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冷たい。
起き上がる気力は無い。どうせなら腫れている右頬を冷やそうと顔の向きを変えたが、それだけでもう力尽きた。
自分の足は空を向いている。まるで空から落ちてきたような体勢だが、なんてことはないゴミ捨て場に投げ捨てられただけの話だ。
今夜は雨が降ると、街頭に展示されたテレビが言っていた。それまでに移動しなければならない。
1月の濡れネズミは死を意味するだろうから。
ただもう指先を動かすだけでも億劫だし、非常に眠い。
怪我のせいなのか、最近の疲れが出たのか、それはわからない。どちらも正解な気はする。
――さすがに眠ってはいけないと思う。
つい先程見た男の息の根を止めるまで、ここで止まってはいけないと頭の片隅では思っている。
それでも瞬きする以外にやれることがないまま時間が過ぎた。
雨が降ってきた。しばらくすると、大勢の人々の足音がした。
先程までの足早な音とは明らかに違う。帰宅の時間なのだろう。これからどこへ遊びに行こうとも、会社を出た人間の足取りは軽く聞こえる。
ひとつ、大きくなる足音があった。人を投げて去った男の足音ではない。その足音は近づいて来て、すぐ横で止まった。
左頬を冷やしている間なら見ることはできたかもしれない。
もしくはこの眠気に勝つことができていたら。
土台、無理な話だ。
寒い。
今体を起こしているのだろうか。腕に力が入らない。
誰かが何かを言った気がする。誰がいるのか。
「その怪我は・・・!?え・・・このこどもですか」
腹が痛い。
左の腹から体が裂けそうだ。
吐きそうだ。
痛い。寒い。
痛い。
「付き添われるのでしたらベッドを用意しますが、・・・わかりました。車を手配します」
痛い。寒い。
痛い。
「痛むのか」
痛い。
「そうか」
寒い。
・・・あたたかい。
ベッドの感触だ。
あたたかい。
背中に何か感触がある。生き物だ。
「クロ」
黒猫でもいるのか。そうか、この背中の生き物は猫か。
――あたたかい。
そしてめまいがする。
あたたかさは強烈な痛みと一緒だということをこの知った日の朝だ。
そんな記憶を夢で見る。
ようやくベルに気がついた。
瞼を持ち上げる。眠いし、腫れは引いたが顔はまだ痛い。
暴力警官に殴られた借りはどうやって返そう。そう思いながらベッドを離れた。
「はい、今月分」
「・・・おう」
「まだ寝てたの?」
「うーるせ」
追い返す。
ベッドを振り返ると、黒い猫が寝返りを打っていた。
堂々と真ん中に陣取っている猫を端に転がして再び布団へ潜り込む。
痛みも何もないあたたかさはいい。
少しベッドを取られる。対価はそれだけだ。
金と違って使っても減らない。それは体も同じだけれど。
布団を剥がれた猫が隙間から潜り込み、ぬくもりは背中に移動する。
背後に誰かがいる。そんな錯覚。
ふと、さっき夢を見たことを思い出しそうになって、固く、目をつむった。
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ともひと
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