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その店先に吊るされたエコバックにはケーキが描かれていた。
実際に売られているケーキとは違い、上から垂れてきたクリームがケーキの側面に、そして大粒のイチゴが真ん中にぽつんと乗っている。
(こんなケーキって絵でしか見たことないなあ)
自分だったら、テーブルにこんなものが乗っていたら作り物だと思うだろう。
それならそれで面白そうだ。
それがきっかけだった。
「わ、なんだいこれ。食品サンプルかと思ったよ」
スーパーの袋を持ったまま、テーブルに置かれたケーキをじろじろと眺めた上でのその一言が嬉しかった。
目元の赤い父が見せた笑顔はいつも通り嘘偽りのないもので、なんとなく胸をなでおろしてしまう。
ふとした拍子に憂いを漂わせる父親の表情に少しでも明るさが戻ればいいと思った、それだけの計画が無事に終わって、自室に戻りぼうっと窓の外を眺めた。
「ご飯前だけど、ありがたくいただくね」
そういいながら小さなケーキを食べた父親を思い出す。
自分たち兄弟の前では泣かなかった父親の強さはどこから来ているのだろう。
自分の母親は父親の恋人なのだと、今更のように理解した日からもう一月あまりが経つ。
離れていても、音沙汰がなくても、ずっと夫婦でいた二人の間には何があったのだろうと、不思議な繋がりでもあったのだろうかと、何故か考えてしまう。
再び窓の外を眺めて、ふと思い出したのは父親が持っていたスーパーの袋の中身だ。
にんじん、たまねぎ、ブロッコリー、そして牛乳とチーズと、鯵の干物。
「・・・シチューだといいな」
そのとき、廊下からトストスと無遠慮に、そして足早に近づいてくる音が聞こえて椅子ごとクルリと部屋の入り口を振り返った。
ノックもなく開かれた襖の向こうから現れた兄は、興奮した様子でケーキがどうのと話している。
作り方を聞かれても学校にたまたまあったお菓子作りの本を読んで作っただけだから、手順なんてほとんど覚えていない。
「どうしてもっていうなら、また作るよ」
「本当か!?いやあ、お前もお菓子作りにはまるなんて思ってもみなかったぜ。今度一緒に城を作ろう!」
息を吐いた。
何も考えていなさそうな兄は実は一人で考え込むほうだし、その上の兄は笑顔が嘘くさくて近寄りづらいし、二人に共通することと言えば何を考えているかわからないってことくらいだ。
父親の笑顔を思い出す。
まさかといった顔で、これを作ったのは誰かと聞いてきた、屈託のない表情のあの人から産まれて来た兄がこんなだなんて。
ある意味わかりやすい顔だけど、ある意味母親に似ているんだろう。
母親だけじゃなく兄たちも不思議な存在だ。
「なんだ、嫌なのか?」
兄の小さくなった声にハッとして意識を戻す。
慌てて否定して、ケーキを作る約束をすると満足げに微笑んだ兄は部屋を出て行った。
襖を閉めながらありがとうと言われるが、その言い方が今の会話とは別のところへ向けられているようで、わからずに小首を傾げる。
たぶん、兄のことだからまた何か深く考えたのだろう。
「もう気楽でいいのに」
蚊帳の外だった自分が悔しいと思うのは、同じく蚊帳の外だったはずの父親がそうではない表情を見せたからなのだろう。
自分で自分に疎外感を覚えていたことに恥ずかしいと思う。
それと同時に、不器用な兄たちの支えになろうと思う。
父親が今までそうだったように。
少年は立ち上がり、部屋を出た。
台所で立ち回る父親の姿を見つけて手伝いを申し出る。
嬉しそうな顔を見つめて、少年は皿を受け取った。
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