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 よくこんな状況で盛れるなと感じたと同時、そういえば年下だったことを思い出す。
 さらにいえば溜め込んでからでないと行動に出せないのは昔からだったことも。
 たった数日の――もしかしたら数時間の――復権は首輪というおまけつきだったが、こいつに校長と呼ばれるのは、慣れた今でもざわざわする。
「なあ」
「イヤです」
 オーフェンは口の中の飴が飛び出ないよう奥歯で噛みながら嘆息した。
 旅支度を終えた元弟子の力は、昔に比べれば強くなった。
(それでも五分がいいとこか?)
 掴み押し合っている両手が痺れてくる。
 何せ椅子に座ったままでなるべくなら椅子ごと倒れたくはないと足腰にも力を入れているので――倒れて足を使うほうが逃げやすいと思ったりもしたのだがせっかくクレイリーがそのまま残していてくれた少しお気に入りの椅子だったので――高いところから体重を掛けることで力を全て押し合いに使える相手よりは不利だった。
「僕は」
「んだよ」
「餞別が欲しいです」
「やらねえよ」
「魔術戦士騎士団の隊長にはあげたのに?」
 しばらくその言葉を反芻したあと、急激に力が抜けた。と同時に手を離して静かに佇むだけとなった元弟子を見やると、20年前を思い起こさせる子供のような顔をしていた。
 しばらく黙ってその顔を見てると、顔を背けた。それでも出ていこうとはしない。
「あのな、アイツが何を言ったかは知らねえが、アイツにやった餞別はそこの飴一掴みだからな?」
「知ってます」
「じゃあ飴でいいな?」
「いやです」
「なんでだよ」
「だってエドは欲しいものをもらったんでしょう?」
「まあ飴を寄越せとは言ったな」
「僕だってもらってもいいでしょう?」
「俺の心がすり減るもんじゃなけりゃな」
「何を今さら」
「今さらってお前…」
 ガシガシと頭を掻いて、オーフェンは半眼で、段々としょぼくれていく元弟子を眺めた。このまま後二分もすれば諦める気がするしその勘は恐らく的中しているだろう。ただ。
(拗ねられて雑なことされんのもなあ)
 最近、元弟子の扱いがわからなくなってきた気がする。昔のように扱うには元弟子はあくまでも元の弟子で、大人で、そして男だ。何を求められているのかわからない危機感と相まって、非常に鬱陶しい。
(いっそのこと何が欲しいのか聞いてみるか?)
 先ほど迫ってきた雰囲気からすると、十中八九アレしかないのだが。
「なあ、念のため聞くけどよ」
「…はい」
 諦め一歩前くらいの顔をした元弟子が顔を上げた。目の下のくまがこのところ一層酷い。
「何が欲しいんだ?」
「ハグさせてください」
「…は?」
「校長がハグするんじゃなくて僕にさせてください」
「俺からした記憶もないが」
(何だ、そんなんでいいのかーー)
 正直拍子抜けした、と思う。
 まあそれくらいならと、立ち上がって軽く両手を上げた。
 パッと顔を上げた元弟子が勢いよくぶつかってきて、腕ごと抱きすくめられた。頭を撫でてやろうかとも思ったのだが腕を動かせなかったので、少し高い位置にある元弟子の肩に顎をのせた。
(父親にはこんなことしねえだろうしなあ。恋人なら別れはキスだろ?…母親か?どっちかっつうと母親が旅立つ息子にするイメージだなこりゃ)
 それから数度の呼吸を経て、元弟子は離れた。
 特に別れの言葉もないまま去っていく後ろ姿を見て、オーフェンは呼び掛ける。振り返った顔面めがけて飴を投げ付けると、元弟子は容易く受け止めた。その一瞬の隙に机を飛び越し元弟子の胸ぐらを掴みあげると、口の中の飴を元弟子の口の中へ押し込んだ。
「特別に飴もやるよ」
 止まる相手の肩を押して部屋から押し出し扉を閉めた。扉の向こうから「甘い」という呟きが聞こえたので、
「それはレモン味だ馬鹿」
 と答えて椅子に戻った。
 扉の向こうの気配は数秒後に消えた。
 机に頬杖をつく。
(今度から奇抜な飴にするかな…)
 今度がないことを知りながらオーフェンはぼんやりと口の中のレモンの名残を楽しんだ。
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