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 今日が満月ではなかったら、気づかなかったかもしれない。
 周囲に敷かれたバラストと同じような色だったし、何より小さかった。
 毛皮は濡れそぼっている。先ほど止んだ雨のせいだろう。
 その雨は同時に、体も流してしまったのだろうか。それとも通りかかる前に獣
に食われたのだろうか。
 穴になった瞳を残し、小さな頭のうちの小さな顔だけが虚ろに転がっている。
 バラストや枕木の間から生えた雑草の長さからして、もう何年も手入れがされ
ていない線路だった。つまり廃線だろう。だから無機質な電車に轢かれたのでは
無い。
「カラスにでも食われたんかな」
 淡々とした声が聞こえた。
 横を見ると、同じように線路のそばの虚ろを見ている先生がいた。頭に満月が
映っている。
「アレだな。俺にとっての魚みたいなもんなんだな」
「魚、ですか」
「干物の目は食べるだろ」
「・・・なるほど」
 再び歩き出した。 
 先生以外の住人がいないこの地域は、生活音が全く無いだけに話し声が響く。
この地域を縦断する高速道路でさえ、通ろうとする車がいないくらいだ。
 怪人が出現するこの地域に入ろうとする人間は少ない。この市を拠点としてい
るヒーローも巡回に来ている気配が無い。もちろん来る必要は無い。何せ先生が
いるのだから。
 振り返ると、虚ろな瞳と目が合った。
 何かに追い立てられるような不気味さに足を止めると、先生の足も止まった。
「どうした?」
「いえ・・・」
「行くぞー」
「はい」
 電信柱に貼られた広告が剥がれかけている。数年前の情報誌はカサカサに乾いて今にもぼろぼろと崩れそうだ。折れた看板は錆びている。陥没した地面には雨水が溜まって月を映していた。
「よっと」
 不意に、先生がところどころ千切れた金網を飛び超えて線路の上に立った。
「映画の真似な」
 どことなく嬉しそうに歩き出す先生を追って、金網越しに隣を歩く。
 死体を後ろに、電車が来る心配もない線路の上を歩く。
 映画の真似というにはあまりにも正反対な状況は少しおかしかったが、線路の上で平均台のようにバランスを取りながら歩く先生は満足そうだ。
 
 
 
 
 
 
 日常には死が転がっている。
 先生がいくら怪人を倒しても死人は出る。病死や、事故や、何か。
 怪人の数も変わらないと、おっしゃっていた。なににも影響を与えていないと。
 惜しむらくは何にも影響を与えていないと、おっしゃったその言葉を否定する材料が自分に備わっていないことだ。
 先生を知って変わった俺のことも、先生には関係がない。
 それでも日常に最も遠い人の弟子になれたことを誇りに思う。
「今日の晩御飯は昨日漬けた豚の味噌焼きです」
「楽しみだ」
 線路の上でスキップを始めた先生の日常に、少しでも自分が混ざるといい。
 
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