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「セリス…セリスセリスセリス」
 
ガクガクと震える手で不器用に治癒を施す弟をぼんやりと眺め、
なんの感情もいたわりもこもらない手で投げやりに頭を撫でた。
指先に感じるはずの上質な生糸の如き髪の手触りさえ
分厚い手袋に遮られてでもいるかのように定かではない。
自分の意思が上手いこと伝わらない我が身は他人じみて白々しい。
親しげに身近に擦り寄るのは忌々しい痛みと半乾きの血液の気色悪さばかりだ。
血が入った目に世界はうまく見えるはずもなく
 
「ごめんごめんセリスごめん死なないでセリスセリスセリス」
 
と呻く目の前の影が果たして真に己の弟か否か。
見極めようとすることすら無意味に思えた。
誰だ。お前は。
力の尽きた体はしかし
その誰とも知れぬ頭を機械的に慰撫することをやめる気配もない。
静かな困惑がじくじくと胸を腐らせていく。
泣いていないのがいっそ不思議な目の前の大きな子供の頭を、
この不快さにまかせて握り潰してやりたい。
 
「…セリスごめんセリスセリスごめんなさい…」
 
「謝るな。胸糞が悪い」
 
堪え難い苛立ちにかられ、
燃えるような紅髪を辛うじて動く右手でわしづかみ力まかせに引っ張った。
思いの外奇襲はうまくいって十数本の髪が犠牲になった。
驚いた子供は奇声を発し口汚く喚き罵り腕を振り払い無茶苦茶に殴りつけてきた。
不完全に塞がっていた傷口は開き拳は血にまみれた。
まるで彼の方が手酷い傷を抱えその痛みに抗っているみたいだ。
絨毯の毛を抜いたり人を引っ掻いたり殴ったり噛んだりでせわしない。
その様に半ば呆れながら、
激痛の走る体をなだめすかし震えの止まらない手で掠めるように頬を撫でた。
白い肌に紅い指の跡が縦にくっきりと引かれる。
彼は驚いて目を見開いた。
それがどうにも間が抜けていて愉快で、喉の奥でクツクツと力無く笑った。
人が笑ってる事に気付き、真似してゲラゲラと高笑いを始めたこいつは
本当のところ自分にとって弟でも何でもないのだろう。
奴は笑いながら額を血だらけの胸に押し付けてくるものだから、
振動が直接伝わりさぼりがちな鼓動を動け動けと促す。
仕方なくまたその傲慢な頭を適当に撫で始めた。
馬鹿だなぁ。
本当に。
例えようもなく。
自分が愚かだった。
失笑さえわかない白けた冗談だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この血の吹き出るような生々しい熱を、愛情と呼ぼうとしている。
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