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「君をイメージして作らせたんだ」
「いや、ちょっと意味がわからないんだけど」
「しかしこれでも君の前では霞んでしまうな」
「うん、いいから人の話を聞け」
 桜の木やら丸っこく刈られた緑やら風流な平屋やら、よく見れば小さな川のようなものと小さな橋。要は小さな日本庭園。ただし、高そうなマンションの最上階。誰でもおかしいと思うだろう。
 さらに言えば、これをハゲた男のために用意したというこの男。
「お前、どっかおかしいんじゃねえの」
 涼しい顔で何が?と答えた男が、庭の一画を指差しながらあそこが少し物悲しいよね、などとよくわからないことを言う。
「野点なんてどうかな。君は何がいいと思う?」
「あれか、ハゲの頭に景色を反射させようってそういう趣向か?」
 そうだったら殴るけど、とまで言ったところで、前を歩いていた男は不思議そうに振り返る。
「反射・・・?そうか、夜になったら灯りが欲しいよね。あそこには灯りを用意しようか」
「なんでお前らは人の話を聞かないんだ?」
「お前らって、誰と一緒にしてるんだい、この僕を」
 ムッとした顔のイケメンがいる。見慣れたイケメンとは違うイケメンで、つまりイケメンはもう俺の中では腹がいっぱいである。
「腹減ったし、帰るわ。別に庭園っていうか、家とかいらないし。俺もう家あるし」
「君の別荘だと思ってくれたまえよ。それにランチを用意してあるんだ、君のための」
「財布持ってねぇよ。それに、どうせ高ぇだろ?」
「君のために準備したと言ったろう?」
「それはつまりあれか、おごりってことか」
「当然だよ」
「じゃあ、いや、うーん」
 こんな豪勢なところで飯を食う理由がねえな。しかもこいつと。
 でも確かに腹は減ったし、食費が浮くなら気にしなくてもいい気がする。食ったらさっさと帰ればいい。
「まあ、そういう家の妖怪みたいなやつに出会ったと思えばいいよな」
「妖怪?」
「なんでもねぇよ」
 イケメンが嬉しそうな顔をしている。華やかな顔なんだろうけど、なんでかこう、顔がいいやつの笑顔というのは腹黒そうだ。
 とりあえず食べたら帰ろう。今日あたりキングが来るだろうし、今日こそ一勝したい。
 そんなことを考える俺の前で、芸能人をやっているヒーローは嬉しそうにずっとニコニコしている。
「君とこうしていられるなんて、夢のようだ」
「ふーん」
 イケメンは言うことが違えな。いや、でもあっちのイケメンはこんな歯が浮くようなこと言わない――けどいきなり弟子入りしてくるようなヤツだし、やっぱりイケメンはみんなどっかおかしいのかね。
 とりあえずひとつだけわかったことがある。
 イケメンが出す飯はうまい。
「ま、飯くらいならまた食いに来てやってもいいぞ」
「本当かい?」
「お前が俺だけ来いとか言わないんだったらな」
「それは無理だよ」
 微妙な顔をしている。イケメンが考えていることなんて俺にはわからないから、その表情がなんなのかは考えもしねえけど。
 
 
 
 
 
「じゃあな。ごっそーさん」
 送ると言い張るので、めんどくせえから走って帰ることにした。
 伸ばしてきた手を避けて柵を乗り越え、とりあえずマンションの壁を駆け下りる。
 追ってくる素振りがあったが、携帯が鳴った音がしたので追っては来ないだろう。確か1時間ちょっとしか余裕がないと言っていたし、芸能人というのも大変そうだ。
「いつでも飯が食えるとこか。ま、いい椀を見つけたってことか、な?」
 それじゃあ少し可哀想な気もしないではないが、そんなことを気にするようなヤツでもなさそうだ。
 水平の地面に降り立ってから今までいたところを見上げた。
 こちらを見下ろす影が見えた。軽く手を振ると、影が動いた。
「じゃあなー」
 そのうち金が無くなったら飯をたかりに来よう。最近来客が多すぎて食費がかさんでるし。
「給料、上がらねえかなあ」
 歩いていると、正面から土埃が向かって来る。たぶん見慣れているほうのイケメンだろう。博士のところから直接迎えに来ると言っていた。
 それにしてもそんなに急ぐ必要がどこにあるのか皆目見当がつかない。
「ほんと、イケメンって意味がわからねえよなあ」
 目の前で止まった年下のイケメンのよくわからない質問に適当に返事をして、帰途に着いた。
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