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「ちぇんちぇ、このハサミ不良品なのよさ」
「ん?」
「こんな薄い紙も切れないのよさ」
「あぁ、私の部屋にあったのを使ったのか」
 彼は愛娘の手からハサミを受け取った。
 懐かしそうに眺めた後、ふっと微笑む。
 その表情を見ていた愛娘が怪訝な顔をする。
「何笑ってるのよさ」
「いや。見ててご覧、ピノコ」
 彼は左手にハサミを持つと、愛娘が握っていたお菓子の袋の端を切った。
「切れたのよさ!」
「これは左利きの人用のなんだ」
「ふーん。なんでちぇんちぇが持ってるのよさ」
「昔は左手の方が器用だったんだ」
「それってちっちゃいころのお話ち?」
「あぁ。本間先生に買ってもらったんだ」
 そう言うと彼は一瞬沈黙してから、愛娘にハサミを手渡した。
「ちゃんとしまっておくように」
「は~い」
 封が切られたお菓子とハサミを受け取って、ドアの向こうへと去って行く。
 彼は自分の部屋の引き出しが閉められる音を聞いてから、
 ゆっくりとカルテを開いた。
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