだな。疲れてたんだろう」
「・・・お前らの口からそんな優しい言葉を聞くなんて思いもしなかったぞ、俺は」
 若干目頭が熱くなり、片手で顔を抑えるオーフェンのそばにマジクが歩み寄る。膝を折って視線を合わせてくるマジクに、オーフェンは違和感を覚えた。
(なんだこの顔・・・)
 笑っている。少しだ。同時に苦そうな顔をしている。が、何かの決意を秘めたような強い力が目に宿っている。
 まばたきをして、隣に立っていたエドを見上げる。マジクほどではないがうっすらと表情が見て取れた。
(これは若干・・・怒っている?)
 何かおかしなことでも言ったのだろうかと、瞬きをして自分の言葉を反芻する。人に言いたくも無いことはうまく隠して伝えた――はずだ。
 微妙な空気が流れ出した頃、窓から淡い光が入ってきた。どうやら夜が明けるらしい。窓から視線を戻すと、エドとマジクが頭の上でじっと見つめあっていた。珍しいこともあるものだと思うと同時若干気色悪い。
「お前ら、仲良くなったんだな」
 バッと二人同時に睨まれて、オーフェンは反射的に身構えた。そして、
「あの人が相手だったわけですね」
「市長か」
 という問いに、自分が何か大きなしくじりを犯したのだと、気がついた。













「おとーさん、おうちはいらないの?」
「うん・・・」
「おかーさんはおそうじでいそがしそうだよ」
「うん・・・」
「じゃあ、おかーさんには、おとーさんが庭で行き倒れてたって言っておくね!」
「うん・・・」
 元気な足音が遠ざかっていく音を聞いて、自分の家の庭で力尽きたオーフェンはそっと涙をぬぐった。
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