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 馬車を降りた門の前で、見慣れた姿を見つける。足元を見ながらくたびれた歩き方をする、髪色とは正反対な、顔色の冴えない男だ。確認されたヴァンパイアを処理しに行ったのは正午に差し掛かるところだったから、2時間程度で行って戻ってきたことになる。
「早いな、マジク」
 弾かれたように顔を上げる男――マジクを、オーフェンは眺めた。いつもはぼんやりと顔を上げるか先に気づいているので、珍しい反応だ。そう考えるオーフェンの前にマジクはちょこちょこと歩いてきて、止まり小首を傾げてみせた。
「市議会会議、でしたっけ」
「ああ。学校に戻るのか?」
「はい。午後最後の授業を・・・出ろといわれたので・・・」
 疲れている男がさらに疲れた声を、絞り出すように口にした。気の毒なと思う反面、自分もこれからまだやらなければならない書類仕事がたまっているのだと思ってげんなりする。
「行こう」
 声をかけると、マジクは――しっかり大地を踏んでいるのか怪しげな足取りはそのままだったが顔だけは前を向いて――ついてきた。
 並んで門をくぐる。自分より少し目線が高くなった元弟子は、こちらの視線に気づいたのか少し歩調を緩めて口を開いた。
「校長は」
「ん」
「魔王術の詩にセンスが無いって言われたらどうしますか」
「ブッ」
 突拍子もないことを言い出したマジクは嫌そうな顔を隠しもせずに先を続けた。
「構成とかじゃなくてその、詩そのものにセンスとか言われて」
「えっと・・・ラッツにか」
「ええ。僕の詩には虚偽とか嘘とか人間関係に苦労しそうな単語がいつも入っていて、人間不信なところを見破ってくださいといわんばかりの」
「すまなかった」
 みなまで言わせてはいけない――そう思い、早口に謝罪を述べる。マジクは一瞬口をつぐんで、小さく息を吐いた。
「・・・いえ。本当のことですから」
「・・・」
 また視線を下げたマジクを見やる。どうフォローしていいものかわからないというか、そんなことを気にしたこともなかったオーフェンは、とりあえず気になったことを聞いてみることにする。
「そんなに同じようなこと言ってるのか?」
「言われて見ると、そうですね」
「そうか・・・」
 魔王術はでたらめだと思っていたが、もしかしたら個人個人に何か個性と言うか、きっかけがあるのかもしれない。精度を高めるために、分析すれば何か面白いことがわかるだろうか。
「詩、ねえ・・・」
「校長の・・・僕」
「ん?」
 ふわりと足を止めたマジクが、オーフェンを見つめた。そしていつものくたびれた顔に少しだけ精彩を戻して、
「好きですよ」
 と言った。
 一瞬、そんなわけがない別の意味に聞こえて――慌ててオーフェンは首を振った。
「俺は自分の呪文なんざ覚えてねーよ」
 30を過ぎた男に儚さなんてものを感じるのもおかしいが、そんな雰囲気を漂わせる小さく笑んだ顔で、マジクは再び歩き出した。
「僕も自分の呪文は覚えてませんでしたよ、今日まで」
「俺なんか変なこと言ってたことあるか?」
 ゆっくりと歩くマジクに並び、オーフェンも再び歩き出した。教職員用の出入り口もあるにはあるが、この方角は職員用に割り当てられた休憩室が近い入口だ。
「校長の詩は・・・そうだな。僕はあれが一番好きです」
「ん?」
「と言っても覚えてないんですっけ」
「ああ。聞いても思い出さない自信ならあるぞ」
 普通に笑ったマジクを見て、何故か胸をなでおろした。疲れているのかもしれない。
「花のー」
「?」
「花の輪唱。雨は密かに道を正す。風に焼かれた傷よ溶けよ」
「――それ失敗した術じゃなかったか?」
「ええ」
「というかそのときお前いたか?」
「いましたよ。確か魔王術の成功に力を貸せと言われて見せられたうちのひとつです」
「ああ」
 言いながらオーフェンは頷いた。まだ魔王術を人に教えられるような段階でもなく、それでも何とか完成を目指して試行錯誤していた時期だ。人生で最悪な邂逅を果たしたものの――言葉は通じても意志の疎通が出来ずに非常に焦れた思いをしていたときでもある。
 悪いとは思いつつも、まだ戦争がもたらした傷が塞がっていなかったマジクに、元師匠の内臓を見せながら試行錯誤をしていたことを思い出す。思わず腹をなでた。
「ロマンチックだな、って思ったんです」
「・・・俺の話か?」
「他に誰がいるんですか。前から、知ってはいましたけど。なんとなく」
「なんか俺に似合わないと言われるんじゃないか、その単語」
「まあ、言う人はいるでしょうけど――僕はそんな師に憧れたので」
「・・・」
 校舎へ入る一歩前、オーフェンは足を止めた。二歩先で振り返ったマジクが、言葉を待っている。
 そう時間があるわけでもないのに言葉を選ぼうと思い、いくつか考える。しかし考えてもいい単語は思い浮かばず、真っ先に浮かんだ言葉を結局口にした。
「幻滅したか?」
 何に、とは聞かなかった。
 言わなくてもわかると思ったわけではない。ただ、それ以上は言えなかっただけだ。
 マジクは校舎を振り返ってから、ええ、と返事をした。そして再びオーフェンを振り返り、
「でも、いいえ」
 と続けた。
 半眼でねめつけると、マジクは何が嬉しいのかパッと顔を明るくして校舎へと入って行った。経費削減だかでろくに明かりもない、曇天の今日は薄暗い校舎の中に消えていった後姿に手を振る。いい歳のはずだが、愛嬌と言うものは残るらしい。自分には残らなかったが。
「幻滅、ね」
 ずるい聞き方をしたな、と思った。そしてずるい答え方をした、とも思った。まるで20代のときのような心持を自覚する。途端に足が重くなった気がして、目の前の校舎を見上げた。自分にとっての校舎といえばキエサルヒマ大陸の牙の塔だが――何故か、今この校舎を見て懐かしさが沸いてでた。
(歳かな)
 苦笑をもらす。自分の原点はもう、牙の塔からここに移ったのだと知るだけでも、マジクに意地の悪い質問をしたかいがあったかもしれない。
 会議で少し荒んだ気分がなんだか少し癒された気がして、オーフェンは校舎の中へと踏み込んだ。
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