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 真東の印として植えた樹がだいぶ大きくなって、垂れた大きな葉がいい具合の木陰を作っていた。来年には実をつけてもいいくらいだが、去年もそう思っていたことに気づき、それならまだ数年は無理だろうなと思い直した。
 その木に寄りかかって広場を眺める。質素だが普段の生活から見ればかなりの贅沢品を振舞っている宴の中心で燃え上がる炎に、妻の影が映っていた。
 同僚とやけに盛り上がっているらしい。あの中に自分が入れば昨日のように変に気を使わせてしまうので、こうして遠くから眺めるだけに留める。
 つまり昨日もここからこうやって宴を設営する町の衆を見ていた。手伝おうとすると焦ったような笑いでしかしきっぱりと断られた。隔たりを感じるのは、自分が政に携わるようになったせいなのだろうか。
 空を見上げた。星が見えている。夜明けまで降っていた雨は雲とともに去ったらしい。
 宴に使う予定だった、よく乾いた木材をこれでもかと濡らしてくれたあの雨は雷雲とともにやってきた。いつの間にか寝ていた自分が目を覚ましたときには風が吹き荒び、細い木々は舞い上がっていた。少しでも飛ばないようくくりつけようとしていた妻の背を雷が照らし、突然の光に目を眩ませながら妻に走り寄ってロープを受け取った。
 どうせなら屋根があるところへ運べば良かったのだが、重い木材を全て運ぶ時間はなかったのだ。
 ロープを受け取るときに見た妻の顔が、ともに旅をしていたときの顔とはひどく別の人物に見えた。
 準備をフイにしようとする風が突然胸を穿ち、通りすぎて行ったように感じたのはその時だったろうか。
 住民を帰して自らも足早に家へ戻る。砂嵐の街で育った者が多いので風くらいで飛ぶような家は建てていない。だが雨は別だ。雨が戸や屋根を叩く音は酷く不気味だったし、雷によって家の中が一瞬白く浮かび上がる様はなかなか慣れなかった。
 急激に襲い来る睡魔に抗おうと妻を見ると、彼女はどこか不安そうな慌てたような顔でこちらに駈け出してくるところだった。雷が怖いのだろうか。そんなことはなかった気がするが。
 ゴツン、と、頭に衝撃を受けてからしばらくして目を閉じた。
 開けた時、窓の外に赤い空が広がっていた。傍らに立っていた妻が涙を流し、嗚咽を堪えずに拳を振り上げ、降ろした。降ろした先は俺の腹の上だった。
 妻は再び拳を上げ、そして振り下ろしざまに抱きついてきた。あまり無いことに動揺しながらいつの間にかベッドの上にいたことに気づき、そして豊満とは言いがたい胸が顔に当たった。
 明日の宴は家で寝ているか、それがどうしても嫌なら酒を飲まず座っていろとの声が聞こえた。小さく頷いて腕を妻の背に回す。彼女の背は、最近座ってばかりいる自分よりもしかしたら逞しいかもしれない。
 
 
 
 
 
 種火を手渡され、組まれた木の下をくぐらせた。ぱちぱちとすぐに燃え出した紙類が黒い煤となって空中に舞い上がる。昨日の雨で濡れてしまった木は椅子とテーブルに利用され、近くの家から乾いた木をもらって再び組み直したのは妻の隊の者たちだ。
 立ち上がり、皆の顔を見る。宴の音頭は短く終わらせた。そして昨日と同じ木を背に座り、今に至る。
 温かい牛乳のスープが入った木のカップに口をつける。それは朝妻が差し出したスープと同じ味がした。ついでとばかりに腹の痛みを思い出して無意識に擦る。
 妻の嗚咽は昨日の雷鳴のようだった。初めて聞いた声は怒りに震えてもいて、もしかしたら自分が考えているよりも愛されているのではないかと期待した。
 炎が妻の影を揺らす。その友人同僚たちの影を揺らす。肩を組み合い、心からこの新天地に渡れたことを感謝している。
 そして自分の肩には慣れた剣がもたれかかっているだけだ。
 彼らが、彼女らが明日の希望を歌っている。夢の様な先を思い描いている。彼らの夢を現実にするために何をすればいいのか。自分の肩には剣しかいないのに。
 胸にまた風が通って行った気がした。
 
 
 
 
 
「なあ、もう実はもいだのか」
 剣に手を掛け腰を上げそうになって、留まった。敏感な妻はその一瞬にも満たない殺気に気がつきこちらを振り返っている。手を振った。できうる限りの自然な笑みを浮かべて。
「ワリィ」
「全くだ」
 妻は枝葉に囲まれた木の上を見たようだった。そしてすぐに顔をそむける。
「…そんな気遣いしなくてもいいんだぜ?」
「なんのことかわからない。それで、実は?」
 確かにわざわざ自分が来たことを教え、且つ殺気を放つ程に嫌悪している存在だと印象づけるための演出にしてはベタすぎる。
「出来るわけねーだろ。あと何年か待て。成ってもお前にやらんがな」
「いいよ。自分でもぐから」
「そういやあ昔は借金まみれの借金取りだったんだよなあ。そういうの得意そうだよなあ」
 ムッとした気配がした。すぐに消える。振り向くと、木の向こうに既に小さくなった黒い影が見えた。
 剣を反対の肩にかけ直して、また火を見た。瞬きをすると目が痛む。乾いたのだろう。
 胸を通る風が頭上の枝を揺らしざわざわと音を立てた。と同時、何かが降ってくる。痛む目が見慣れた形を捉えて頭上で受け止める。缶詰だった。
「先払いのつもりか?」
 自然と唇の端が笑った。スープを飲み干してカップを置き、缶詰を開けた。
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