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                  《Side Bikkebakke》 
「見えた!」 
 
慣れないドラゴンの上で、ボクは叫んだ。 
それが嫌だったのか、驚いたのかはわからないけど、モルテンは着地前にやたらと乱暴に身体を揺すってボクを跳ねとばす。 
転がって、尻餅をついて、慌てて立ち上がった。 
出迎えてくれた人に、アニキの帰りを告げる。 
続々と小屋から人が出てきて、中には知らない人もいたりして、ボクは少し緊張した。 
これから始まるんだな、って思って。 
ボクたちが後をつけられていないか、念のためテードの空を一周してきたアニキが降りてくる。 
太陽を背にして降りてくるサラマンダーに跨る、お日様色の人。 
まるで太陽からやってきたみたいで、ボクは少しドキドキした。 
アニキは颯爽と降りてきて、久しぶりに会う人たちに頷きを返す。 
みんなは荷物を持ってドラゴンに乗ろうとするけれど、慣れないドラゴンに苦戦しているみたい。 
ボクはモルテンに乗り直して、みんなを手伝って、荷物を崩れないように固定したり、上から引っ張り上げたりした。 
粗方終わってから、ボクは自分の荷物を取りに外階段を登った。 
道具箱の中に入れておいた大事な釣竿を取り出す。 
特に傷ついた様子もないみたいだし、誰も使わなかったのかな。 
すぐ横の、中二階の高さについた窓から、アニキとマテライトが話しているのを見た。 
ダミ声だけ微かに聞こえる。 
マテライトの声が大きいのもあるけれど、アニキの口数が減ったからかもしれない。 
帝国軍の補給地に忍び込んでから、ラッシュやトゥルースと話すときも相槌だけなのが多い気がする。 
そう感じているのはボクだけみたいだから、もしかしたら気のせいかもしれないけど。 
マテライトが変な動きをしながら出て行った。 
少しの間、アニキはその場で何かを見つめていたけど、急にくるっと向きを変えて 
ガスの元栓を見たり水道の蛇口を閉めたり、ごそごそと小屋の中を動き回り始めたので 
覗き見してるのがばれちゃうのがやだったから、ボクは窓を離れた。 
 
「サラマンダー、ボクもこれ持って行きたいんだけど…いいかなぁ」 
 
軽いけど長いから、嫌がるかなぁと思ったけれど、サラマンダーは目を細めてボクを見た。 
いい、のかな? 
サラマンダーの背中に釣竿を乗せたボクの横に、不安げな顔をしている人がいた。 
風で紫色の長い裾がはためいてて、その服に白いお髭と髪がとても似合ってると思う。 
 
「乗らないの?」 
 
声を掛けたら、こっちを見て「えぇ」と頷いた。 
 
「ビュウとお話しをしたいから…」 
「久しぶりだもんね!」 
 
ニコッと、お髭の顔が微笑んだ。 
振り返ってモルテンに乗ろうとしたけど、ちょっと定員オーバー気味に見えた。 
アナスタシアさんとエカテリーナさんはともかく、グンソーさんとバルクレイさんが乗っている。 
ボクが乗ったらきっとモルテン飛べないよね…。 
サンダーホークに乗ることにして、そっちを見たら、乗っているマテライトを意識してるのか 
ラッシュがサンダーホークの横で嫌そうなのと緊張と不満が混ざったような顔で立っていた。 
 
「ラッシュ、ボクもそっち乗っていい?」 
「おおおおう!乗れ乗れ!」 
 
案の定歓迎されたので、僕はラッシュの横に立った。 
チラッと見たマテライトは下を向いていて、何かをジッと考えているように見える。 
その時小屋から出てきたアニキが、ゾラさんから袋を渡された。 
その袋を覗いて、アニキはお礼を言って受け取ってた。 
何だろう。 
ゾラさんの手作りおやつかな? 
アニキがサラマンダーの前まで来て、荷物袋を開いた。 
中を見て、あれ?と声を上げる。 
 
「誰か荷物袋開けた?」 
「え?どうだろう」 
「あ、ワシ見た。さっきマテライトが開けてたの」 
「…そっか」 
「どうかしたの?」 
「新しい装備が…ね、入ってた」 
「わぁ、嬉しいね!」 
「ドラゴンに餌を上げたら行こう」 
「うん!」 
 
アニキが荷物袋からいくつか何かを取り出して…多分ほのおの草とかだと思うけど、それをゾラさんからもらった袋に入れた。 
装備を入れたほうの大きな革袋はサラマンダーの背中に乗せて、ゾラさんからもらった袋を担いで 
サラマンダーの顔の前にまわる。 
ちょっとして、センダック老師がサラマンダーに乗りに来たから、ボクは声をかけた。 
 
「もうお話し終わったの?」 
「うん。ビュウ、早く戦いたいみたい。…あの頃より…ビュウ、大人びた感じ…。わしも見習わなきゃ」 
 
よいしょ、といいながらセンダック老師がサラマンダーの背に上がる。 
サラマンダーはわざわざ身を低くしてくれていて、ボクたちが乗るときより格段乗りやすそうだった。 
 
「ったく、こんな時にドラゴンに餌なんてやってよ!」 
 
ラッシュがそんなことを言いながらサンダーホークとボクのそばを離れる。 
アニキのところまで行くと作戦がどうとか、つまりは急ごうって言って戻ってくる。 
 
「本当変なところで悠長だよなビュウって」 
「あなたに落ち着きが無いだけですよ」 
「いきなりなんだよ、トゥルース」 
「ドラゴンを育てなければ私たちの力なんてたかが知れているんです。相手は日々研鑽している屈強の兵士です。 
 敵に対抗出来るのは私たちじゃなくて、ドラゴンなのですよ」 
「そ、そんなのわかってるよ!」 
 
わかってなかったんだなってボクにもわかった。 
隣の、アイスドラゴンの背中にいるトゥルースは溜息を吐いている。 
アイスドラゴンには女性がいっぱい乗ってて、彼女たちがアイスドラゴンにすごーいとか 
ふさふさーとか言うたびにちょっと嬉しそうに身じろぎをしていた。 
ドラゴンもやっぱり人の言葉をちゃんと理解してるんだ。 
その時、横から驚嘆の声が上がって、振り向くとアニキがいた。 
アニキと、その向こうに…あれ? 
赤いはずのサラマンダーの体部分が紫っぽい色になってて、一瞬誰なのかわからなかった。 
形もほんの少し…変わった気がする。 
 
「サラマンダー、色変わってないか?」 
「進化…でしょうか」 
「ホワイトロプロスじゃ」 
「え?」 
 
ボクと、ラッシュとトゥルースはまた後ろを振り向いた。 
マテライトがボクたち越しにサラマンダーを見ている。 
 
「レッドドラゴンからホワイトロプロスになったんじゃ」 
「ホワイト??名前が変わったってことか?」 
「後はそこのグダグダジジイにでも聞くといいのじゃ」 
「はあ?」 
 
はあ?の部分は小声で、ラッシュが言った。 
本当にラッシュはマテライトが苦手というか…嫌いみたい。 
ラッシュが小さな声でぶつぶつ言うのを聞いてると、アイスドラゴンから降りてきたトゥルースが 
センダック老師に声を掛けた。 
白いお髭がこっちを見る。 
 
「あの、どういうことなんでしょうか」 
「ワシも全部覚えてるわけじゃないけど、ドラゴンが進化するのは知ってる?」 
「あぁ、まだ見たことないけど…って今見たけど」 
「ドラゴンってもともと得意とする属性を持ってるの。だから普通は好きな属性を食べるの」 
「えっとそれはつまり…サラマンダーなら炎を?」 
「うん。自然界にある炎を食べてるの。物質じゃないから、進化はとても緩やかなんだって」 
「では物質…ほのおの草とかを食べれば、変わるのですか?」 
「うん。物質になると途端に成長が早くなるんだって」 
「へぇ~」 
「普段そのドラゴンが食べない属性のものをあげるとね、色や、時には形が変わって、別の属性も使える証になるんだって、言ってたよ」 
「誰が?」 
「誰って…昔の、ずっと昔から戦竜隊に伝わってることなんだけど…。 
 ビュウがそれをさらに裏付けとか書き直しとかしてるみたいだよ。 
 進化表もあるんじゃないかな。ドラゴンって確か数種類しかいないはずだし」 
「え?そうなのか?」 
「ドラゴンの形には個体差があるけど、どの属性を持ってるかで種類の名称が変わるの。 
 炎属性だけ持ってるドラゴンはレッドドラゴンて呼ばれてて、回復だけ出来るのがホワイトモルテン。 
 水属性だけ持ってるのはブルーロプロスっていう種類。 
 今サラマンダーは炎と回復の属性を手に入れたから、炎と回復でホワイトロプロスに進化したんだよ」 
「へぇ…。オレ全然知らないや」 
「私も種類までは覚えていませんでした」 
「ねえセンダックさん、ドラゴンの属性ってそんなに重要なの?」 
「うん。ワシたちは魔法を使えるけど、血が薄いから、魔法の元となる元素自体を生み出せないのね」 
「???」 
「火があればその火を魔法の力で相手にぶつけることは出来るけど…」 
「一体何の話だ??」 
「ドラゴンのことなんだけど…」 
「駄目だオレそれだけ聞いただけでさっぱりだ」 
 
ラッシュが匙を投げて、モルテンの前へ移動したアニキの方へ向き直った。 
ボクはちょっと興味があるからもう少し聞いてみようかな? 
 
「あのね、君たち魔法の力がないナイト達でも属性を絡めた技が撃てるのはね、ドラゴンが力を貸してくれてるからで」 
「ふむふむ」 
「カーナの魔法使いたちはほとんど自分で炎を生み出せない。0を1にすることが出来ないの。 
 でもドラゴンは出来るから、ドラゴンが生んだ炎を使ってワシらは攻撃するの」 
「なるほど」 
「帝国のウィザードはドラゴンが傍にいなかったよ」 
「彼らは0を1にするためにものすごい修練を積んだの。カーナは昔からドラゴンがいたから、必然的に人間の力をあてにしなくなった…って聞いたよ」 
「じゃあ他の国から見たらボクたち落ちこぼれなの?」 
「ワシらは落ちこぼれに入るかもしれんけど、ドラゴンの力を借りた技を撃てる兵士はいないんだから、君たちは落ちこぼれじゃないと思うの」 
「うーん?」 
「ワシらもね、ドラゴンが生み出す大きな力を操るから、帝国のウィザードよりはずっと強い魔法を撃てるよ」 
 
ボクとトゥルースはちょっとわかるような、わからないような、そんな顔でお互いを見た。 
トゥルースはボクよりわかってるんだと思うけど、いまいち実感がない、そんな感じ。 
 
「ちょっと2人とも、サンダーホークの前を空けてもらってもいいかな」 
 
アニキがいつの間にかボクたちの前に来ていた。 
横を見ると、モルテンがもぐもぐと何かを咀嚼している。 
 
「うん」 
 
すぐにサンダーホークの前からどいて、アニキが餌をあげるところを後ろから見る。 
アニキは袋から毒々しい色の葉っぱを出すと、今にも飛びついてきそうなサンダーホークをいさめながら口の前に差し出した。 
サンダーホークはアニキの腕ごと食べちゃうんじゃないかって勢いで食らい付いて、モグモグと口を動かしている。 
ごくんと飲み込んだ音がした。 
その途端に、サンダーホークの体がゴモゴモと動き始めて、胴体から足が…えっ、足? 
 
「えええ!?」 
 
見る見るうちに、サンダーホークの体がバキバキと音を立てながら変化していった。 
背中に乗っていたマテライトは振り落とされないようにたてがみ部分を握っている。 
すぐに、変化は終わった。 
満足そうな顔でアニキが、なんかカニのようになっちゃったサンダーホークの顔を撫でた。 
 
「あ、アニキ、これ…」 
「パワーイーグルからデボネアグリーンになったんだ。毒属性が使えるからね、マテライト」 
「ふん。どうせワシは雷しか撃てないのじゃ」 
「あはは」 
 
アニキはそのままアイスドラゴンのほうへ歩いていった。 
ボクはサンダーホークを見上げて、さらに凶悪になったその顔を見て身震いした。 
 
「さ、サンダーホーク…すごいね、進化したんだね」 
 
サンダーホークは目を細めてボクを見ていた。 
緑色の顔はとても顔色が悪そうに見えて、さらにこの顔だからちょっと夢に出て来そう。 
 
「ビッケバッケ、そろそろ行くだろうから乗れよ」 
 
さっきまでボクみたいに呆然とサンダーホークを見ていたラッシュがいつの間にか乗り込んでいて、頭上からそう言った。 
ボクは勝手が変わったからどう乗ろうか悩みつつ、何とかよじ登ってラッシュの後ろに座った。 
後ろにはまた沈黙状態になったマテライトがいる。 
その視線の先にあるであろう自分の背中がむずむずする。 
でも黙って、ボクはアニキがアイスドラゴンに餌をあげるところを見ていた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Barclay》 
彼にとって、ドラゴンが戦闘の相棒として傍らに控えていることは、数年前のあの日が初めてだった。 
乗ることは今日が初めての経験で、ドラゴンのどこに手を掛けて登ればいいのかわからず四苦八苦している。 
 
「あれ、バルクレイさん、こっち乗るんです?」 
「ええ、いいですか?」 
 
ナイトの青年が、もちろんと頷き彼に手を差し伸べた。 
有り難く手を取ってドラゴンに跨り、一息つく。 
 
「モルテンに乗ったと思ったのに」 
 
体格だけならヘビーアーマーでもいいのではないかと思えるナイトの青年がそう言った。 
 
「あちらはタイチョーさんが乗ったら重量オーバーですし、気が合わないのもいるので…」 
 
彼がそういうと、ナイトの青年が隣にいるモルテンの背中を見た。 
なるほどと言う顔で頷くと同時、人の声ではない鳴き声が響いた。 
前を見ると、ハチマキを結びなおしている青年がこちらを見渡している。 
 
「行くよ、みんな」 
 
それを聞いて、サンダーホークの先頭で威勢よく返事をした茶髪の青年が、ドラゴンの頭をぽんぽんと叩いた。 
 
「よろしくな!」 
 
直後、ドラゴン達が羽ばたいた。 
彼の乗るサンダーホークに乗っているのは4人だが、彼ともう一人、重装備2人を乗せているせいか、かなりしんどそうなはばたきに見える。 
彼はドラゴンの体を労るように撫でた。 
 
「重たくてすまない」 
 
呟く。 
風の音に紛れて前後の誰にも聞こえないくらいの小さな声だったが、緑の体に変化したドラゴンはギャアと小さく鳴いた。 
それを聞いた手綱を持っている青年-ラッシュが、どうかしたのかとサンダーホークに話し掛けたが、返事は無かった。 
なんとなく自分への返事だと感じた彼は、また背をそっと撫でた。 
 
「まーたセンダックのじいさんビュウにべったりしてるよ」 
 
前から流れてきた声に、彼は顔を上げた。 
足下を見ると、離陸しようとした赤いドラゴンにピンク色の小さなものが飛び付いていた。 
そのドラゴンの背に乗っている2人のうち、後ろに乗っている紫色の衣を纏った人間が 
前に座る青年の腰にしっかりと腕を回している。 
 
「落ちちゃうもん、しょうがないよ」 
 
ラッシュと彼の間に座る青年-ビッケバッケが、そう答えた。 
 
「バルクレイさんも落ちそうだったらボクに掴まってね!」 
「ありがとうございます」 
 
横からの風に耐えるため足に力をいれ、体を低くする。 
後ろに座る男-彼の直属の上官-を見ると、この風の中でもシャンと背筋を伸ばし、腕組みして、目を閉じている。 
両腿がしっかりとドラゴンの背を挟んでいるのかと思いきや、胡坐をかいている。 
勿論重装備だと足を完全に曲げることはできないので、中途半端なものではあるが。 
 
「落ちませんか?」 
 
ちらりと半眼で彼を見た男は、すぐに目を閉じた。 
そのまま何も喋らなかった。 
いつものことなので慣れている彼は、苦笑して前を見た。 
久しぶりに飛ぶ空は、もう春だというのに冷たい空気が流れていた。 
 
「ねえラッシュ、センダック老師ってアニキのことが好きなのかな」 
「はあ?いきなり何言ってんだよ」 
「そうかな」 
「聞かなくてもわかるだろそんなの」 
「そう?」 
「ちょっと気色悪いよな!」 
「そんなことは無いけど…アニキって好きな人いるのかな」 
「そんなの決まってるだろ!」 
「お姫様?」 
「まあヨヨ様はオレに惚れる予定だけどな!」 
 
彼の後ろから小さく「お前なんぞに惚れるヨヨ様じゃないわい」と呟く声がした。 
言われた本人までは届かなかったらしい。 
話を耳にしている彼の体から緊張が抜けていった。 
ナイトの青年2人からは、これから反旗を翻すのだという緊張感が伝わって来なかった。 
このままでは後ろに座る上司にどやされる-そう思った彼は、深呼吸をして2人の会話を頭から締め出した。 
今更ながら、テードに置いてきた鶏が気に掛かる。 
ずっと彼が面倒を見てきたので、愛着が芽生えているのだ。 
元々野生化していた鶏だったので、残して来ても問題はないはずなのだが万が一と言うこともありうる。 
いつか帰る時まで無事でいてくれるだろうか。 
小さく息を吐いて、何とはなしに腹に手を伸ばした。 
冷たい鎧の感触が革越しに伝わって来て、かつてそこにあった膨らみが何だったか思い出そうとして、やめた。 
風の音が耳を貫く。 
ちらりと右前を飛ぶモルテンを視界に入れてから、彼はぐっと拳を握り締めた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Sendak》 
センダックにはモニョとマニョの言っていることは何となくしかわからなかった。 
マテライトやビュウにははっきりとわかっているらしい。 
人外の生物なのに、何故言っていることがわかるのだろう。 
 
(もしかして、この子たちは神竜の血を引いていたりするのかな) 
 
でもそれがセンダックに聞こえる理由だとすると、マテライトやビュウにも神竜の心がわかるはずだ。 
そんなはずはないので、やはり別の理由なのだろうとセンダックは考える。 
 
(2人とも、魔力が高いのかな?姫様にも聞こえればわかるのに…) 
 
センダックの背中にしがみつき、マニョマニョモニョモニョ話しているプチデビル達に相槌を打つビュウは時たま後ろを振り返って微笑んだ。 
人が相手だとあまり見ない表情だった。 
 
「そういえば、センダック」 
「え?」 
 
急に話しかけられて、センダックはビュウの腰に回した手をびくりと震わせた。 
 
「フレデリカと、えっと…ディアナ、かな」 
「うん、2人はルキアさんが乗ってきた船で先にファーレンハイトに向かったの」 
「無事に乗り込めたのかな」 
「たぶん、ね」 
「どうやって乗り込んだんだ?」 
「マテライトが考えた作戦なんだけど、今あそこは手薄だってビュウが教えてくれたじゃない?何にも使われてないってことも。それでね、今度から交易に使うから、念のために魔法使いを派遣することになって、派遣されてきたのが私たちですって作戦」 
「それ…すごく怪しいと思えるんだけど」 
「ディアナだけじゃ怪しまれただろうけど、白魔法が使えるフレデリカがいたからね」 
「白魔法が使えると待遇が違うのか?」 
「違うっていうか…あそこにいるのは兵士でしょ?傷ついた味方を癒してくれる魔法使いがいれば、自分たちは本体から見離されているわけじゃないって安心感になるの」 
「なるほど」 
 
ビュウが頷いた。 
それから取り留めのない会話をして、いつの間にか視界にはカーナの旧旗艦が見えていた。 
センダックが昔乗り込んでいた旗艦は、あの頃と同じ姿のまま違う空に浮いていた。 
ビュウの右手が横に伸びて、手がちょこちょこと動いた。 
それからサラマンダーの首筋をトントンと叩いて、速度と高度を落とす。 
 
(なるほど、下からこっそり近づくんだ) 
 
完全に艦の下に入り込んだ4匹のドラゴンが、ビュウの合図を待つ。 
そのとき、ダミ声が微かに聞こえた。 
ビュウが声の主をすぐに見つけたようで、背筋を伸ばして左を見る。 
センダックもその視線の先を見た。 
 
「なるべく先端に下りるのじゃ!部隊を編成する時間を少しでも稼ぐのじゃ!」 
 
途切れ途切れ聞こえた声に、ビュウは握った左手の親指を立てて返した。 
その後、手のひらを上にして腕を上げる。 
ドラゴンたちは一斉に浮上した。 
センダックは腰に挟んでいたロッドを左手に持ち、着陸後に始まる戦闘を思い身震いをした。 
 
敵の頭上を飛び、先端近くに着陸する。 
ウィザードはあっちへ、お前はこっちだと指示を飛ばすマテライトの声が聞こえた。 
そっとビュウのそばを離れようとしたセンダックに、ビュウが「気をつけて」と声をかけた。 
振り向いて頷き、センダックは小走りにウィザードたちと合流する。 
ビュウは分けられたチームを見て、ドラゴンに誰のそばへ行けと指示を与えていた。 
ドラゴンが飛び立ったのを確認してから、ビュウはマテライトを呼び止め、赤い斧を両手で抱えて投げた。 
とても重そうなその斧を片手で受け取ったマテライトが、何も言わずに背を向ける。 
さらにビュウはプチデビルに何かを持たせていた。 
駆け寄ってきた3人のナイトとすれ違って、プチデビルがゾラ、ルキアの元へ駆け寄る。 
プチデビルはビュウから受け取った-よく見ると軽鎧-をルキアに渡していた。 
 
(ビュウ、大変そう) 
 
この数年で使い慣れたロッドを握り締めた。 
矢面に立つビュウの隊のそばに、マテライトとゾラの隊がいる。 
今センダックがいるところは、そのさらに後ろ、後衛だった。 
てっきりマテライトが先陣を切って敵へ向かうのかと思っていたセンダックは、少し安心した。 
まだまだ少年であったナイトたちを、あの日のように後ろへ配置する必要はないと踏んだのか、経験の浅い彼らに経験を積ませようとしたのか、それとも自分が老いたと感じたのか。 
あの日から数年。 
ようやくこの場に立てることを誰よりも喜んでいるのは、マテライトに違いない。 
左前に見える金色の鎧から漂う殺気にも似た気配に、センダックの鼓動が早まった。 
マテライトの怒号が響き渡る。 
それが戦闘開始の合図だった。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Hornet》 
彼は一面が空を映す部屋にいた。 
ガラスの向こうから降り注ぐ陽光は、これから昼にかけてさらに強くなる。 
そうすれば暑くなるこの部屋にはあまり人は近づかない。 
ましてやガラスの前に立つことは困難だ。 
この時間に来てくれてよかったと、見物を決め込んでいる彼は思った。 
 
ついさっき空を駆け抜けて行った4つの何かを追いかけてガラスの前に立った彼は、緑地を見下ろした。 
手前には、既に艦内に味方がいないことを知らないまま外へ出て行った帝国の兵士たちがいる。 
奥に見える侵入者は、ドラゴンから降りた後ばらばらと動いていてすぐに攻めて来なかった。 
彼に背を向けている兵士たちが、それを隙とみて侵入者たちへ群がっていく。 
右手に炎の柱が上がった。 
炎はすぐに消えたが、炎を隠れ蓑として一息に距離を詰めていた4人の兵士が、火傷を負ったと見られる3人の兵士を強襲していた。 
その隊はあっという間に片がついていた。 
ついで、左手に雷が落ちる。 
かと思いきや、同じ場所に巨大な氷が降った。 
 
「おいおい、オレの船を壊さないでくれよ…?」 
 
目まぐるしく変わる光に目を細めながら、彼は成り行きを見守っていた。 
彼が見る限り、白い癒しの光は3箇所で上がっている。 
加えて、禍々しいまでの炎を帯びた怪物-ドラゴンや、恐怖を植えつけるに相応しい形相のドラゴンがいる。 
どう下手な戦闘をしても負ける理由が見当たらないのだが、それにしても侵入者が彼の足元にまで到達する時間は、彼の予想より早かった。 
 
「やるな」 
 
戦略はそんなに悪くないようだった。 
疲弊はどの隊にも均等に見えた。 
顎を手でさすりながら、彼は考える。 
もしも自分ならさっさと大将の首だけ跳ねて終わらせるだろう。 
ドラゴンがいるのであれば尚更その方が早いからだ。 
現に遊撃隊と見られる隊員の1人が、まっすぐに大将へと向かおうとしていた。 
しかしそれをさせなかった者がいた。 
後方にいたウィザード達に魔法を詠唱させて、援護の後に距離を詰めてくる。 
自分たち全員がこれから力をつけねばならないとわかっての行動なのか、それとも慎重に慎重を重ねているのか、ここからでは判断がつかない。 
どちらにしろ、いいブレーンがいるのだろうと彼は見た。 
最後に、一番声が大きく彼自身も嫌っていた横柄な態度の兵が首から血飛沫を上げる。 
跳ね飛ばした首が落ちて、胴体から上がった血を辿って上を見た隊員と目が合った。 
こちらを見ていることがわかれども、顔がはっきりと見えるはずもない距離であるというのに、彼はその隊員の目が青いことに気づいた。 
すぐに逸らされる。 
その隊員の後ろから品のない金ピカの鎧を着た隊員が艦内へ入っていくのが見えて、彼はそこを離れた。
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