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 朝になっても鳥の鳴き声なんてしなかった。
 ぼんやり映った視界は白い。
 霧が出ているようだ。
 放射冷却で下がったっていうのもあるけど、焚き火が消えたのも大きいと思う。
 後ろから鼻をすする音がして、
「おはようございます」
 声が聞こえた。
 半分寝ていて、半分素直な声だ。
 この挨拶に返事をしちゃいけない。
 というか、身動ぎもしちゃいけない。
 僕は寝ているっていう暗示をかける。
 後ろで動く音がした。
 覚束ないけれど歩く音もする。
 小さな呟きの後に、背中が暖かくなった。
 生の木に  というか、たぶん霧で湿った木を超高温で瞬間的に乾かして  火をつけた独特のにおいがする。
「おやすみなさい」
 すぐに動く気配が無くなったから、また元いた場所に戻ってると思う。
 いつもそうだから。
 少し首を動かした。
 何も言われない。
 体をちょこっと動かして様子を伺った。
 やっぱり何も言われない。
 僕はようやく体を起こして振り向いた。
 焚き火の向こうに、黒い髪で黒いシャツを着た青年が寝転がっている。
 一人だけ寝袋を持っているのに、今上半身は寝袋から出てしまっている。
 眉間に皺がなくて、きつい目がなくて、普段とは違う顔をマジマジと見るチャンスは今しかない。
「・・・普段からその顔ならもっと人生楽そうなのに」
 やがて眉間に皺が寄って、寝ているのに眦がきつくなった。
 唇が引き結ばれて、少し尖る。
 一番見覚えがある顔に戻った。
 自前の毛皮をかぶり直してまた地面に転がった。
 すぐに後ろから動く音がした。
 同時に横から兄のいびきが聞こえたので僕は息を呑んだ。
「うるせえ!」
 手近なところにあったのだろう、こぶし大の石が顔のすぐそばを飛ぶゴォッという音がした。
 直後に岩にぶつかるような音がして、兄のいびきは止まった。
 旅も野宿も普段と変わらない。
 黒づくめの借金取りに小突かれるのも。
 でも明け方に現れるこれに気がついてしまってから、やけに心臓がドキドキする。
 やな緊張感と、高揚感。
(いろいろ、心臓に悪いなあ)
 起き上がったのか、ボリボリと体を掻いている音がする。
 次いで、あくび。
 もうすぐ蹴られて起こされるはずだから、身構える。
 知ってから毎朝みてしまう、その対価だと、理不尽ながら思うしかないかもしれない。
 せめて眼鏡だけは割られないように気をつけよう。
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