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 薄暗い廊下から階段へ向かう。しかし途中で嘆息して足を止めた。いや、足を止めるほうが先だったかもしれない。ともかく校長室へ向かう体を押しとどめて、オーフェンは振り向いた。振り向き様に口を開く。
「つまり魔術ってやつは自分の願望なんだから適当に並べた言葉が無意識な本心である可能性は十二分にある、って言いたいんだろ?」
「可能性は検討するものではないよ、盟友」
「ああもういい。早く仕事を片せって言うなら今からちゃんと」
「広報部長と総務部長が呼んでいます」
「――」
「広報部長と」
「二度も言うなッ!」
 身を翻して階段ではなく廊下を突き進む。教師たちの声が微かに聞こえる廊下を音もなく疾走するその姿をちょうど見てしまった人間に、なんともいえない顔をされたのを見た気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 突っ伏してしまったその教師を見て、生徒たちは慌てたり騒いだりすることはせず静かに教科書を開き配られた紙に目を落とした。その静かな気配を感じながら、マジクはぐっと腹に力を入れる。
 黒板に自習と書いた自分の気力を褒めてやりたい反面、やはり自分は壁の染み程度なのかもしれない、と言う思いもぬぐえない。
 あと数十分。平穏に過ぎてくれれば今日はゆっくりする時間が取れるかもしれない。存在感を希釈してくる説教とか突然響き渡る爆発音とかわけのわからないタコのようなものの触手が床から生えてきてギザギザと尖った歯が並ぶ口に放り込まれそうになったりしなければいい。
 そう思いながら嘆息して首を回す。教卓に頬をつけふと目に入った廊下にいた人物を見て、反射的に立ち上がった衝撃があまりにも強かったらしい。椅子は横倒しになり静かな教室に衝撃音が響いた。
 驚愕の表情を浮かべた教師をいぶかしんだ生徒たちが、その視線の先を追う。真っ先に廊下を見た生徒でさえ後姿しか見えなかった早さで消えたのだが、確かにスウェーデンボリー魔術学校校長の姿があった。
 その後姿が完全に視界から消え去ってから騒然とした教室は、やがて生徒たちの視線がただ一人に向けられる。未だに廊下を見ている教師だ。一番前に座っていた生徒が小さく教師の名前を呼び――呼ばれた教師はビクリと反応して椅子に座りなおそうと腰を下ろし、当然そこにはない椅子の座面に尻を受け止めてもらうことは出来ず、ドスンという音を立てて、教卓の向こうへ消えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「終わった!終わったな!?もう今日は店じまいでいいんだな!?」
「ええ」
「よし。お前、娘たちと帰れ。今日はラチェだけだろうが」
「よろしいので?」
 校長室の机の上に書類が一枚もない。それはこの校舎が建てられた当初の数日しかなかった光景だが、それが数年ぶりに再現されていた。秘書は目を細めて、追いやろうとする主を眺めている。
「それで、あなたはどうお帰りに?」
「歩いて帰る」
「・・・」
「いいだろ俺だってたまには!」
「何も言っておりません」
 それでは、と、ごねるかと思っていた男は秘書としての姿勢を崩さないまま校長室を出て行った。校長と視線が落ち着かないマジクと広報部長のジェフリー・パックが残された校長室が、やにわ静かになった。それを見計らった広報部長がゆっくりと席を立つ。
「では」
「おう」
「・・・」
 二人に倣って、マジクは腰を上げた。並んで校長室を出る二人の後をとぼとぼと着いていく。先行する二人の後姿を見やる。無言だ。もしかして数時間前に教室で見たのは幻だったのだろうか。
 ふと校長の手が、ハンマーのようなよくわからないものを握っていることに気づく。本当にこれから何処に行って何をするというのだろうか。
「で、何がいいんだ?」
「今まではどんなものを?」
 唐突に前方で会話が始まった。主語のない会話についていけず、マジクは二人の背中を見るともなしに見る。
「いろいろだな。久しぶりだからパッと思い浮かぶものもねえし」
「なるほど。では子守唄は」
「子守唄か・・・。聞いたことねえなあ」
「幼少時代の想像が容易だな」
「いやお前それは――あながち間違ってねえ気もするけど否定させてくれよ」
(普通に・・・普通に会話している!この二人が!)
 今日は何度も衝撃を受ける日だ。何しろ教室で受けた衝撃は、槍が降ってくるのではないかとも思ったのだ。なにせ校長が無邪気に笑いかけて来る顔を見たのだから。
「幻覚だったかな・・・」
「ん?何か言ったか?」
 振り返った二人に慌てて首と手を振る。
「い、いえ!っていうか何のことかわかりませんし!」
「・・・校長、説明は?」
「あーそういやしてねえかもな」
 二人の足が同時に止まった。あまりというか来たことがない部屋かもしれない。出入り口の上にかかっている小さな板を見ると、音楽室、と書かれていた。
「こんな教室・・・あったんですね」
「おう。今日からな」
「今日?」
「肝心なものが中々手に入らなくてなあ。さっき届いたって聞いてそりゃもう」
 軋んだ音の先、見たことがある黒いものが鎮座していた。
「こっちだと調律できるヤツもいないらしくて。まあ、それなら俺がやろうか、って話に」
「スウェーデンボリー学校七不思議のひとつにくわえられるな」
 我先にと音楽室の黒い影に近寄っていた校長が振り返る。
「なんだそれ」
「音もなく学校を徘徊する黒い影」
「最近は足音立てるようにしてるだろ」
「校長室から響き渡る呻き声」
「・・・それ不思議か?」
「生徒は魔王というものを何かと勘違いしています。ただしておきましたが」
 校長が見慣れない優しい手つきで黒いその塊――ピアノに手を置いた。薄暗いのでよくは見えないのだが、顔つきも普段とは違うようだ。少し迷うような表情を見せている。
「夜だし、屋根は開けないほうがいいか?」
「校舎に残っている生徒もいるだろうが、まあ七不思議のうちのひとつが埋まるだけだろう」
「んじゃ、ま」
 どこかウキウキした様子でピアノの蓋――マジクは屋根がなんのことがわからなかったのだがどうやら屋根とはピアノの巨大な蓋のことらしい――を開ける校長から、広報部長に視線を移す。
 腕組みをしているその男に、マジクは恐る恐る話しかけた。
「あの・・・明かりつけなくても?」
「暗いほうが風情があっていいだろう」
「経費削減って言ってんだ、今のは」
「はあ」
 鍵盤の蓋が開けられた。そして木で出来た恐らく校長手製の椅子に、校長が腰掛ける。
 滑らかに動いた指から音が漏れた。
「ひでえ音」
 見えない表情に苦笑が浮かんだのだろうか。指遣いを見てみたいとは思ったものの、その声音をどんな顔で言っているのかが気になって仕方が無かったので、場所を移動する。
 大きなピアノを挟むと、校長の肩から上しか見えなかった。その横に広報部長が静かに立っている。校長は数音鳴らしては立ち上がり、ピアノの中に手を突っ込んでいる。先ほどはハンマーだと思ったその工具は、どうやらピアノの調律に使うようだ。
「調律なんて、出来たんですか校長」
「まあ、見よう見まねでな。専門家には遠く及ばねえが」
 しばらくすると、マジクにも音が変わったことがわかった。一音一音だと気づかないのだが、いくつかの音をまとめて弾いたときの調和が違う。
「後は錆びも落としてやらないとな」
「ピアノって錆びるんですか?」
「ああ。まあ、時間がかかるから今度な」
「では」
「わあってるよ。で、何がいいんだ?」
 挑発的な顔で、校長は広報部長を見上げた。
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