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                  《Side Bikkebakke》 
寒い。 
ラッシュがぶつぶつ呟いている。 
その愚痴をなだめたりたしなめたりするのは、いつもトゥルースの役目だ。 
もうすぐ冬になる空は寒くて、ボクはといえば防寒具・・・はともかく、食料が足りるかどうかのほうが重要だったから、ほとんど聞き流していた。 
 
「あそこだろ?」 
 
ラッシュが指差した孤島には森があった。 
カーナが滅んだあの日、アニキは敵からの集中砲火を受けることを予想して、ドラゴンをサラマンダー意外は逃げるように指示をだしていたんだ。 
逃げるように指示を出した先が、最上層のカーナと最下層のテードの間にある、あの森なんだって。 
 
「そうだ」 
 
と言った。 
サラマンダーはアニキからの指示を待つことなく下へと首を向けた。 
 
「今日キャンプが出来そうなところはあるかなあ」 
 
ボクがアニキに進言できることといえば、食べられる実がなる木や草を知っていることくらいだから、ボクはそんな木が生えているところを必死に探した。 
水場があるところにしか生えない木を見つけて指を差すと、サラマンダーはまた進路を変えた。 
 
「どこ行くんだ、ビュウ」 
「探すにしろ、とりあえずテントを張るところを探さないと」 
「あ、そっか」 
 
ドラゴンが着地すると、トゥルースが背中の大きな荷物を下ろした。 
アニキは小さな湖に近づいて、慎重に中を覗く。 
サラマンダーはそのアニキの横に立って湖の水を飲みはじめた。 
 
「大丈夫だな」 
「では私は木を拾いに行きます」 
「オレはドラゴン探しだぜ!」 
「この森くらいなら今日1日で探索し終えるね」 
「ボクは洗濯しようかなぁ。どうしよう」 
 
アニキに明日の出立予定を聞くと、早朝かなという答えが帰ってきた。 
それだと、これから洗濯をしても干すだけの時間がない。 
とりあえず、アニキと連れ立ってテントを張る場所を探すことにした。 
木々に囲まれていて、でも火を置くスペースくらいはあるような場所を探す。 
ぐるっと一周してしまったのか、また湖に出てきたときに、アニキが 
 
「え?」 
 
と言った気がして、僕は振り向いた。 
 
「あれ?」 
 
アニキの声で振り向いたのに姿がなくて、見上げたところにはサラマンダーがいた。 
ようく見るとその背にはアニキがいたけど、慌ててサラマンダーの背にしがみついたような格好をしているところをみると、サラマンダーがアニキを無理やり空の散歩に付き合わせた様な、たぶんそうかな。 
 
「アニキー!ボク1人で大丈夫だから行って来て!」 
 
叫ぶと、アニキの返事を聞かないうちにサラマンダーは飛んでいってしまった。 
すごく速い。 
ボクを乗せているときはあんなに速く飛ばない気がするんだけどなぁ。 
見送って湖を見ると、今日の夕食に良さそうな魚が泳いでいた。 
ボクはその大きさに感動しながら、竿になりそうな、長い枝を探す。 
きっと今日はご馳走だ! 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Truce》 
ヘルムに引っ掛かって折れた小枝が視界に入り、ひどく邪魔だった。 
けれどそれを振り切っている暇さえなく、目の前でまたモルテンの血が飛び散った。 
悲痛な叫びが聞こえ、指先は冷たくなった。 
遠くでサラマンダーの雄叫びが聞こえた気がして、彼は遠ざかりかけた意識を戻し、すぐに右へ大きく跳んだ。 
その地面を太い爪が乱暴に抉る。 
もつれそうな足をばたつかせながら、トゥルースは走った。 
そしてすぐに転んだ。 
背後の茂みから熊の唸り声と輝く目が見えた。 
 
「いけ!」 
 
3度目の命令を放つ。 
しかしモルテンはまた攻撃を仕掛けなかった。 
その代わり、トゥルースに危害が及びそうになると身を挺して守る。 
足を捻ったのか、激痛のため立ち上がれずに、熊がいる方向を睨むと茂みの中から唸り声をあげて熊が立ち上がった。 
モルテンが咄嗟にトゥルースとの間に割り込み、再び攻撃を受ける。 
受けながら、トゥルースの体をくわえて不器用に走りだした。 
飛ばないのは、羽根の片方がひどく傷ついているせいだ。 
 
 
島に到着すると同時に、彼は森へ入った。 
ドラゴンがいた痕跡だけでも、と周囲を見渡した矢先、あっさりと見つかったモルテンにトゥルースは声をかけようとした。 
しかしその横にいる熊に気が付き、熊に襲われようとしているモルテンを守ろうと先制として放った技が、ちょうど羽根を広げたモルテンに当たったのだ。 
そのせいなのか、それとも久しぶりに会ったので忘れられているのか、先ほどからいくら命令をしてもモルテンは全く聞く耳を持たない。 
モルテンの体力が限界に達し、勢いよく倒れこむ。 
投げ出されたトゥルースは頭を打ち、意識を朦朧とさせた。 
その時、頭上から赤いドラゴンが降って来て、追って来たものの少し離れたところからこちらを見ている熊の前に立った。 
赤いドラゴンにまたがった少年の後ろ姿も見える。 
何か話す声が聞こえ、気付くと少年-ビュウが目の前にいた。 
 
 
 
「すみません…」 
 
足に添え木を縛り付けていたビュウがそれに返事をすると同時、白い光が辺りを包み、すぐに消えた。 
一瞬遅れて、モルテンの回復魔法だと気付く。 
 
「大丈夫か?」 
 
ビュウの手を借りて立ち上がる。 
ひどく痛んでいた足はすっかり楽になっていた。 
 
「ええ、大丈夫です…」 
「間に合ってよかったよ」 
「ありがとうございます。助かりました」 
 
ビュウの肩越しに見えたモルテンの傷も、少しだけ癒えたように見えた。 
 
「モルテンがいたのか」 
「ええ。驚かさないようにそっと近づいて行ったら熊がいて」 
「モルテンが熊から守ってくれたんだ」 
「…でも命令は全然聞いてくれませんでした」 
「それは、トゥルース、熊が妊娠していたからだよ」 
「妊娠?」 
「そう。だからすごく警戒してたんだよ。モルテンも攻撃しなかっただろ?」 
「そう…ですか…私はてっきり…」 
「トゥルース良かったなぁ、たまたま隊長が来て」 
「ええ」 
 
火を囲んで、彼らは座っていた。 
あえて木の枝が伸びて空を覆っているところで火を起こしたのは、外から煙や灯りを見られないようにするためだ。 
その火の上では巨大な魚が太めの木の棒に刺されて炙られている。 
火加減を鼻歌まじりに確かめているビッケバッケが、火の周囲で焼かれていた30センチ弱の魚串を手にとって、仲間へ順番に差し出した。 
 
「ここのお魚大きいんだ。人あまりこないところなのかな?」 
「まぁ確かに森と湖しかない小さい島だからな」 
「そもそも自由に空を飛び回れる人も普通はいないことを忘れてませんか、2人とも」 
「あ、そっか。忘れてた!」 
「ボク達にはドラゴンがいるもんね」 
「他の島に観光行くときってどうなってるんだ?」 
「船かなんか出てるんじゃないの?モグモグ」 
「マハールとキャンベルへは定期便がありました。確かダフィラからも交易船が来てましたよ」 
「へ~。いつか行きたいな!」 
「ね!」 
 
炎の向こうでそう話すラッシュとビッケバッケに、トゥルースはひっそりと苦笑を漏らした。 
交易船どころか、交易する国さえ無いのに何故そんなことが言えるのだろう- 
唐突に、ただ一人で戦っているような錯覚がして、トゥルースは手に持った魚を睨み付けた。 
 
「あれ、アニキは?」 
「ビュウならそこに座って…ねぇ!まぁ便所とかだろ」 
「…違いますよ。この時間はドラゴンに餌をあげているはずです」 
「でもサラマンダーそこでお魚食べてるよ。モルテンもアイスも」 
「だから便所だって」 
「…私少し風にあたって来ます」 
「おう」 
「いってらっしゃい!」 
 
人の手が入らないまま木々が茂った森は、たった数歩先がよく見えない。 
直線での視界がないに等しいため、方向感覚が掴みにくく、迷いやすい。 
だからラッシュやビッケバッケはキャンプを張っている場所からは動かないだろうと予想し、トゥルースはビュウがいそうなところにあたりをつけた。 
(たぶん湖…) 
同じような景色の先にちらりと星明かりに輝く湖面が見えた。 
すぐに木々で見えなくなり、また見えたときには座っているビュウの後ろ姿が見え、また見えなくなり、次見えたときにはビュウと目が合った。 
 
「どうしたんだ、トゥルース」 
「先程のお礼をちゃんとしていないと思って…ありがとうございました」 
「あはは。トゥルースは真面目だなぁ」 
 
少年のように笑うビュウを見ながら-それはここ最近ようやく見るようになった彼の素顔な気がしてならないのだが-、トゥルースはビュウが自分と同い年であることを思い出す。 
ラッシュとも同い年で、ビッケバッケはふたつ歳上だが性格ゆえに歳上とは思えない。 
ビュウは-また違う意味で同い年とは思えない。 
背伸びをしているわけでもない。 
最近は年相応の表情もする。 
 
(つまり、よくわからないということ…) 
 
「トゥルース、今日は何を考えているんだい?」 
 
ビュウの人差し指が、ぐりぐりとトゥルースの眉間をこねた。 
 
「いえ、そんな特には」 
「まぁ無理には聞かないさ」 
「…」 
「ん?」 
「2人…が」 
「ふたり?」 
「今は私達の国はないのにわかってるんだろうかって…あ、さっき他の国へ行く手段の話をして交易船の話になったんです」 
「うん」 
「いつか乗りたいとか…言ってて…」 
「うん」 
「私達の国はもうないのに…!それなのに!」 
 
ぼたぼたと大きな水滴が地面へ落ちた。 
 
「あんな…っ、き、気楽な…っ」 
「うん」 
「……わっ、私、はっ」 
「トゥルース」 
 
突然身体に熱が伝わって来て、いつの間にか閉じていた眼を開けると、金色の髪が頬に触れる距離にあった。 
 
「ずっと我慢してたんだな」 
 
耳元でそんな声がして、さらに強く抱き締められた。 
 
「絶対、復興させよう。いや復興しよう」 
「…隊…長?」 
「もどかしい気持ちはわかるよ。でもさ、悲しみ方は人それぞれなんだよ」 
「…」 
「ラッシュは…ラッシュはさ、軽いし考える前に行動だし疲れることもあるけど…でもカーナを復興させたいってちゃんと思ってるよ。 
 オレなんかより付き合いの長いトゥルースはわかってるだろうけどさ」 
「…」 
「まだ信じたくないんじゃないかな。俺だって城門横で昼寝をしていたのが昨日のように思うことがあるよ」 
「…?」 
「あとビッケバッケはね、すごく考えてる。たぶん、自分達でカーナを復興して、交易船に乗りたいって思って言ったことだと思う」 
「…そう、でしょうか」 
「ビッケバッケはああ見えて凄く生真面目だよ」 
 
そして身体を離しながら、ぼそりと 
 
「オレも甘えてる」 
 
と呟くビュウの顔を見ようと凝視するが、フイと森を振り返ってしまう。 
 
「隊長…?」 
「なんでもない」 
「?」 
「いや、本当になんでもないんだ」 
「…そう…ですか」 
「じゃあキャンプに戻ろう。明日は早く出たいんだ」 
「わかりました」 
 
先に戻ると言ってトゥルースの横を通り抜けたビュウの背中を見る。 
国がなくなって縛られるものが減ってから、ビュウは笑顔を見せるようになった。 
本当ならこんなときこそ気分が沈むというのに。 
時に笑顔を見せるビュウの、それは素顔なのだろうか。 
ふと、疑問が頭をよぎった。 
作戦を練っているときは、彼の本心が見えている気がする。 
だからこそ、彼に応えようと自分も知恵を絞ってきた。 
しかし彼の本心を知ることができたことがない。 
自分は隊長としてのビュウしか知らないのではないか-。 
心臓がまたちくりと痛み、気付くとビュウの腕を取って引き寄せていた。 
その時に振り返ったビュウの表情が-恐らく初めて一線を超えて見えた本心は-明らかな怯えだった。 
しかしそれはすぐに消えた。 
 
「びっくりしたよ。どうした?」 
 
いつもに戻って、ビュウがトゥルースに問い掛ける。 
トゥルースは慌てて手を離し、何を言えばいいのか瞬巡した後、 
 
「隊長こそ、何かあったら言ってください!私は隊長のことが」 
 
そこから先の言葉をトゥルースは飲み込んだ。 
自分の言葉に驚いている間もなく、もう一度今度は唾と飲み込んで、 
 
「隊長…のことが…心配です」 
 
と続けた。 
 
「…ん」 
 
泣くと、思った。 
そんな声だった。 
すぐに顔を背けてそのままキャンプへ戻る背は、たった数歩森へと踏み込んだだけで見えなくなった。 
足音が止まり、木々の向こうから声が届く。 
 
「トゥルース。心配してくれてありがとう」 
 
その声は今まで聞いたどの声よりもはっきりと感情を滲ませていた。 
足音が遠ざかり、すぐに聞こえなくなった。 
湖に向き直って、トゥルースは先程までビュウが座っていたところに腰を下ろす。 
月に照らされた湖は少し眩しい程の光を讃え、水面はたまに跳ねる魚に揺らされていた。 
それはいつか見た光景に似ていて、思考を巡らせたトゥルースはふとビュウの言葉を思い出した。 
 
「城門…の前…」 
 
カーナの城からはその周りを囲む堀のような川が見えた。 
城門の隅に座ってボーッと眺めていたことが昨日のことに感じる。そしてここに座っていたビュウが何を考えていたのか、わかった気がした。 
恐らくビュウも悲しんでいたのだ。 
だから自分を慰める時に抱き締めたのだ。 
 
「悲しみ方は…人それぞれ、か」 
 
トゥルースは少ししてから腰をあげた。 
明日は早い。 
それならば早く寝ていつも寝坊するラッシュを起こさなければいけない。 
 
「よし!」 
 
気合いを入れて森へ戻る。 
とたんに木の根に足を取られて慌てて枝に手を掛けた。 
握った枝の太さがちょうど先程取ったビュウの腕と一緒で、同時に怯えた顔を思い出す。 
 
「…何故?」 
 
木々の陰からほのかに見える焚き火の光を前に、トゥルースはしばらく立ちすくんでいた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side View》 
『お前、もうドラゴンの世話してるんだって?』 
 
昔から城に住んでいた。 
自分の親の顔は知らない。 
あまり興味がなかった。 
物心着く頃には王女の友達役になっていたし、その前からドラゴンと遊び回っていた。 
何より慕っていた戦竜隊の隊長が激務の合間に会いに来てくれた。 
だからそう問われたとき、どういう意図かわからなかった。 
 
『俺たちなんか訓練ばかりで全然ドラゴンに触れさせてもらえないのに』 
 
そう口を尖らせる兵士(顔は覚えていない)に対して、しどろもどろになりながらも、ドラゴンは警戒心を持った人間には警戒心を抱くからといったことを説明した。 
確か12歳かそこら-ベロスがダフィラへ宣戦布告を行った年-だったから、歳上の兵士にはびくびくしていたし、そんなに人と話すことも多くなかったので(女性にはよく声をかけられて心配されたりした)、うまく伝えられたかはわからない。 
ただ兵士は納得したような顔をして、 
 
『でも怖いもんは怖いんだよな。そうだ!ドラゴンの扱いが得意なビュウ君に扱い方を教えてもらえたら、俺もドラゴンに触れるようになるよな』 
 
とそんなようなことを言った。 
まだすばしっこいだけの非力な子どもは、自分が誰かの役に立てることが嬉しくて兵士の後を付いていった。 
案内された下級兵士の宿舎は、昼間なのにカーテンを閉めきっていて、入ると扉に鍵をかけられた。 
そこには既に2人の兵士が、鎧を脱ぎ捨てて煙草を吸っていた。 
ドラゴンは煙草を嫌うので、まずそれをやめたほうがいいとやはりしどろもどろに伝えると、兵士は鼻で笑いながら近付いてきた。 
気持ちの悪い笑みだった。 
その後は-よく覚えていない。 
どうやって自分の部屋へ戻ったかも覚えていないし、数日間食欲が失せて隊長-もはや親代わり-に心配をかけた。 
ただ、口外したら、宿舎へビュウを訪ねてくる少女を同じ目にあわせると言われたことだけは覚えている。 
数日後、ドラゴンが気になって気だるい身体で部屋を出ると、突然抱えあげられ見覚えのある部屋へ連れていかれた。 
前回の恐怖と混じって半狂乱だったが、男は『好きだ』とか『この間はすまなかった』とか『優しくするから』などと言いつつ、結局のところ前回と同じ目に合わされた。 
その行為の途中で兵士が1人忘れ物を取りに戻って来た。 
そいつは『抜け駆けしやがって』と言いながらビュウに馬乗りになっていた男を突き飛ばして覆いかぶさってきた。 
 
『コイツ、女よりも、イイもんな。お前もっ、癖、になったんだろ?』 
 
いきり立った一物を烈しく出し入れさせながら、男は突き飛ばした兵士を見た。 
突き飛ばされた-先程までビュウに好きだと何度も囁いていた-兵士は、頬を痙攣させながら笑みを作り、こくこくと頷いた。 
その時から、何かがどうでもよくなった。 
毎日のように呼び出され弄ばれる身体。 
少し経つと知らない顔も混じって、それは馴染みの顔になって行った。 
ある日2本を同時に入れられそうになって抵抗すると、耳元で『王女様』と囁かれた。 
全身から力が抜けたが、結局入らなかった。 
そんな生活が1ヶ月ほど続いたある日、隊長からクロスナイトとしての剣捌きを教えられ、あっという間に敵がいなくなるほどの上達を見せた。 
ドラゴンとの外出も認められ、サラマンダーと共に散歩に出ることもあった。 
さらに1年ほど経ったとある日、城門の横に小汚い、けれども目をギラギラさせた少年達がいることに気付いた。 
自分と同じくらいの年頃だった。 
門番に彼等のことを聞くと、最近よく溜まっている浮浪児で、今は未だ数件の強請りたかりが訴えられているだけだが、その内非道なことをするようになるのではと、門番は危惧していた。 
その日の内にビュウは隊長へその少年達を戦竜隊へ入れてもいいかと尋ねた。 
反対されるとばかり思っていたビュウに、隊長は嬉しげな顔で『いいよ』と事も無げに言った。 
 
『お前が何か頼むなんて、珍しいしな』 
 
とも付け加え、ビュウは久しぶりに笑顔を浮かべた。 
翌日、早速少年達に声をかけ、翌々日に返事をもらった時のビュウは、また笑顔だった。 
初めて出来た同じ年頃の男友達に、ビュウは熱心に剣術を教えた。 
でっかいことがしたい-入隊の動機がただそれだけだった少年達も、同い年の少年の強さに惹かれて、メキメキと力を付けた。 
ビュウが幸せを感じたのはこの頃だった。 
しかし昼間に癒された心は、夜になると無残な物になる。 
幼い頃は女の子と間違われ、その面影は初めて襲われた日にもまだ残っていたそのか弱げな雰囲気は、もうどこにもない。 
背も延び、細いなりにも男が主張し始めたにも関わらず、男たちは夜になるとビュウを犯し続けた。 
幼い頃に拡げられたにも関わらず、日々のトレーニングによってついた筋肉のせいか、ビュウの菊門は未だに緩むことがない。 
柔らかいが緩まない。 
それがまた怒りを誘ったり、男が離れられない理由になった。 
二度目の2本チャレンジでは、身体が大きくなったことが災いしたのか、裂けながらも遂げられてしまった。 
それからしばらく熱が出た。 
傷からくる熱であることはわかっていたが、傷のことは言えず、原因不明の熱と判断された。 
そのため、部屋から出ないよう指示が出され、また、隊長以外は近付かないように命令がくだされた。 
ビュウにとってはこの上ないことだったが、傷の治療が出来ないままでは熱は下がらない。 
溜息を吐きながらも、ビュウは久しぶりの解放された夜に満足していた。 
 
そのまま数日が経過し、明日からは訓練に復帰しようと思っていた矢先に悲劇は起こった。 
隊長が死んだのである。 
次の隊長(正確には隊長代理だが)は、あの日ビュウを犯していた男を突き飛ばして覆いかぶさり、その後もビュウを犯すことに最も執着していた男で、ラッシュたちがゴリラと呼んでいた男だった。 
 
『お前、療養中とかいって前の隊長とやりまくってたんだろ?』 
 
昼間は見せない下卑びた笑いを向けながら、男は権力を利用してビュウを自室へ呼び出しては執拗に犯した。 
 
『いつまでも可愛がってやるからな』 
 
そう言った。 
 
そんなある日、ベロス-改めグランベロスがカーナへ宣戦布告を送り付けた。 
隊長代理は戦争の最中、決戦が迫る恐怖に耐え切れず自ら命を断った。 
ビュウはその遺体を発見し、マテライトやセンダックとともに密かに葬った。 
男が死ぬと、ビュウを犯すものは誰一人としていなくなった。 
何日経っても誰からも呼び出しはない。 
解放感に浸ったのもつかの間、今度は隊長に任命され戦争の指揮をとることになる。 
正式な辞令の前に、密かに打診が来たのは、それでも辞令の3日前だったはずだ。 
ビュウはまずサラマンダーとともに、遠くから敵国の戦い振りを見た。 
皇帝となったばかりの男は、前線で鬼神のような戦いを繰り広げていて、ビュウは数日後に迫ったグランベロスとの決戦に絶望を感じた。 
前任者が最初で最後に行った指令は、屈強の兵士たちを最も育っていたドラゴン達に乗せ、先手を打つことだった。 
自分以外の指折りの兵士たちがドラゴンに跨り空へと向かったその姿を見て、これしかないだろうと、ビュウ自身も思っていた。 
結果-弱きものを嘲笑うかのような声が耳に残る。 
残った経験の浅い兵士と若いドラゴン達、王の親衛隊でマテライト率いる重装騎士団達、そして王をも虐殺した皇帝は、男達から解放されたビュウの身体に快楽を教えた。 
初めて与えられた快楽は、未だに消えていない。 
 
 
 
 
 
 
ぶるりと震えた身体を思わず抱き締めた。 
焚き火の明かりを見つけてホッと一息つく。 
そっと近付くと、鼾をかいて寝ているラッシュの向こうにビッケバッケの姿があった。 
前屈みなところを見ると、備品の繕いものをしているようだ。 
 
「ビッケバッケ」 
 
顔を上げたビッケバッケの目に、ビュウはどのように映ったのか。 
彼はサッと顔色を変えて、ビュウへと大股に近寄ると身体を抱え上げてテントに連れ込んだ。 
寝袋に押しこめられながらビュウは苦笑する。 
 
「顔色悪いよ、アニキ」 
「ちょっと疲れた・・・かな」 
「…」 
「もう20か…」 
 
戦争が終わってからもう2年近くが経つ。 
反乱軍も増えたらしい。 
みんな来るべき日に備えている。 
やるべきことはやっている。 
それなのに、気持ちだけがついていかない。 
 
「1年が早く感じるな」 
「昔、マテライトが年寄りは時間経つのが早く感じるって言ってたよ」 
「ははっ、確かにマテライトはもう年寄りに入るな。年齢だけならだけど」 
「ふふっ。それじゃあ、ボク焚き火見てるね」 
「あぁ。頼むよ」 
「明日は早いんだよね?」 
「そのつもり」 
「わかった。おやすみなさい」 
「おやすみ」 
 
テントの幕が下ろされた。 
焚き火の明かりが布ごしに仄かに見える。 
ぼそぼそと話し声が聞こえて、すぐに聞こえなくなった。 
明かりもだいぶ小さくなる。 
ゆっくりと沈み込むような、緩やかな眠りに落ちるのは久しぶりのことだった。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Knights》 
寝静まったテントを見てから、ビッケバッケは焼いた魚を大きな葉で丁寧に包んだ。 
向かいに座ったトゥルースは、炭と数本の木が投入されただけの小さな火を眺めている。 
ラッシュは先程と同じところでやはり鼾をかいて寝ている。 
 
「よし、出来た!」 
「ビッケバッケ」 
「なあに?」 
「さっき…隊長のテントから出て来たけど」 
「うん。明日の予定を聞いたよ」 
「そ…ですか」 
「うん」 
「…」 
 
重い空気がトゥルースの周囲に漂っていた。 
ビッケバッケは上目遣いにそれを見てから、葉で包んだ魚を鞄に詰めている。 
トゥルースの拳がギュッと握られたのを見て、ビッケバッケは躊躇いながらも口を開いた。 
 
「ねぇトゥルース。人にはさ」 
「?」 
 
訝しげな表情で、トゥルースが顔を上げた。 
ビッケバッケは照れ臭そうに頬を掻きながら、 
 
「人には、その人が乗り越えたいって思うことがいくつかあってさ。周囲が手を貸したくても、借りられない事情があったりすることもあってさ」 
「…それは、隊長の?」 
「見守る辛抱も、優しさだってボクは思うよ」 
「…何か、知ってる?」 
「ううん、全然。でもなんか悩んでるなってことは、わかるよ」 
「・・・」 
「トゥルースが寝ないならボク先に寝るけど」 
「どうぞ…」 
「…ボクもね」 
「?」 
「ボクも、出来ることなら助けたい。でもまだ望まれてないから……ボクも、たまにすごくつらい。…おやすみ」 
「おやすみなさい」 
 
ビッケバッケがビュウのいるテントへ入る。 
背中を見送っていたトゥルースは、内心驚きを隠せないでいた。 
-ビッケバッケはよく見ている- 
そう言っていたビュウを思い出す。 
 
「よく見ているのは、貴方ですよ…」 
 
胸の奥が熱かった。 
いつもの癖で、それが何故か考えようとして彼は慌てて蓋をした。 
けれど一度認識してしまった感情は蓋の隙間から溢れてくる。 
 
「……いえ、まさかそのようなことは…」 
「うぅん、ヨヨ様ぁ…」 
 
ラッシュの寝言に突然思考を打ち切られたトゥルースは、その隙に完全に蓋をした。 
本音を隠すのは慣れている。 
けれど-戦竜隊になってからは初めてだ。 
ラッシュの幸せそうな寝顔を眺める。 
思わず苦笑した。 
数時間後には起こして見張りを交代しよう。 
そう心に決めて、バッグから秘蔵の戦略本を取り出した。
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