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「なあこのキング教ってなんだ?」
「ええ、やだなあ・・・またそのチラシ入ってた?」
 郵便受けから勝手に出したチラシはどぎつい色をしていた。
 キング教、とか、救われたければ、とか、気持ち悪いことが書かれている。
「俺がここに住んでることがバレたわけじゃないみたいなんだけどね」
「入るとお前が守ってくれんの?」
「そんなわけ・・・守って欲しい人が入るみたいだけどね」
「詐欺?」
「行き過ぎたファンクラブみたいなもんじゃないかなあ」
 守ってもらいたい、か。
 そんな時期が俺にもあったかもしれない。
「サイタマ氏はさあ」
「ん」
「そんなに強くなる前、守ってもらうことあったの?」
「んー?大人になってから?」
「うん。そうだね」
「覚えてる限りではねえなあ。ヒーローってのもいなかったし」
「そうなんだ」
「いたかもしんねーけど、見たことなかった」
「守られることがなかったから強くなるしかなかったのかなあ」
「どうだろな」
 チラシの裏を見た。
 裏はさすがに白地に黒字で、代表者の連絡先とか、キングがどうのとか小せえ字でいろいろと書かれている。
「・・・なんかこれ、いいかたさだよな」
「え?」
 床にチラシを置いて、昔よく折った紙飛行機を作った。
 出来上がった紙飛行機は光をよく反射する紙だからかやたらかっこよく見える。
 ベランダに出て、ぽいっと放った。
 昔作った折り紙の紙飛行機より断然速い。
 風に吹かれてたまに上を向きつつ、でも少しずつ高度を下げていく。
 小さい頃はせいぜいジャングルジムのてっぺんからだったけれど、それでも長いこと飛んだと思って嬉しかった記憶がある。
 キングの家からの高さだとあのときの比じゃない。
 目立つ色だからだいぶ遠くなってもよく見える。
「ダメだよサイタマ氏、こんな高さからゴミを捨てちゃ」
「あ、ワリィ。取って来たほうがいい?」
「いや、いいよ・・・。紙飛行機なら大丈夫だろうし」
 目で折っていた紙飛行機も、そのうちどこだかわからなくなった。
 手すりについていた頬杖を外し、部屋の中へ戻る。
「誰かに当たらなかった?」
「そこまでは見えなかった」
 昨日の続きを鑑賞すべく、キングの隣に座る。
 キングの横顔を見ると、キングエンジンが聞こえた。
「・・・なに?」
「いや、キングの顔ってキングっぽいのかなって」
「それは、えっとどういう意味だろ」
「俺がさあ、人気でないのってやっぱハゲてるからなのかなあって」
「そんなことないよ。サイタマ氏のファン、いるよ?」
「見たことねーな」
「ジェノス氏とか」
「あいつはファンっていうより妄信的なとこあるよな」
「あとは、隣とか」
「え?」
 キングエンジンが微妙に大きくなった。
 まじまじと横顔を見る。
「あと掲示板でもよく見る」
「ネットじゃなあ」
 昨日の続きが始まってしばらくすると、キングエンジンも少しずつ小さくなっていった。
 この音のせいで隣とか上下の住民にキングがいるってばれたりしないんだろうか。
 いや、普段一人でいるときはなることもほとんどないのかな。
 そんなことを考えながらDVDを見ていたものの、じわじわキングの一言が効いてきて、顔を覆った。
 キングが大丈夫かと尋ねてくる。
 DVDの音も止まったから、たぶん一時停止しながら。
 顔を上げられなかったけど、大丈夫だと答えた。
 あ、キングエンジンが聞こえる。
「あの、サイタマ氏。耳、すごく赤いんだけど」
「うるせー。お前のせいだろ」
「えっ、ごめん」
 こいつ、漏らすくらいビビリなくせになんでこんな時だけさらっと口にするんだ。
 こっちが恥ずかしくなるじゃねーか。
 こういうところが、なんかさ。
「キングって、いいヒーローネームだよな」
「それはどういう意味だろ・・・?」
「さあな。続き、見ようぜ」
 DVDが再生され、キングがいるほうの腕で頬杖をつく。
 顔を見られないようにしているのがバレるだろうか。
 画面の中のことなんてこれっぽっちも頭に入って来ない。
「あのさあ、サイタマ氏」
「・・・なんだよ」
「全然頭に入って来ないからまた最初から見ていい?」
「おう」
 そう言ってキングはDVDを止めた。
 最初からにするかと思ったらそのままTVを消しちまう。
「なんか今日はダメみたい。ごめん、サイタマ氏」
「いや、俺もそんな感じだから」
 なんとも言えない空気だ。
 キングが冷凍庫からアイスを持ってきてくれた。
 ベランダに出てもそもそとかじっていると、キングも隣に来る。
「ねえ、サイタマ氏のさ」
「ん?」
「ファンクラブが出来ることになったら、入ってもいいかな」
「入る必要ねーだろ」
「ダメ?」
「ダメっていうか・・・ファンと恋人は違うんじゃねーの?」
「・・・・サイタマ氏ってさ、たまにすごく男前なこというよね」
「たまにってなんだよ」
「でも耳真っ赤にしてるところが可愛いなって思う」
「おっっっまっ!!!」
「ちょ、ちょっと、何も言わないでね。自分でも結構わかってるんだから」
「まっ、かっ、かわっ」
 ハゲを捕まえて可愛いとか言うキングが本当にそう考えてるのかどうかなんて、聞こえてくるエンジン音でわかっちまうんだから手に負えねえ。
 食べ終わったアイスの棒を、キングの死角で絶句していたストーカー野郎に投げつけて俺は部屋へ戻った。
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