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 言い淀んでいる弟が面白かったので、しばらく観察していた。
 視線を彷徨わせながら唇を尖らせているので、今までのパターンなら6割くらいの確率で何でもないと言ってくるはずだ。
「あのさー」
 6割が消えた。残りの4割の可能性を考える。
 小遣いを借りたい。恐らくこれが7割。技を見せろ。2割。残りは予測不可能な何かだ。
「ケーキを、っと」
 なるほどケーキに出資しろ、か。
「いくらだ?」
「ん?」
 キョトンとする弟を見る。何かが違うようだ。
「資金繰りじゃないのか?」
「は?」
 最近急に育った可愛くない顔が、間抜けに口を開けている。しばらく眺めていると首と手を振って金の話じゃないと言った。
 そして来たときから後ろに置いていた大きな袋を、膝の前に置いて、突き出して来る。
「これは?」
 受け取って、中を覗いた。ケーキ屋でよくみる箱の大きなものが入っている。
 立ち上がった弟は座布団の端を踏み、座布団を大きく動かしてから障子を開けた。
「たんっ、たんじょーび!おめでと!」
 恐らく照れ隠しなのだろうが、屋敷中に響き渡る声量で叫び、部屋を出ていった。
 どすどすという足音が消えてからしばらくして、部下たちが開け放たれたままの障子からそっと顔を覗かせた。
 すごい大きな声でしたね、誕生日は先々週でしたよね、等の声がかけられる。
 頷いて、大きな紙袋からやたら重い箱を取り出した。そのときにはもう部屋に何人もの部下が入って来ていたし、箱を開けることを待ち構えている様子だった。
 畳の上に乗せた箱の蓋をそっと開ける。横から引き出す方式ではない。持ち上げて開けるようだ。そうだろう。その方が開けやすい大きさなのだから。
「わ…わあ!!」
「おお」
「これはこれは」
 感嘆の声が漏れた。
 バナナ、イチゴ、オレンジ、キウイ、桃、そしてさくらんぼが山のように乗ったタルトが現れた。隅にちょこんとおかれたクッキーには誕生日を祝うメッセージが書かれている。
 その、高さにして20㎝はありそうな、直径40㎝の巨大なタルトをひとしきり眺めてから、誰にもやらないことを宣言してから冷蔵庫に入れるよう指示し、ブーイングを後に屋敷を出た。
 術で作った足場を駆け上がり、見覚えのある後ろ姿を発見して駆け降り、拐って再び空へ戻る。
「おい!今昼間!人いるから!」
「じゃあもう少し上まで行くか」
「ふざけんな!!」
「ありがとう」
「…!」
 小脇に抱えた弟は小さな声で何か言っている。聞こえないことにする。
 特に何かしたかったわけではないので、強いて言うならば抱きたかったが、さすがに日中の空でそれはいかんだろうと自制しながら街を眺めた。
「夜は暇だな?」
「なんで?」
「今夜いくから」
「…は?」
「礼だ」
「いや意味わからねえし来んなし」
「じゃあまた後で」
「来んなって言ってんだろ!!」
 抜け出て逃げ出した弟を見送る。ああは言いつつもそわそわしながら夜を待つのだろう。かわいくて仕方がない。
 帰ったらひとりであのタルトを食べよう。なにせかわいい弟が作った誕生日プレゼントなのだから。
 それが例え仲間たちにひとでなしと言われようとも。
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