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「いっ、痛いです!オーフェンさん!」
「…?」
 半分開けていた目を、訳がわからないまま瞬かせる。ぼんやりと映った人間らしいものは、立ったまま必死に自分の下半身を庇う格好をしていた。いや、庇うというよりは何かを引き剥がそうとしている。
 寝起きの頭が段々と覚醒するにつれ、半泣きで呻いているのはマジクで、足を捕む手を引き剥がそうとしていることがわかった。つまり少年の細い足を、血管が浮き出るほどに力を込めた腕が掴んでいるのだ。
 男の手である。相当な力らしい。その手の持ち主を視線で辿って、彼はようやく少年の足を離した。
「わりぃ…」
「ワリイじゃないですよ!なんで起きたあともすぐ離してくれないんですか!食べ物持ってきたのに!!」
「あ…?飯…?」
「これ絶対に痣とかになりますよね。折れてたりしたらどうしよう。ちょっと聞いてます?大丈夫ですかって聞きたいですけど今大丈夫じゃないのは僕の方な気がしますしこんな力出るなら大丈夫ですよね?」
 そう捲し立てる少年を目の端に映しながら、彼は少年の足を掴んでいた手を見る。よほど強い力で握っていたらしい。冷たくなっていた手に、血液が運んできた熱が通ってむず痒く感じた。
「…これ本当に折れてないですよね」
 わざわざズボンをおろして自分の足を眺めるマジクの生っ白い足に、くっきりと赤い手の痕がついている。指先の辺りは既に青紫色になっているようだった。
 そのほそっこい足をしばらく眺めた彼は不自然な腫れが出てこないことを確認し、まあ大丈夫だろと、折れてないか必死に訴えるわりには平気で立ったままの少年に言った。
「やだなぁこのまま学校いくの」
 ちらり、と上目遣いにこちらを見た少年に、彼は手を伸ばす。
「足が増えちまったら、すまん。我は癒す斜陽の――」
「いいいやいや病人は安静が一番ですよ行ってきます!」
 構成も編んでいなかったのだが、それすらわからない少年は慌ただしく彼の部屋――に割り当てられている客室――を出て行った。
 部屋に残されたのは少年が持ってきたと思われる、小さな皿に三切れのリンゴだ。あまり働かない脳を自覚しながらリンゴを口に運ぶ。やけに甘酸っぱく感じた。
 気づくと、窓から部屋にほんのりと赤い光が入ってきていた。どうやら眠っていたらしい。テーブルの上に乗っていた皿は消えていた。リンゴを全部食べた記憶も無いのだが、どうだったろうか――そう彼が考えていた頃、部屋のドアがノックもなしに開けられた。
 片足を引き摺るようにしてのそのそと入ってきたマジクがふと顔を上げ、彼と目を合わせた。
「あっ!」
 そして急に踵を返すと、廊下に向かって父親を呼び始めた。
「オーフェンさんの意識が戻ったよ!」
 そんなに具合が悪かったのかと、彼は自分の体を見下ろした。どことなく萎れている体に、汗がびっしりと浮かんでいる。確かにあまり良いとは言えなさそうだ。
「どうだ」
 マジクと入れ替わりに、その父親が部屋に現れた。曖昧に頷くと、マジクの父親――バグアップは蓄えた豊かな髭を撫でながら苦笑する。
「さすがに三年前に賞味期限が切れて膨張した缶詰はやばかったな」
「仕方ないだろ、四日目だったんだ…」
「まともに働きゃいいだろ」
「まともに働かせてくれるようなヤツがいねぇんだから仕方ないだろ」
「とりあえず息子の足が治るまではうちでただ働きだな」
「うう」
「まぁ軽食くらいなら出してやるよ」
「本当か!?」
 願ったりである。彼は汗で湿った黒髪をバサバサと手櫛で振り分けながらバグアップを見て、頭を下げた。
「それを狙ってあいつの足をもごうとした訳じゃねえよなあ」
「…は?あ、ああ、アレは単に缶詰を横から来たおばちゃんに取られそうになって――」
 ふと見たバグアップの目に憐れみのようなものが見えて、彼は口をつぐんだ。廊下から片足を引き摺って歩く音がする。
「すまない」
「くっついてりゃあ問題ない」
 バグアップはそう言い残して出て行った。残された彼は立ち上がろうとして目眩に襲われ、ベッドへ戻る。
 少年の細い足を握っていた手を何度か開閉させる。二日前にはあった震えや握力の低下はもう無さそうだった。
「…腹減った」
 とりあえず水を飲んで、彼は再び目を閉じた。
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