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 魔王と呼ばれる男を背負い、彼は夜空を見上げた。
 さすがにこの状態で自宅に送り届けたら一体どういうことになるか考えるだけでも恐ろしいので、このまま学校に泊まることにした。
 先ほど洗った二人分のローブと下着が、張られたロープに吊るされてパタパタと音を立てる。夜が明けるまではこのまま乾かして、乾ききらなかったら魔術で乾かそうと先ほど背中の人と決めたのだ。
 不測の事態に備えて用意しておいた、と、音楽準備室から真新しい下着を出してきたのを見たときは、どこまで計画的だったんだろうと疑ったのだけれど。
 その、同じように景色を眺めているだろう人の体温を背中に感じて、彼は俯いた。
「明日な」
「はい」
「腰が立たなかったら、俺は容赦なくお前のせいだと周りに言うからな」
「えっ!?」
「お前と散々飲んで頭が痛くて立てないって言うからな。口裏合わせておけよ」
「…はい」
 風が吹いて髪が顔にかかる。背中から伸びた手にその髪をかきあげられた。
「お前も髪切れば?」
「短いの、似合わないんです」
「昔くらいにすりゃいいのに」
「そんなに若くはなれませんよ」
「ふーん。まあ昼行灯にはちょうどいいよな」
「髪、切ったら恋人にするキスしてもいいですか?」
 しばらくの間の後、馬鹿言ってんじゃねえよとと後頭部を軽くこづかれた。
 
 
 
 
 
 
 
 数日後、魔王の娘に散々と諭された後に顔を出した校長室で、やはり娘の父親だけある彼にはひとしきり笑われた。それも会議中の皆の前でだ。
 会議中何度も笑いをこらえる彼にふつふつと怒りがこみあげるも、なんとか自制して乗り切る。ようやく終わった会議の後に呼び止められて、振り返る。
 彼の手が目隠しをしてきて、避けるまもなく吐息と唇が触れ、あっという間に離れた。
「ご褒美」
 ニヤリと笑って部屋を出ていく彼の背中に、
「目隠しされてたんじゃわからないじゃないですか」
 と呟いた。
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