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「あれ、校長は一緒では?」
「今日は私と帰宅するよう指示されております」
「会議かな」
「…浮気はひっそりやってほしい」
「えっ!?校長が浮気!?」
「するわけないでしょ馬鹿言わないで」
 腑に落ちない顔をしたサイアンをさらに一蹴して、魔王の娘は教室の扉前に佇む秘書に近寄った。その後ろをサイアンとヒナが着いてくる。
「それでは行きましょう」
「待って」
 唐突にヒナが待ったをかける。沈黙した一同の耳に小さな旋律が届いた。魔王の娘は憮然とした表情で、騒ぎ出す友人二人を見る。
「なにこれ」
「どこから…いやなんなんだ!?」
 魔王の娘は小さく息を吐いてから、くるりと秘書を振り返った。にこりと微笑んだ秘書は大事でないと言わんばかりに答えを明かす。
「今日、音楽室ができたのでピアノの調律をしているのです」
「えっ!」
「音楽室…ですか」
 二人の顔に行きたいという文字が浮かんだ。秘書はすぐに首を振る。
「繊細な作業ですから、誰も近付けてはいけないと言われています」
「ちぇー」
「そのうち行くことになるからいいんじゃない?」
 メロディのない、和音だけが響いた。音のずれがひどいねと呟くサイアンに、ヒナが同意する。
「調律大変そう」
「行くよ」
 サッと教室を出た魔王の娘を追って、二人の生徒と秘書が歩き出す。階段を降りればもう音は聞こえず、二人の頭からはすっかりピアノのことは抜けたようだ。
 それを感じて、魔王の娘は小さく嘆息した。隣を歩く秘書が微笑みながら見下ろしているのも落ち着かない。
 昇降口で友人たちと別れ、馬車を待つ。夕日ももはや見えない空の明かりで、魔王の娘、ラチェットは男を見た。
 夢まで覗ける父親にも踏み込ませない領域がある。そのいくつかのうち、この男についてもそうだ。意思の揺らぎさえ感じとれない。本当になにも考えていない人間などいるわけがないのに。
(…人間じゃないの?)
 涼しい顔でこちらを見ている男は、目が合うと愛想よくにこりと微笑んだ。うすら寒い。
「ねえ」
「はい」
「私一人でも帰れるんだけど」
「そうでしょうね」
「着いてこなくていいよ」
「しかしそれでは校長に叱られますので」
「あなたが一緒のほうが」
「危険ですか?」
「うら若き乙女と二人にするとか、父さんどうにかしてる」
「その点は問題ないとわかってるのでしょう」
「信用?でも私は信用してない」
「違います。私の興味は自分のことだけだと知っているからです」
「…?」
 自分、が誰のことを指しているのか、その瞳を覗き混もうとして、ラチェットは後ずさった。
 ちょうど来た馬車に乗り込むと、その場から動かない秘書を睨み、御者の男へ声をかける。もとより秘書は乗るつもりはなかったのだろう。会釈をすると悠々と手を振り彼女が乗る馬車を見送った。
「…さて」
 校舎を振り替える。目当ての教室を見上げて、秘書は昇降口へと足を向けた。
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