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「誰とは言わないが」
「言ってもいいのに」
「たぶんそのせいでこんな状態になったのだと推測される」
「見てなかったのに?」
「この惨事を見れば大体予想がつくだろう」
「まあ、否定はしないけど、今回は違うかもしれないよ」
「せいぜい、違うのは誰が何処で倒れているかくらいだろう」
 そう言ってフォルテが見回した教室は、備品の残骸と数人の生徒が倒れている、なんとも殺風景な光景だった。
 しかも倒れている生徒の中にこの惨状を作り出した本人たちがいない。
 それに気づいたフォルテは、隣に佇むキリランシェロを見た。
「たぶん、今頃はあっちの廊下の先の先くらいだと思う」
「――そうか」
 フォルテが教室から出て行こうとするので、キリランシェロは慌てて手を振った。
「これ僕一人でどうにかしろって言うの?」
「いや。放っておけ。どうせそこの二人はいずれ気づくし、その頃には応援が来るはずだ」
「応援って」
「私がこれから先生に知らせに行く。10分後には来るはずだ」
 そう言い置いてフォルテは教室を出て行った。なんとなくその後姿を見送って、キリランシェロは教室へ視線を戻す。
 今にも刺さりそうな具合に折れた机や椅子――だった木片――が床の半分を占めていて、コミクロンの体は半分ほどその下敷きになっている。もう一人は下敷きになることは避けられたようだが、割れたガラスが頭や背中に掛かっていた。とりあえず刺さってはいないようだが。
 そして教室の前方に顔を向けると、丸い穴が見えた。向こう側から恐る恐るこちらを覗いていた影が、さっと姿を隠したところまでも見えた。
 キリランシェロは顔をまっすぐに戻して、小さく嘆息した。
 
 
 
 
 
「修理の腕が上がるのはいいことか、悪いことか。どう思う、キリランシェロ」
「まあ、ないよりはある方がいいと思うけど」
 魔術で直しきれなかった傷を縫ってもらったハーティアが包帯を気にしている。たぶん今の質問は適当だろうと思ったので、キリランシェロも適当に答えた。
 数人がかりが30分ほどで修復した教室は、いつもの教室だった。つまり物が壊れているかいないかだけの差で、殺風景だ。
「あの二人がここじゃなくて、もっと運動場みたいな何も無いだだっ広いところで喧嘩してくれればって思うのは俺だけかな」
「二人が自然と行くところって言ったらここだものね」
「だからその二人が喧嘩するときに向かっちゃうような場所を作れないかな」
「・・・誘蛾灯みたいに?」
「そう。誘蛾灯みたいに」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 二人は突如背中を向け合い、どこからどうみてもそうとわかる臨戦態勢で周囲を見渡した。
 天井や床の向こう側までにも神経を張り巡らせてじっとりと脂汗をかく時間を経てから、ハーティアが口を開く。
「今の聞かれてないよな」
「こっちにはいないよ」
「こっちもだ」
「・・・よし」
 しばらくそのまま警戒していた二人が、同時に嘆息した。
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