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 地表から空へ向かう白い光に照らされた夜空からは星がひとつも見つからなくて、それは目の前の光景と合わさり酷く歪に感じられた。
 壁に寄りかかり空を見ていた、金髪の美少年と言っても差し支えのない年齢であるのに酷く荒んだ目をした男は視線を正面に戻した。
 視界の三分の二を白い光が染めている。ずっと見ていると目が痛くなるので、暗い方へ首を回した。しばらくして、段々と弱くなってきた光源に、一度視線を戻す。光の中の影が炭化した状態であることを確認してから彼はようやく腰を上げた。もう二時間近くこの場にいたので、今さらこの光景から自分が去ることが違和感だった。
 帰途へ着く。非常に眠い。早く借りている部屋  自分の家は少し前に燃えて消えたので  に帰り、布団にくるまりたい。そんな思いで重い足を運ぶ。
「お疲れ」
 少しして、暗がりから魔王と呼ばれる男が姿を現した。伸ばしているのか伸びたのかわからない赤毛を後ろで縛り、愛想笑いを浮かべながら片手を上げている。
「…」
 軽く頭を下げて、少年は目の前を通りすぎた。数歩歩いてから、立ち止まる。
「あの」
「うん」
 振り返ると、そうするのが分かっていたのであろう魔王が頷いた。
「いいよ」
「…まだ何も言ってませんけど」
「そうだっけ?」
 魔王と呼ばれる男の嫌いなところはいくつかあったが、そのうちのひとつ、大人らしく振る舞うところが嫌いだなと改めて思う。
(なんでも自分の思った通りに進むとは  思ってたらこんなことになってないか)
「なんだい?」
 改めて魔王と呼ばれる男を見た。自分に負けじと劣らず埃まみれで、魔術で塞ぐまでもない傷だらけで、軽薄な笑顔を浮かべている。
「海を、渡ろうと思います」
「うん」
 軽く頷く魔王と呼ばれる男が、安堵したように息を吐いた。
 それを見て、荒んだ目をした美少年は眉をしかめた。
「出航は来週だろ?いつ言い出すのか心配してたよ」
  急なお願いだとは思っていますが」
「へ?ああ、違うよ。早く言わないと船が出ちゃうって思って  まぁいいよそんなこと。キリランシェロによろしく」
 そしてあっさりと、魔王と呼ばれる男は姿を消した。疑似転移ではない。ただ颯爽と歩き去ったのだが、思考がついていかなかったので、気がつくと消えていたのだ。
  は?」
 魔王と呼ばれる男が治める土地で最後に発した言葉はそんなものだった。
 
 
 
 
 
 
 遠ざかる陸地を見ようとも思わず、まだ見えるはずもない水平線の彼方の大陸を探そうともしない人間は思いの外存在した。
 新天地というよりは流刑の島へ行くという顔で船に乗る人間が少なからずいると言う事実は、彼に複雑な思いを抱かせた。
(僕は一体何に絶望して何と一緒に何を目指そうとしているのか)
 そんな哲学的なことを考えてしまうには充分な期間を船の中で過ごした頃、甲板から聞こえてきた歓声が耳に入った。まだ数日はかかると言うのに、慌てて荷物をまとめる同じ船室の二人を見て、彼は狭く天井が近いベッドに横になった。
 興奮気味の二人の会話が煩わしい。彼はただ静かに着岸を待った。
 
 
 
 
 
 
 
 
「降りて来んのが遅ぇんだよ」
「!?」
 着岸してから荷物をまとめ、恐らく乗組員たちを除けば最後に降りた彼の耳に、少し無愛想で拗ねたようでしかし馴染みのある声が降ってきた。
 慌てて顔をあげるが、思い描いていた姿は何処にも無かった。
(空耳  か)
 船での生活は余程肌に合わなかったらしい、と彼は結論付けた。
 改めて見渡すと、予想よりも華やかで、思っていたよりは酷くない街並みに感銘を受ける。と同時、地面が揺れて彼は一瞬躓いた。なかなか治らないふらつきに、足を踏ん張る。
「兄ちゃんも陸酔いかい?」
「荷物持ってあげようか」
「どこまで?」
「オー…あ、いえ…お気遣いなく」
 この大陸の情勢を鑑みるに、不用意なことは言わない方が良いと言う考えが浮かんだ。それは間違ってはいなかったが、ここ状況で人の手を借りられないと言う辛さは身に染みた。
(結局、何処に行っても独りなんだ、僕は)
 とぼとぼと歩き出す。少ない荷物はこんなときに有り難かった。乗り合い馬車で、荷物の量で追加料金を取られている男を見たときもそう思ったが。
 揺れる馬車の中、訪ねる人物に何を話せばいいのか順序立てて考える。結局まとまらないまま、彼以外降りる者がいない村に着いたときだった。
「奥に見えるあの屋根な」
 また声が聞こえた。今度は見渡したりせず、声の指図通り村の奥の家へと足を向ける。途中村人にも出会わず  家はいくつかあったがまだ新築で誰も住んでいないようだった  小さな村の一番奥の家の前へ着く。
 その家には庭があって、綺麗に手入れされていて、白くて低い柵の脇に植えられた黄色い大きな花が彼を見下ろしていた。屋根の煙突からは白っぽい煙が空へと流れていき、見下ろしたところにある玄関には黒いシャツを着た、目付きが悪いこと以外は普通の男が立っていて、彼を手招いている。
 彼は道すがら何から話そうかと考えていた己を笑い、あの煙の元で作られているものがまともな食べ物であることをまずは男に確認したのだった。
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