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 普通の兄弟に戻ろう。
 その後に、悪かったな、と独り言のような声が聞こえた。
 
 
 
「良守、寝不足?」
「おー」
「うっかり夜に起きちゃうもんね、まだ」
「おー」
「ちゃんと昼間起きてなさいよ?」
「んー。わかってる」
 でもその日の授業はほとんど頭に入って来なかった。
 起きていたはずだけど、気づいたら家の前にいた。
 昨日兄貴と話した場所だった。
「・・・普通の兄弟ってなんだ?」
「うちみたいなとこだよ」
「うおっ」
 眉間に皺を寄せた弟が、鞄に入らないサイズの大きな本を抱えて立っていた。
「お帰り。あとそこで立ってられると邪魔で入れない」
「あ、わ、ワリィ」
 横を通り抜けた弟が玄関を開けながら振り向く。
「喧嘩したり、仲直りしたり、親に内緒でなんか悪いことしたり、疎遠だったり。どこの兄弟もそんなもんだったよ」
「え、そう、そうなの?」
「僕のまわりで聞いた限りはね。入るの?」
「あ、おう、入る」
 弟の後に続いて家へ入った。
 ただいまという弟の声に続いて、少し離れたところからおかえりと言う父の声がする。
 靴を脱いで、自分の部屋へ戻る道すがら、それでも兄弟では普通あんなことしねえなと、思う。
 あんなことになる前は、自分と利守のような間柄だったろうかと考えると、そうではなかったと思う。
「・・・今度は階段?やめてよ、他の人の邪魔になるところで止まるの」
 また利守がムスッとした顔で横を通り抜けていった。
 部屋へ入る音がして、でもすぐに部屋から出てきて、階段を降りて来る。
 見上げると突然弟が驚いた顔を見せて、壁についていた俺の手を引っ張った。
「ちょ、ちょっと」
「え、なに?」
「なにじゃないし。なんで泣いてるんだよ」
「え?」
 頬に触ろうとしたら、指先が生ぬるいものをすくった。
 すぐに部屋に押し込められて、落ち着いてから出てきてよね、と言われる。
 部屋を見た。
 見慣れた部屋だ。
 兄貴がたまに、ほんとたまに現れたことがある部屋だ。
 後ろから抱きつかれたことを思い出して、ゾワッとした。
 それが兄弟間では普通はないことで、嫌悪感から来るのかと言ったら違う。
 腰に当たったものの感触を生々しく思い出すからだ。
「普通の兄弟って、なんだよ」
 
 
 
 
「起きたの」
「・・・寝てる」
「俺と喧嘩したことになってるんだって?」
「・・・は?」
 ぼんやりとした意識のまま目を開けると、横に男がいた。
 分厚い書類に目を落としている。
 見慣れた兄だ。
「利守が電話を寄越したよ。初めてじゃないかな、あいつがかけて来たのって」
「何が?」
「お前が兄弟がどうのっていうから、俺のことだと思ったんだろ」
「ああ・・・おにーちゃんの」
「!?」
 素早く、書類からこっちへ視線を移した兄の顔を見る。
 変な表情をしてはいるが、昨日と何も変わっていない。
 兄の顔なのか、そうじゃない顔なのか、兄だったのか兄ではないなにかだったのか。
 額に置かれた手が先程の涙くらいに生ぬるかった。
「悪かったよ、お前に今まで無理強いして」
 兄弟はこうやって枕元で顔を覗き込んだりするのだろうか。
 利守が風邪をひいた時に限っていえば、したことはない。
 でも利守にとって俺は兄だし、目の前にいる男にとって俺は弟だ。
「あのさぁ」
「なんだ」
「もう少し寝るから、寝付くまでそこにいろよ」
「・・・わかった」
 目を閉じた。
 隣でまた紙をめくる音がする。
 5回、めくる音がした後に近づいてくる気配があった。
 それは触れる直前で止まって、遠ざかっていった。
 極力音をたてずに歩く音、ドアを開け、出ていく音。
 以前は疲れ果てて眠りに落ちそうなときや、からかいのついでにあったものがなかった。
 近づく気配はあったけれど。
 
 
 
 じわじわと、何もない日々に戻るのだろうな、と思う。
 なににも触れられなかった唇がゾワゾワとして、落ち着かずに指で触れたらパタリと雫が枕に落ちる音がした。
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