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「おいマジク行ったぞ!」
「わかってます!って、あああっ!」
「ちょっ!」
「待ってえええええ!」
「ワハハハ!このマスマテュ」
 ボグッ
「かつて無い早さだったね、兄さん」
「マジクお前は向こうからだ!」
「はい!」



 逆様になって頭が花壇に半分くらい埋もれている地人のそばに、同じような格好をした少年が座っていた。
 逆様になっている方を見るが、プスープスーとかろうじて土から出ている鼻から呼吸音がするところを見ると、少なくとも死んではいないようだ。
「ねえ、ドーチン」
「はい?」
 花壇に腰を下ろし分厚い本を開いている少年を覗き込んだ。
 顔を上げたその少年の分厚い眼鏡に、自分の姿が映る。
「オーフェンたちは何をしてるか知ってる?」
「ええ、まあ・・・。兄さんも同じことしてましたし」
「そうなの?」
「ええ。えっと、この」
 ゴソゴソと分厚い本のページをめくった。
 表紙より少し後に、紙が折りたたまれて挟まれている。
 小さな手が、折癖がついた紙を破らないようにそっと開いた。
「猫がですね」
「あ、かわいい」
 毛並み一本一本を美しく描かれた猫がいた。
 青色の目がじっとこちらを見ている。
「迷い猫?」
「はい。チラシを見てもわかると思うんですけど、お金持ちのとこの猫みたいで」
「報酬が破格ね」
「でしょう?」
「なるほどね」
 そういいながら、背の低い地人の手元を覗き込むために折っていた腰を上げる。
 ついでに伸びをしてから、二人が消えていった路地を眺める。
「いたの?」
「いたらしいです」
「へえ、似た猫もいるのねえ」
「え?」
「だってその猫、さっき抱っこしてたんだけど、ちょうど通りがかった人が自分の猫だっていうから渡した猫にそっくり」
「え?」
「額にハートマークの茶色の猫でしょ?そのチラシはちょっと色あせてオレンジっぽいけど」
「・・・」
「お礼にそこのアイス買ってもらったの。三段で」
「えっと・・・」
「あの猫の兄弟かな?だってそっくりだもの」
「・・・」
 普段からそんなに口数が多いほうじゃない少年が押し黙った。
 先ほど食べたアイスがおいしかったので、今度は自腹でも買っていいなと思いながら、少女は顔をめぐらせる。
 と、広場の向こうからぼろぼろになった少年が嬉しそうな青年と猫を連れて歩いている姿を見つけた。
「よう、クリーオウ」
 片手を上げて声をかけてきた黒で統一された服を着た青年に、少女――クリーオウは手を振って答えた。
 そして少年――マジクの腕の中のオレンジ色の猫と、地人の少年――ドーチンの手の中のチラシを見比べて、
「ねえオーフェン、その猫ちょっと違うんじゃないかしら?」
「なに?」
「ほら、額。その子Mの字でしょ。チラシの子はほら、ハートマークだもん」
「――チッ」
 愕然としたマジクの手からもがき逃げ出した猫は、すぐに塀の向こうに姿を消した。
 肩を落とすマジクの頭をぽんと叩いたオーフェンが、
「よし、次だ」
 というのを聞いて――マジクはその場に倒れた。
「もう無理ですう」
「おいおいこんなんで体力尽きるなんて、お前何してたんだ?」
「うう」
「もっと体力をつけないとならんからな、明日も荷物持ちだ」
「ううう!」
「あたしの荷物も持っていいからね、マジク。協力するわよ」
「ううううう!」
 地面からうめき声が聞こえてくるのはとりあえず無視して、クリーオウは顔を上げた。
 昼寝から覚めたのか、頭の上でレキが伸びをしている。
「でもさっきの猫、可愛かったわね」
「ああ」
「でもレキのほうが可愛いから、あたしはいらないわよ」
「誰も飼うなんて言ってねえだろ」
 下のほうから溜息が聞こえた。
 見ると、ドーチンが分厚い本を閉じてしまっている。
 そして隣に植わっていた兄を土から引っこ抜く。
「あ、抜くんだ」
「起きたときにそのままだと何を言われるかわかりませんから」
「そうよね。弟妹も気を遣うのよね」
 ドーチンが顔を上げてクリーオウの顔をまじまじと見た。
「なに?」
「いえ、そういえばクリーオウさんにもお姉さんがいたなと思って」
「そうよ。知ってるでしょ、だってもともとオーフェンは姉さんの」
「おい、そこ。人の過去を穿り返すな」
「黒歴史?」
「まさにそれだ」
 黒い身なりなだけに、赤いバンダナが目立つ。
 風にパタパタとバンダナの余りがなびいた。
「・・・帰るか」
「うん!」
 よろよろとマジクが立ち上がった。
 よく見ると顔にも引っかかれた傷がある。
 可愛い顔がちょっとだけ台無しだ。
 広場を見渡した。
 先ほどマジクの腕から逃げ出したと思われる猫が、近くの家の屋根からこちらを窺っていた。
 頭上のレキもそちらを見ている気配がする。
「ねえレキ、猫は好き?」
 尋ねるが、そばにあった花壇の花に夢中らしい。
 前足で花をつつくような動きをしている。
「レキのほうが可愛いもんね」
 ふふ、と笑った。
 レキは言われたことがわかったのかわかっていないのか、クリーオウの頭にぐりぐりと自分の額をこすりつけている。
 まあたぶんわかってないんだろうな、と見ていたドーチンは思った。
「じゃあ、またね」
「はい」
 反射的に手を振り替えして、ドーチンは去っていく3人の後姿を眺めていた。
 そろそろ日が傾いて来たので、今日の寝床を考えなきゃいけないなと思いつつ。
 昨日場所を拝借した馬小屋はもう無理だろうと、今朝の持ち主の剣幕を思い出す。
「何が・・・悪いんだろう?」
 つぶやいた声は晩御飯の買出しに活気付いてきた広場の喧騒にかき消された。
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