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「だからな、このペンキで柵を塗りたいんだよ」
「はあ」
「こんなのありましたっけ」
「そこの倉庫で見っけた。この色のペンキはこれしかねえから、溶剤が必要なんだが」
「酒ならそこで売ってるよ」
「え?」
「溶剤だろ?」
「ああ」
「安い酒で溶かせば安い」
「この辺の家は全部水溶性のペンキで塗ってますから」
「…剥がれるだろ?」
「まあ、剥がれてくれないと、どうせ塗り直すだろうし」
「うん…いや、まあ、な?」
 言葉尻を濁す元・師を横目に、彼は辺りを見渡した。
 つい十日程前まで茶一色だった村が、今は目に痛いほど様々な色で塗られている。どうやら先日戻った船にはペンキが積まれていたらしい。
 住んでいる人間の感性を疑う色もあれば、落ち着いた配色をしている家もある。が、はしゃいだ家が多いせいで総じてごちゃごちゃとした村にしか見えない。
(色を選ぶことが出来るってことは、結構贅沢だったんだなあ。あそこ白一色だったから気づかなかった。――それにしてもこれはひどすぎるけど)
 薄く色がついた、淡い色を選び袋に入れる後ろ姿を眺めた。何か手伝おうかと問う間もなく、ペンキが入った袋を差し出され反射的に受け取った。
 手ぶらでスタスタと歩き出した後をついていく。すぐそばの用具店に入っていったので、両手に抱えた袋を持ったまま外で待つことにした。
 正面の家の屋根が今まさにピンク色に塗られようとしていた。屋根の上の住人と思われる人間と目が合う前に自然体を装って目をそらす。
 逸らした先では壁が濃い緑に塗られた家があった。カビているように見えるが、住人は気にならないのだろうか。
「ありがとうございましたぁ」
 店の奥から聞こえてきた間延びした声に振り返る。
 黒髪黒目の、ただでさえ目つきがあまり良くない――むしろ悪い――不機嫌そうな顔を、更に顰めた男が出てくるところだった。
 何が需要と供給の関係だ足元見やがってとブツブツ呟きながら歩く姿に人が避けていく。魔王だから、ではない理由で避けられていることを本人はわかっているのだろうか。
(わかっていても気にしてなさそうだしなあ)
「おい、マジク」
 唐突に振り返った男が顎で店をさした。何事かと見返せば、そこで安い酒を買って来いという。
「お酒飲むんですか?」
「お前ペンキ塗ったことないのか?」
「ないです」
「バグアップのやつ…一人息子なら生活力ぐらいつけさせておけって話だよな」
「オーフェンさんが僕を連れ出したようなものなのに…」
「人聞きが悪いこと言うんじゃねーよ。あーあ。お前が小せえころはお師様お師様ってそりゃあ可愛かったのになあ」
「…そんなに経ってないと思うんですケド」
「俺の背を越すような奴はもう可愛くねえよ」
 どうせ口では勝てないのについ反論してしまうのはもう癖のようなものだろうか。たまに勝てたけれど、あまりいい思い出とは言いがたい。
(まあ、お金がないオーフェンさんに正論を言うくらいは僕もしたけど)
 安い酒を小さな樽ふたつ分購入し、ペンキの塊が入った袋に突っ込んだ。酒場から出ると、いかつい男二人に絡まれている元・師を見つける。
 それはともかく、袋の中でガチャガチャ音がしたので、収まりが悪いと酒が漏れるかもしれないと思い、一度袋を地面に置いて中を覗いた。
 いい位置取りに据えて再び袋を持ち立ち上がる頃には、いかつい男は空に吹き飛んで弧を描いていた。
 どうするのだろうと思って見ていると、男たちが戻ってくる。再び構成を編んでいた気配がないので、行って帰ってくるまでがひとつの魔術なのだろう。
 戻ってきて地に足をつけるなりその場にへたり込んだ男二人を見下ろしながら、たぶん、おそらく、でもきっと、半眼で意地の悪い笑みを浮かべているのだろう彼の後ろ姿を見る。
 青い顔をしていた男たちがハッと気づき逃げていく。遠巻きに見ていた住人からワッと歓声が上がった。
「あいつら最近横暴で困ってたんだよ!」
「ありがとう、これで金をむしられなくて済むよ」
「ダニはどこにでもいるんだな」
 口々に賞賛の声を上げるが、近寄ってくるものはいない。魔術を使ったことで、彼が誰か皆わかってしまったからだ。
 それでも賞賛されるだけまだいいのかもしれない。
「あー、はいはい。なんか困ったことがあったら自警団にな。俺がいれば俺に言ってもいいけど」
 こういう事態――つまり口々に褒められる事態だが――に未だに慣れていないらしい彼はどこか照れくさそうに、でもぶっきらぼうにそう言うとスタスタと歩き出した。
 慌てて後を追う。せっかく綺麗に入れた袋の中身が崩れてまたガチャガチャと鳴り出した。
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ」
 ひとけが無くなっても速度を緩めない彼の後を追うのはつらい。
 馬車は使わないようだ。となると、2時間くらいは歩くことになる。流石にそれは腰が痛くなりそうだし酒が漏れないか心配だ。
 仕方なく構成を編んで鼻歌で発動させると、荷物は宙に浮いた。数歩先を行けば後からついてくる。
 それを確かめてからふと前を見ると、いつの間にか振り返っていた彼と目が合い、息を呑んだ一瞬で落ちてきた袋を慌てて受け止めた。
 ホッとしている隙に、目の前に構成が浮かんだ。それは先ほど自分が展開したものより美しくそして簡潔だった。
「ふむ」
 霧散した。何故構成を今ここで見せられたのかよくわからないまま、ペースを落とした彼について行く。
 やることがわからないのは今も昔も変わらないようだ。まさかもう師匠でもないのに手本を見せてくれたわけではないだろうに。
 無言の2時間はとてもとても長く感じた。
 
 
 
 
 彼の妻と子たちが待つ庭は出かける前より雑草が減っていた。よく見れば花が植えられている。
「色あったぞ」
「今日塗るの?」
「今日じゃないのか?」
「雨降りそうだし、明日でいいんじゃない?」
「…なんだ」
 少し唇を尖らせた彼が家の中に入っていった。追っていいのかどうすればわからず荷物を持ったまま立ち尽くしていると、彼の妻が言った。
「オーフェンと話せた?」
「え?」
 金色の髪を細い紐で結い上げた妙齢の女性が、片手に鎌を持って近寄ってくる。以前のイメージが付きまとうだけに物騒だ。
 その足元では黒髪の細くも凛々しい少女がこちらを見上げている。将来が心配になる、少女の父親そっくりの眼差しだ。
 身構えて反射的に数歩下がったところで正座をさせられた。失礼ねとか言っているけれど、仕方がないと思う。
「話したいこと、あったらしいわよ?」
「なにを?」
「さあ…自分で言うって言ってたわ」
 くるりと振り返った彼の妻が、再び雑草むしりに精を出し始めた。立ち上がり、荷物を玄関に置く。呼びかけるとすぐ隣の部屋から声がした。
 請われるままその部屋に入ると、ラッツが飛び込んできた。
「おじちゃん!」
「お兄さんね」
「あー、お前にそいつの面倒を見てもらいたいんだわ」
「…え?」
「じゃ、そういうことで」
「え?」
 足早に玄関へ向かう彼を追おうとして、足が動かず下を見た。ニンマリと笑った小さい生き物が見上げている。
 その生き物の正面に構成が見えて――頭から血の気が引いた気がした。
 
 
 
 
 
「ちょっとおおおおおおおおお師様ぁぁああああ!!なんでラッツがこんなの知ってるんですかぁぁあああっ!?」
「お師様だって。懐かしいわね」
「そうだなあ」
「ちょっ!?それはダメだラッツそれはダメ!!!!!!」
「いやあ、ラッツ物覚えが良くてなあ。幾つか見せたら覚えちまって」
「あたしの遺伝よね」
「そうか?」
「やめてえええええええええええ!!!!!」
 マジクとラッツベインの間に土埃が舞い上がり、二人の姿が見えなくなる。
 横にいたエッジが、マジクがいた方向へトテトテと駈け出した。直後、マジクの悲鳴が上がる。
「エッジがなあ、これがまた格闘技が好きみたいでなあ。2歳なのにすごいだろ?」
「運動神経はあたしの遺伝ね」
「…」
「なあに?」
「いや、別に」
「いいから二人を止めてくださあああああああああい!」
「今日からお前がラッツの師匠だからな、ちゃんと弟子にはいうことをきかせるんだぞー」
「あああああああ」
「元気ね」
「そうだなあ」
 雨が降りそうな空を見上げて、夫婦は笑いながら家の中へと入っていった。 
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