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「ねえ、オーフェ・・・あなた」
「別にわざわざ言い直すこたぁネエと思うんだが」
「うん。そんなことよりね、ケシオンが」
「アイツがなんかやらかしたのか」
「違うわよ。お料理教えて欲しいんですって」
「は?」
「でも彼、アレでしょ?いいのかなって思って」
「料理・・・料理な。・・・誰に食わせるんだ?」
「知らないわよ。と言うかオーあなたフェン以外にいるの?」
「しれっと続けたろ今・・・いや、いんじゃねえの?」
「だってオーなたンがわざわざ言い直すことないっていうから。じゃあこれからちょっと教えてくる」
「もう俺は突っ込まねえぞ。って、これからか?」
「うん。好き嫌いを聞かれたら素直に答えておくわね」
「おいやめろ」
 遠ざかる足音を聞いて、彼は舌打ちをした。ろくでもないことが待ち受けている予感しかしない。
 今のうちに逃げることを考えたほうがいいだろうか。そんなことを考えながら、彼は腕の中の赤ん坊に視線を落とす。ミルクを飲みながら寝ているようで、げっぷをさせたほうがいいのか考える。妻に聞こうとも思ったのだが、今いるところを考えると腰が引けてしまうのは確かだった。
 小さく嘆息をして、目を瞑ったままもごもごと口を動かす赤ん坊の口からそっと哺乳瓶を引き抜いた。にもかかわらずもごもごと動く小さな口がなんとも言えず、彼は微笑した。
「ふむ」
 唐突に背後から降って来た声に動じなかったのはそろそろ来るだろうという予想があったからだが、それでも小さな動揺を決して顔に出さないまま振り向いた。
「何を作るんだって?」
「まだ聞いていないよ。彼女が材料を買うときに決めるそうだ」
「・・・へえ」
 あまり掘り下げない方がいいかもしれない。普通に作ってくれることを祈るしかないのだ――旅をしていた時のようなものを出されてはかなわない。
「ところで、盟友」
「なんだ」
「こうしていると、私たちは夫婦のようだな」
 ――ミシリと、手から音がした。涼やかに笑う魔王から必死に引き剥がした視線を手元に向けると、罅割れた――程度の損害で済んだ――哺乳瓶から飲み残しのミルクが腕を伝っていた。
 眠る赤ん坊を片腕で抱えたまま立ち上がる。ソファの横に設置した赤ん坊用のベッドに時間をかけて寝かせ、柵をあげる。そしてまず哺乳瓶を直した。手と哺乳瓶を洗うためにキッチンへと足を運ぶが、軽やかな足取りが追ってくる音がする。
「盟友、その手だが」
 こいつの言葉に耳を傾けてはいけない。肘まで伝ったミルクが垂れないようもう片方の手で押さえながら、彼は思った。なまじ耳を傾ければ次何を言うのか考えてしまう。そして予想の斜め上を言うのがこの男なのだ。
「ミルクとはどんな味がするのか、知っているかい?」
 その疑問があまりにも自然な声音での問いかけだったので、彼は思わず足を止めた。
 手を見る。押さえている手は心なしかベタベタして、なんとなく甘さを想像する。
「盟友よ。君は覚えているのだろうか」
「・・・いや」
 哺乳瓶を持つ手が硬直している。動揺が出ているように思えて、彼はしばしその手を見つめた。
「ふむ。じゃあ味見してみよう」
 しくじった――と自覚する頃には肘へ流れるミルクの筋に舌を伸ばしていた男の胸倉に、片足を踏み出して体重を移動する力を乗せた掌を突き出した。当たる瞬間に目が合う。
「――クソッタレ!」
 避ける余裕があることを視線で示しておきながら舐めることに集中した男に渾身の一撃を加えながら、彼は叫んだ。
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