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 ランドセルが重いとか、
 周囲と話が合わないとか、
 ひとりでいいのにそれを良しとしない先生とか、
 なんかいろいろ、面倒だった。
 特に寄り道もせずまっすぐ下校して、ドアの前で首からかけていた鍵を出す。
 体温でなまぬるい鍵はなんだか気持ち悪くて、いやいや触ったことを覚えている。
 穴に差し込みゆっくり回して、カチッと言う音がしたらそっと抜いた。
 ほんの少し、そっとドアを開けて見知らぬ靴があったら、そっと閉めた。
 公園で時間をつぶし、小さな花を見つけたら摘んで帰った。
 以前花を摘んでいった日は殴られなかったから。
 
 アパートのドアが見える公園で時間が過ぎるのを待つ。
 あの靴の持ち主が出ていって、しばらくしてから帰るのだ。
 もしかすると迎えに来てくれるかもしれない、なんて思いながら。
 夕陽が自分の影を長く伸ばして、うっすらと境界がわからなくなってきた頃、その公園にはよく大人の男が現れた。
 朝にはいなくて、夜にだけどこかから数人現れてベンチで寝ていくのだ。
 
 
「そしたらそのオッサンと意気投合してな」
「へえ?小学生が?」
「ああ。そのオッサンたちから教えられたことがあんまいいことじゃねーって言うのはなんとなくわかってたけど、どうでもよかったんだよな」
「何を教えられたの?」
 隣に座る小学生を見た。
 こんななりでもプロヒーローだ。
 プロヒーローでも小学生だ。
「小学生にはとても言えねえな」
「オジサンだってそのときは小学生だったんでしょ」
「お兄さんな?」
 
 
 ある日、気づいたらだいぶ遅くなっていたんだろう、母親が探しに来た。
 オジサンと遊んでいた俺は見つかって、母親は発狂したような声を一度あげて、それから沈黙した。
 それからあたしの子だ、って呟いて、久しぶりに手を繋いで帰ったんだ。
 
 
「いい話だろ」
「え?どこが?っていうか、浮浪者と何してたの?」
「まあ、あんまり思い出したくないようなのと嬉しかったのとどっちもあって、ランドセルを見ると思い出すから微妙なんだよね」
「聞かなければよかった」
「あたしの子だ、って言われたのは初めてだったんだ」
「オジサンも見た目の割に苦労して・・・いや、見た目も苦労してたね」
「殴るぞこんガキャァ」
 
 
 
 
 
 
 
 小学生の僕を楽しませるために適当に話を作ってくれたんだろうけど、ジョークとか下ネタにしては重いし、なんか緊張感がない顔だし、この人あまり会話ができないんだろうな。
 それに、すごい勢いで怪人を倒しながら話してたことだし。
 
「ハゲマント」
「お兄さんと呼べ」
「ヒーローネームなんだからいいじゃない」
「お兄さんだ」
 
 怪人の血と肉の破片でびっちゃびっちゃになった広場の真ん中にあったジャングルジムの上で、僕とオジサンはそんな世間話をした。
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