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 夢でも見たんじゃないのかと言われて彼は首をかしげた。
 気づかないうちに寝ていたのかもしれない。昨日はつい夜更かしをしてしまったから。
 そう思ったので、彼は、
「そうかも」
 と言い頷いた。
「まあ、よくあることだよな」
 そう答える若いがハゲた男は、読んでいた本に視線を戻した。読んでいるのは昨日発売されたばかりの漫画の単行本だ。
「サイタマ氏は単行本派なの?」
 彼がそういうと、サイタマと呼ばれた男は本から目を離さないまま「おお」と言った。
 最近アニメ化が発表されたその漫画には、カラフルな帯が付いていた。サイタマがページをめくる度に少しずつ下がり、もう少しで落ちそうだ。
 彼は黙ってその帯を本から抜き取り、テーブルにおいた。
 サイタマは気づいているのかいないのか、ページをめくる以外に動きはなかったので彼にはわからなかった。
 読んでいる邪魔はされたくないだろう。そう思い、彼は自分の頬を撫でてから手元の携帯ゲームに目を落とした。
 しかしすぐに目がしょぼしょぼしてくる。本当に寝不足なのだ。
「寝てけよ」
「?」
 唐突に座布団を渡され、彼は困った。帰ろうと思っていたからだ。
「うん。でも迷惑だし」
「いや別に」
「・・・そう?」
 座布団を受け取ったものの、どう使って眠ればいいのか考えた彼の手から座布団が引き抜かれた。
 自分の横に置き、膝をぱしぱしと叩いた男はその間ずっと本から目を離していない。
「なんとなくわかったけどさ、サイタマ氏。男としてどうなんだろうそれ」
「別に、減るもんじゃないし。俺の布団で寝るよかましだろ?」
「どうなんだろ・・・」
 帰るって言ったら怒るのかな。ぼんやりそんなことを考えながら彼は男の膝に頭を置いた。横を向くと爪先が見える。
(当然だけど硬い)
「んじゃま、おやすみ」
 一人暮らしだとつい忘れる挨拶が聞こえ、それが合図だったかのように彼は睡魔に引き込まれた。
 
 
 
 
 
 
 
 彼は考えていた。
 カーテンが開けられたままの窓の外の、赤く染まった空に浮かぶ細く白い月について。
 いつからそれを見ていたのかはわからないが、昨日はその月より細かったか太かったかを、気づくと考えていた。
 ページをめくる音が降ってきた。
 視線を下ろすとたくましい爪先が目に入る。足の指を器用に開いたり閉じたりする度に、膝から下の筋肉は動き、頭の下は少し硬さが変わった。
 人様の膝を借りていることを思い出した彼が、焦りも何も感じない自分を不思議に思いながら口を開く。
「もう帰らないと」
 ページをめくる音がしてから、返事は降ってきた。
「帰るって言ってもこの時間じゃな。寝てていいぞ」
「そう。わかった」
「おう」
 彼はまた目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
「さ、サイタマ氏本当にごめん」
「いや、寝ろって言ったの俺だし」
 膝から飛び起きたのは朝の9時を過ぎてからだった。そろそろ弟子がくるかもと、揺すり起こされたのだ。
「よく寝たなあ」
 指を折りながら寝た時間を数えていたサイタマが「17時間だ」と明るい顔で言うのを見て、彼は頭を抱えたくなった。
「ほんとごめん」
「謝ることじゃねえって。ま、今度はゲームしようぜ」
「う、うん」
 じゃあ、と軽い挨拶で扉を閉めた男の膝を思い出す。
 まさか17時間ずっと膝枕をしていたわけではないだろう。トイレにも行くだろうし、飯も食べるだろうし、何より本人も寝るだろう。さらに言えば彼自身も寝返りを打って動くだろう。
 それなのに起きたときは膝の上だった。
(二人揃って微動だにしなかった・・・わけがない)
 赤信号に足を止めると、視界の上に白い月があった。
 どうやら細い月はあれから昇ったらしい。
「・・・サイタマ氏、寝てないんじゃないの?」
 夕方だと思っていた光景が朝焼けだった。踵を返し、もしかしたら今から寝ようとしているかもしれないと思い至り、また踵を返す。
「メールしとこ・・・」
 とぼとぼと歩きながら彼は振り返った。マンションの、なんとなく当たりをつけた知り合いの部屋にはまだカーテンが引かれていない。
 そんなに読む本が溜まっていただろうかと、彼は記憶を辿るが、何度考えても寝る前に読んでいた本と起きたときに持っていた本は同じだったので頭を抱えるしかなく、予想外に早く帰ってきたメールには気にするなの一文だけが書かれていた。
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