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 視界の端の視野ギリギリに映った人影が近づくのを待つという選択肢は全く無かった。
 昔はあの程度の森だと何度も躓いていたのになあという感想を口に出すと、隣にいた男は小さく「そうか」と言った。
 
 
 
 開墾作業中に遭遇した動物は人の腰ほどはある生き物で、結論から言えば単なる大きな猪だったのだが、キエサルヒマ大陸にはこれほど大きな猪はいなかったので、その猪に遭遇した開拓民は半分パニックを起こしながら彼の――この地で信頼でき且つ強大な戦力なのは現在のところこの黒魔術士くらいなので――元へ駆け込んできた。
 猪とわかって苦笑する人間もいたが、実際に猪と対峙した彼は、開拓民に礼を言った。人間の腰ほどの体長の猪が突進してきたら生身の人間は避けることもできず簡単に吹き飛ばされ絶命するだろう。猪だと侮らなかったことと、その巣と思われる場所を先に見つけ、刺激しないまま自分を呼んだ判断力に感心したのだ。
 彼は共に出動した男に、猪が一頭である可能性と群れを成している可能性とどちらが高いか尋ねた。
「腹の中にいるな」
「マジかよ」
 過去猪を捕食していた男の言うことだ。間違いはないだろう。彼はそう判断したものの、躊躇った。
 駆除するのは簡単だ。こちらには黒魔術士が二人――先程見えた人影も入れれば三人――いるのだから、防御と攻撃を当時に出来る。ただ。
「後味よくねえな」
「今更か?」
「今更だよ」
「生まれてからのほうが肉も取れる量が増えるしな」
「そうじゃなくてだな」
 彼は嘆息した。どこか森の奥深くに移動しても帰ってきてしまうだろう。猪の後ろのちょっとした崖には洞穴が見える。どう考えたって、ここで駆除してしまうのが一番いい。
 ただ。
「なあ、マジク」
「え?」
 ようやく追いついた青年を振り返り猪のことを告げると、青年はキョトンとした顔で、
「土地余ってるんですしあっち側を開墾すればいいんじゃないですか?ここには高めの柵でも作って」
 と事も無げに言った。
「家畜もどうせ必要になるでしょ?赤ちゃん産まれるならちょうど良さそうですし」
「わあ」
「わあってなんですかわあって」
「マジクの分際で正論言いやがって」
「分際ってなんですか分際って!大体僕を子供扱いするのはやめるんじゃなかったんですか?」
「してねえよ。ただムカついたから言っただけだ」
「・・・お前が一番子供だな?」
「うっせ!」
 かくして開梱予定地を少しずらしたその土地に、数ヶ月後にはうり坊がやって来た。その日同時に行われた鍋パーティーには多忙なはずの黒い男の姿もあり、肉をしこたま皿に入れてどこへともなく消えたとかなんとか。
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