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「え?ちょっと聞こえづらいんスけど」
相手の周りはやたら煩いようだ。
知っている声のはずなのに言語が違うというだけでどれが相手の声かわからず、携帯を耳に押し付ける。
誰かに携帯を取られたような様子も伺える。
声は遠くから聞こえた。
電話越しだと確信がないが、今の声が電話の持ち主のはずだ。
「・・・もしもし?」
品のない笑い声や叫び声が聞こえてくる。
沈黙した。
リアクションがないところを見ると、こちらの話は誰も聞いていないようだ。
聞こえていてもわかる人間は、持ち主以外にはいないかもしれない。
やがてガサガサという耳障りな音の後、急いだような『もしもし』と言う声が聞こえた。
「よお」
悪ィ、と繰り返す声が懐かしくて、少し嬉しかった。
「・・・元気?元気そうだけど」
『まあ・・・元気だよ』
「それじゃあ」
『あ、ああ』
通話終了ボタンを押した。
ディスプレイに表示された発信者の名前に急いで出たのが馬鹿らしかった。
明日の午前中に配達する予定の酒瓶をケースに入れる。
帰省が多くなる時期だけあって、いつもの2倍弱は注文が多い。
正直、忙しかった。
再び電話が振動した。
ビール瓶が9本入ったケースを、12本入ったケースの上に乗せてから、尻のポケットで振動していた携帯電話を取り出す。
先ほどと同じ名前が表示されていた。
指が震えた。
出てもいいのだろうか、と躊躇っている間に切れたらどうしよう。
「・・・はい」
『俺』
「うん」
やたら緊張した。
耳元から聞こえてくる声がくすぐったくて、正直どんな顔をすればいいのかわからない。
電話でよかったと、思う。
もちろんすぐに会える距離にいるわけでもないのだけれど。
『来月日本に行くんだけど』
「―うん」
『顔見に行っていいか』
「いーんじゃね?・・・母ちゃんにも顔出せよ。俺あとで殺される」
『はは』
蛍光灯が音を立てて明かりを点滅させた。
カレンダーを見る。
配達の件数が正の字でぎっしりと書かれた大きなカレンダーをめくった。
15の日曜日に赤い丸をつける。
「なあ」
『ん?』
「どっか遊びに行く時間あんの」
『俺は1週間くらいいるよ』
「・・・そっか」
『ケツ締まらなくなるくらいやろうな』
ブッ―
ブチッと、先ほどより勢いよく通話終了ボタンを押した。
携帯を投げつけそうになって――なんとか思いとどまった。
ただ何かに当たらなければ気がすまなかったので、
「んの腐れ兄が!」
と叫んだ途端何か―おそらく先ほど回収してきた空のビール瓶―が尻を強打した。
涙で滲む視界の端に、思ったとおりビール瓶を片手に仁王立ちしている母の姿があった。
「もういい夜なんだから静かに明日の準備をおやり」
「・・・おう」
重労働が始まる。
来月も尻が痛むことになりそうなのに、これから痛むなんてあんまりだと彼は思った。
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