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夢だとすぐにわかった。
藤原が満面の笑顔で隣に座っていたからだ。
どこに行くかと問い掛けると困った顔をする。
どこでもいいのかと問えば、こくりと頷いた。
違和感に包まれた。
アイツはこんなヤツじゃない。
こんな風に接してほしいと思ったこともない。
いつものようなちょっと照れたり、怒ったり、ふざけあう中にほんの少しの感情を混ぜてくれるだけで十分なのだ。
それなのに夢は勝手に話を進め、いつの間にかベッドに半裸で座る藤原がいる。
待てを連呼する理性の奥で、夢でくらいいいんじゃないかと誰かが囁く。
触れる直前に、オレの想像力ってすごいなと思わず自賛するくらいの、
見惚れてしまう妖艶な笑みを浮かべた藤原がただ一言発した。
 
気付くとそこは自分の部屋だった。
記憶はないが、身を起こしていた。
冷水を掛けられたような寒さが体を襲う。
ぶるりと震えた。
 
「なんだ…今の」
 
手を開いた。
握り締めていたらしい。
爪の後が手のひらにしっかりとついていた。
 
 
 
 
 
 
「そんな気分じゃねえから」
 
そう言って、昼飯に誘って来る人間をおいて大学を出た。
午後はふけることにしたのだ。
どこに行こうかと思ううちに赤城山に着く。
癖だなと呟くが、この時間は車が多く走れはしない。
それでも車を降りて、ぼんやりと景色を眺めるうちに、少しは落ち着いたと感じて車に戻った。
今日何度目かわからない溜息を漏らして、エンジンをかけようとした矢先、携帯がブルブルと震えだした。
誰からの着信なのかとディスプレイを見て、思わず取り落としそうになる。
登録だけしてあって、実際にかかって来たのは初めてな気がした。
 
「はい」
『あ、えっと・・・啓介さんの携帯ですか・・・?』
「藤原・・・だろ?」
『はい。あのー突然なんですけど、今時間ありますよね?』
「ハハ。大学生は暇だと思ってんだろ」
『違いますよ。電話に出られるなら大丈夫かなって思ったんです』
「うん、まぁ暇だけど。何?」
『いや何って聞かれると・・・アレなんですけど』
「なんだよ。声が聞きたかったとか言ってくれてもいいんだけど」
『・・・じゃあそういうことにしておいてください』
「あ、冗談、冗談だろ。何、何かあったのか?」
『いえ、会社が午後無いので・・・車が帰ってこなくて』
「そうなのか。じゃあどっか行くか」
『インプはオヤジが配達とかで使うかもしれないんで、オレ足ないんですけど』
「迎えにいく。家か?」
『これから家に戻ります』
「わかった。待ってろ」
 
通話が終了する。
ただほんの少しの会話しかしていないのに、もう気分が浮上している。
 
「オレ・・・マジなんだな」
 
(それなのに・・・いや、それだからあんな夢を見たんだ)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
付き合っているヤツが自分の腕の中で別の人間の名前を呼ぶなぞ。
本気でなければそんなことを不安に思うこともない。
 
「オレは、本気だぞ藤原」
 
ステアリングをギュッと握り締め、啓介はアクセルを踏み込んだ。
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