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 大人の女性、というものらしい。
 確かにピノコくらいの幼い子がこの手のものをつけている記憶はない。
 白や黒のものは見たことがないでもないが。
「なあ、ピノコ。大人の女性っていうからには、その、ピノコにあうサイズはないんじゃないか?」
「・・・」
 予想していた反論がなかったので、不安になり視線を左下に落とした。
 まっすぐ前を向いて下唇をかみ締めている。
 たまった涙をこぼすまいとしているようだった。
 手のひらの中の小さな手が、強い手で握り返してくる。
 ――たぶん、先週見ていたドラマに影響されたのだろう。
 大人の女は足の美しさで決まるとかなんとか、そんな台詞があった。
 集中して見ていなかったので若干違うとは思うが。
「・・・帰るか?」
 返事は無かった。
 その代わり手が引っ張られた。
 歩き出したピノコにあわせて小さな歩幅で着いて行く。
 何かを言うだけ無駄な気もしたし、何かを言わないといけない気もした。
 所詮私には女心というものはわかりはしないのだ。

 デパートは休日ということもあり多くの人でにぎわっている。
 エスカレーターで手を繋いでいる私たちの姿を遠巻きにする視線は無遠慮だ。
 ピノコは慣れたのか気にしていないのか、どちらにせよこれ以上機嫌を損ねるものでないことはありがたい。
「ちぇんちぇ」
 不意に、ピノコが口を開いた。
 巨大なビルの吹き抜けをゆっくりと上がるエスカレーターの中ほどだ。
 呼ばれてからその先を待つが、まっすぐと斜め上を(恐らくエスカレーターの終点を)見たまま口を開かない。
 視線の先に何かがあるのかと、追えば破れたストッキングが目に入った。
 小柄なすらりとした女性の足だった。
 慌てて目を逸らしてピノコを見る。
 なにやら晴れやかな顔をしていた。


「やっぱり女は見た目じゃないのよさ。あんなみっともないのに気がつかないなんて、恥ずかしいのよさ」
「・・・そうか」
「♪」
 身だしなみに気をつけるようになったらしい。
 新しいブラシや、毛玉をとる道具なんかを抱えて嬉しそうにしている。
 私はといえばハンドルを握る手が妙に汗ばんでいる。
 何しろ今と同じ台詞を、エスカレーターに乗ったまま言ったのだ。
 前にいた女性が振り向いて送った視線が未だに離れない。
 それでも私の服を手入れすると嬉しそうに話すピノコには何も言えず、私はゆっくりと息を吐いた。
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