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親指の付け根に当たって痛かったから、確かにちょっと嫌だとは思ってた。
しばらく我慢して履いていたけれど、ふと見た時には親指の付け根に赤いラインが引かれたようについていたし、今は紫色になってて、擦れたのか血が滲んでいるような気がする。
それでも切れてしまったら履くことさえできないし、手持ちのハンカチはタオル地で切れないし切れても穴に通りそうもない。
ティッシュをこよりにしては見たものの、水溜りで濡れた下駄相手ではどうしようもなかった。
露店と露店の隙間から裏に回った場所は人通りがない。通行禁止になっているし露天商が座る隙間くらいしかないのだから当然だ。
つまり露店の隙間にたまたまあったちょっとのスペースに入ったわけで、すごく目立たない。それなのに。
「なにしてんの、お前」
僕を目敏く見つけて来た男は隙間からぬるっと入ってきた。
「君は、ハゲマント?」
「サイタマと呼べ。お前はえーっと名前は知らんがなんかアレだろ、ヒーローやってるヤツだろ?」
「僕のことは童帝って呼んでほしい」
「それは外で呼んでいいのか・・・?」
ところでこんなところで警備でもしてるのか?と聞かれて、困った。単に遊びに来たと言うとこの男はからかってくるのだろうか。どう返すか考えていると、なにか納得したように頷きながら、
「ガキはガキらしく遊べよ」
とハゲた男が言った。
「わかってるよ。流石に僕も今日は遊びに来たんだよ」
「ふーん」
「でも鼻緒が切れたんだ。もしよければなにか代わりになる細い紐か、糸でもいいんだ、なにか持ってないかな」
たぶん、言い終わる前だったと思う。ツルンとした頭部に後光がさす男がポケットからタオル地のハンカチを取り出して、縁のかがられた部分を無造作に引き千切った。
「ほい」
「・・・え?」
「切れたんだろ?」
「う、うん」
「ああ、裾が邪魔でしゃがめないのか」
気付くと脱がされていた。下駄を持ってしゃがんだ、後頭部に光が反射している男はゴソゴソと手を動かしている。
「いや、あの、いいですよそこまでしていただかなくても」
「そうは言ってももう直ったしな」
足の前にコロンと下駄を置かれた。じゃ、と言って背を向ける頭の縁が光る男の姿は、明るく賑やかな通りへ戻るとあっという間に見えなくなる。
下駄を見下ろした。
赤い鼻緒の真ん中に緑色の紐が掛かっている。恐る恐る足を入れると、先程よりは少しゆるく感じた。かと言って鼻緒がガバガバ動くかというとそんなこともない。
よく見てみると、ボタンを縫い付ける時のように、二回ほど紐が巻きつけられていた。器用だ。
何歳かはわからないけれど、彼女がいないから全部自分でやれるようになったんだと思うと、少し胸が・・・胸が。
「・・・苦しい?」
切ないというやつだろうか。あんなふうになんでも自分でやれる方がいいような、むしろそれが悲しいような。
それが初恋だと気付くのに僕は何年かかかった。
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