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その噂を聞いたのは昨日だったか一昨日だったか、はっきりしない。
ついさっきのことのようにも思える。
本人から直接聞いたわけでもない-いやむしろ直接言われたらどうなっていたか分からない-のに、
先行して届いた噂レベルの情報だけで何も手に付かなくなった。
 
つい先週末、ニセモノ退治後のささくれた気持ちを宥めて“リベンジ”を果たしたばかりだというのに。
いや、その時にアイツは何かを言おうとしていた。
それなのに、俺から聞くと諦めるような顔で首を振ったから、何もないのだと。
そう思っていた。
 
 
 
心とは反対に、ハンドルを握ると完全に没頭できた。
茨城の最終戦には問題なく勝てるだろう。
そもそも強敵ではないと彼の兄も言っていた。
そういえば知っているのだろうか。
アイツに女が出来た…いや出来そうなことを。
 
 
 
 
 
 
バキッ
 
4度目に折れた芯は自分の頬に当たった。
そのままどこかへ飛んでいく。
-もう駄目だな。
そう思い彼はノートを閉じた。
昨日に引き続き今日も自習の放棄を決意する。
大学生の夏休みは長くていい。
そう思っていたのに1日が48時間になったかのような今、1人でいるには辛すぎた。
隣の部屋をノックする。
返事は無かった。
出かけると言っていたことを思い出して彼は溜息を吐いた。
頭を抱え込みそうになって、思いとどまる。
その代わりに心臓が強く鼓動しているように感じた。
相手に聞くしか解決の道はない。
それでも相手が社会人では時間も取れない。
いや、むしろ会ってしまったら別れを告げられるのではないかと、それなら会わない方がいいのではないかと、
堂々巡りをする思考にはまりこんでたまらなくなり、車のキーを掴んで外へ飛び出した。
それでも昼間の内からいつものように走れるわけがないことに気付いて、
結局シートに座っただけで力を使い果たしたかのようにステアリングにもたれかかった。
 
「オレ…何してんだろ」
 
自嘲するように呟いて、自室に戻る。
大きく息を吐いた。
どうせ明後日には茨城最終戦で顔を合わせる。
たった二日の辛抱なのだと言い聞かせて、Dのことに意識をすり替えた。
 
 
 
 
 
 
「おはようございます」
 
いち早く声を掛けられたのは彼の兄だった。
いつものことだ。
 
「おはよう。今日は張り合いがないかもしれないが、気を抜かずにな」
「はい」
 
そしてようやく目が合う。
とくに変わったことはないと言わんばかりに普通に挨拶が来た。
耳の奥で鳴り響く鼓動を無視しながら挨拶を返すので精一杯だ。
それでもケンの一言に助けられてようやく叩きつけるような鼓動が消えていく。
 
「ニセモノ騒動のときに知り合った子といい感じって」
「えっ…そんな…」
「可愛い?」
「そりゃ可愛い…ケド」
 
しどろもどろに答えた青年は、ちらりと上目遣いに彼を見てすぐにそらした。
 
「付き合うんですか?」
「え?ああ、・・・いや、そんなんじゃ」
「ケン。これから勝負だぞ。ドライバーを惑わせてどうする」
「涼介さん!スミマセン」
「史浩が呼んでるぞ」
「え?わかりました」
「…それで藤原」
「は、え?」
「聞くまでもないだろうが…調子はいいんだろうな」
「えっ…え、いいというか普通…です」
「それならいい」
「はあ…?」
「啓介」
「…何だよ」
「集中しろ」
「!」
「後でな」
「わかってるよ」
 
涼介が去る。
残された2人の間に気まずい沈黙が漂う。
啓介がちらりと前に立つ青年を見ると、彼は慌てたようにまた視線をそらせた。
 
「…あの!」
「…何だよ」
「彼女とは付き合ってはない…から」
「ふうん」
「確かに彼女が…気になるってのは、ある…ケド。毎日メールもしてるし…」
「つまりお前の恋が実るかどうかはまだわからないってことだ」
「は?ええまあそうなる…かな」
 
強がりかもしれない笑みが唇に浮かび、「それならうまくいかないよう願掛けしとくわ」と捨て台詞のような言葉を吐いて、車に戻った。
後ろからは唇を尖らせたような声で「余計なお世話です」と返事が来た。
 
(毎日メール?オレには全然しねぇのに)
 
今の恋人-モドキだとしても-に言うべきことではない気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「来週からは神奈川だ。気を引き締めてな」
「ういっす」
「…はい」
「じゃ、オレは城島さんたちと話してから出るから」
 
解散。
車に乗って彼はまた息を吐いた。
横にいたパンダトレノはすぐに見えなくなった。
話し掛ける隙さえ無く去っていった夜道を見やり、それでも少し話が出来ただけでだいぶ軽くなった気はしていた。
 
「うまくいかなけりゃいいのに」
 
心で思ったことを呟いた。
自分は器の狭い男だろうかと問い掛ける。
そもそも広いと思えるような心ではないことを思い出した。
それならこんなことを考えててもいいのではないかと、ふと思った。
開き直りだとわかっていながらも、それが自分らしいとも思う。
 
「溺れすぎてんのかなぁ、オレ」
 
ひとり呟いて、ワゴンの後を追って走りだした。
こんな気持ちを以前にも味わったことがあるような気がした。
思考を巡らせて、辿りつく。
小学校のときだったか、遠足の日の朝、リュックを背負って外に出たら急に雨が降ってきたときだ。
リュックを背負ったまま呆然と雨の中立ちすくんだのだ。
あの後、どうしたのか。
帰ったら兄の涼介に聞いて見よう。
そう思いながら。
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