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                  《Side Truce》 
人間関係は勿論のことだけれど、死活問題なのは金銭面-トゥルースは頭を抱えた。 
戦闘にはお金がかかる。 
魔法を使う人たちが精神力を回復するための薬は高級品だし、そもそも一見さんお断りのような店で売られる品物だ。 
自分たちのような近接戦闘をする場合にはドラッグが必須だし、何より武器防具がすぐにダメになってしまう。 
折れたり壊れたりしたものはすべてドラゴンのエサになってしまうから、スクラップとして売ることも出来ない。 
しかしこの先のことを考えれば、ドラゴンたちの耐久力を上げなければ、ドラゴンたちと繋がっている隊にまで被害が及んでしまう。 
ドラゴンたちは自分たちの要なのだ。 
優先することに何ら異論はない。 
ただし、今はお金が足りないのだ。 
 
「ドラッグを買うので精一杯です」 
「まあまだ装備は充実してるし…今後だろ」 
「どうやって稼ぐの?」 
「その、あんまり大きな声では言いたくないのですが」 
「うん?」 
「倒した敵から…。ほら、昨日マテライトがやってたのを見ませんでしたか」 
「さあ。俺は見ていないな」 
「ボクも…」 
 
トゥルースは腕を組んだ。 
何かを考えていることが、ラッシュとビッケバッケにも伝わる。 
2人は沈黙するトゥルースを横に、 
 
「アレだろ?帝国軍の兵士から拾うってことだろ?」 
「ゾッとしちゃうね」 
「でもそうしないと金も手に入らないしさ」 
「遠くから倒すと金目の物が落ちてどっかいっちゃったりするから、止めを刺すときは近くがいいんだって」 
「何だよそれ、誰が言ってたんだ?」 
「マテライトが昨日タイチョーさんに話してたよ」 
「せこい話してんなぁ…」 
 
溜息をついた。 
 
トゥルースは騒がしい中でも自分の思考が出来ることに誇りを持っていた。 
3人でひったくり紛いをし、走りながら逃げることで培われたのだと、自分では思っている。 
その才能はまだ故国があったころに行われていた演習でも発揮されたし、同期でいてライバルの2人に比べて体力がない自分が評価されたのはそこだと、誰かが話していたのを偶然聞いてしまったこともある。 
ただ倫理観とのせめぎ合いが始まった思考は、堂々巡りが止まらない。 
 
「なあビッケバッケ、トゥルースは何考えてるんだと思う?まーた眉間に皺が寄ってるよ」 
「うーん。たぶん」 
「たぶん?」 
「ボクたち、人から奪うことは兵士になる前でもあったけどさ、死体から奪うっていうのは、したことないじゃない?」 
「うっ、なんだよ突然生々しいな」 
「資金の話だよう」 
「相手からぶんどるってことか?」 
「その人の形見だったら…とか考えてるんじゃないかな」 
「ああ、なるほどな」 
「………よくわかりますね、ビッケバッケ」 
「だって長い付き合いだもん」 
 
少し高い背を丸め、大きいお腹を撫でながら、 
 
「それよりお腹が空いた」 
 
とビッケバッケは呟いた。 
同意したラッシュがトゥルースを見る。 
トゥルースは苦笑して腰の巾着から非常食を取り出した。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Matelite》 
その長すぎる芝を見て、男は分厚い唇を尖らせた。 
午前中にやっておくよう命じたにも関わらず、未だに雑草が生い茂っていたからだ。 
 
『マテ、マテ』 
 
男が振り向くと、少女が芝生の中から小さな白い花を摘むところだった。 
小さな手がプツンと茎を折り、満面の笑顔で男に花を差し出す。 
 
『マテ、はい、プレゼント』 
 
男は皺の深い顔面を満面笑みで染め上げ、小さな手から白い花を受け取ろうと手を伸ばす。 
そして花に触れる直前、花弁が一枚はらりと落ちた。 
慌てて、落ちた花弁を出していた手と反対の掌で受け止める。 
その姿がおかしかったのか、鈴を転がしたような声がした。 
照れくさくなった男は、鎧の上から頭を撫でた。 
 
『マテ、肩車してぇ』 
 
両手を広げた少女が男に抱きついた。 
小さな体が猛烈な勢いで男の懐に飛び込んだ。 
竜巻のような風に押されるようにして傾いだ男の身体はそのまま横転する。 
 
『な…なんじゃアッ!?」 
「マ、マテライト殿大丈夫でアリマスか」 
 
強烈な重力が男の巨体にかかっていた。 
顔を上げることさえ億劫な重圧に視線だけを泳がせる。 
目の前には無精髭を生やした男。 
それよりさらに左にはこの騒動の責任者と言えばよいのか、原因と呼んでよいのか、操縦桿を握っている男がいるが、操縦桿にしがみついている様子もなく凛と背筋を伸ばしている。 
舌打ちをした。 
それにかぶせるように慌しげな声が聞こえた。 
 
「あわわわわわ」 
「ビッケバッケっ、わっ」 
 
無精髭のむさくるしい男の奥に、少しずつ後方へと流されていく二人の青年が見えた。 
もう一度舌打ちをする。 
流される青年たちの手前-男から見て、無精髭と操縦士の間-には、片膝をついて歯を食いしばっている青年がいる。 
その前に立つ四人目の青年は、平然と立っていた。 
横に立つ白髪の細い老人を気遣う余裕もあるようだ。 
 
(ドラゴンの最高スピードに比べたらまだまだなのかのう) 
 
男は鼻を鳴らして立ち上がった。 
強かに打ったらしい尻がビリビリと痛んだ。 
 
「だらしのないヤツらじゃ」 
「マテライト殿は大丈夫でアリマスか?」 
「なんじゃ!これしきなんともないわい」 
「よかったでアリマス!」 
「フン!ビュウ!ちょっと話があるのじゃ!」 
 
男のダミ声に気づいた青年-平然と立っていた四人目の青年-が、やはり普段の足取りで近づいて来る。 
自分の見込み違いではなかったことが証明されたかのような嬉しさが、温かみとなってポツンと胸に点る。 
同時に老いを感じて、男は頭を振って胸を反らせた。 
 
「展望台から落ちてたけど…」 
「そんなことは気にせんでいいわい。それより編成はどうなっておるんじゃ?まさかドラゴンにエサをやっていて考えてないなぞ」 
「ちゃんと考えてます、考えてますから」 
「それじゃあ聞かせてもらうのじゃ」 
 
青年-ビュウは苦笑のようなものを浮かべながら口を開いた。 
 
 
 
青い大陸とも呼ばれるラグーンは、その広大な国土のほとんどが森や草原だ。 
ドラゴンがいない国の特徴とも言えるだろう“未開の地”も少なくない。 
いや、北西にある首都と言う名のただひとつの街以外は、ほぼ未開の地であろう。 
証拠に、街から離れるほど森は鬱蒼と茂っている。 
手付かずなのは森だけではない。 
地下水が豊かで、東西に流れる細い河川も整備されず悠々と自然のまま流れている。 
濃い緑が大半を覆う中、いつの時代に建てられたものなのかわからない砦がいくつか配置されており、定期的に補修が行われているものの見回りに来る役人はいない。 
首都から程近い砦は、帝国軍のキャンプになっているようで、兵站が貯蔵されているテントがいくつも見えた。 
 
「王女は南東の小さな砦にいるという情報です」 
 
その声の指示通り、覗いていたレンズを動かした。 
畳むと懐に入るサイズなので小さいものだが、なかなかに性能はよいらしい。 
男の目に小さな白い砦が映った。 
小さいと言えど、幾重かの城壁がめぐらされており、かつての用途に男は興味を覚えた。 
国同士が争う戦は男の知る限り今が初めてだったので、砦を建造する理由が見当たらなかったからである。 
 
「ランチャーが配備されているという情報があったので、直接乗り込めません」 
 
だから手前の森に降りる予定だと、重力から開放された青年-トゥルースが言った。 
 
「戦力はどうじゃ?」 
「あそこは元々戦力がない国ですし、かなりゆるい警備だそうです」 
「なるほどの…」 
「戦わなかったんだろ、キャンベルって」 
「そうじゃ」 
 
出撃の準備で散らばっていた面々が、徐々に庭へと出て来ていた。 
一人先にブリッジから飛び降りていった、編成担当のビュウが彼らに指示を与えている。 
 
「なんじゃ、前回と同じ編成にしたのかの」 
「はい…大まかには一緒です。でも私は、森で全体の進軍の遅延が予想されるので、身軽なものが突入すべきだと思うのですが」 
「つまりお前らが進軍するには、足の遅いワシらはお荷物ということじゃな」 
「あっ、いえ…」 
「トゥルースそこは正直に言えよ!しょうがねえじゃん、早く倒せるに越したことはないだろ?」 
 
男は鼻で笑い、青年を見た。 
口の悪い青年-ラッシュは顔を赤くして拳を握る。 
 
「頭の悪い男は黙っておれ」 
「んっだとこの!!」 
「ラッシュ!やめてください!」 
 
二人のナイトがラッシュを押さえ込む。 
男はその様子を見ながら、半眼で呟くように言う。 
 
「ビュウは、アレじゃの」 
「何だよ!俺みたいな部下がいてカワイソーとか言うんだろどうせ!」 
「まあそれもあるがの。ビュウの考えていることに気づかない幸せと、気づけない不幸と、半々じゃの」 
「は?」 
「…?」 
 
ラッシュを押さえていた二人まで、訝しげな顔をして男を見た。 
男は答えなかった。 
その背がブリッジから廊下へと消えて行く。 
怪訝な表情のままそれを見送った三人の青年は、肩の力を抜いた。 
 
「なーにが不幸だ。ビュウに仕事押し付けてばっかなくせに」 
「全くです」 
 
ラッシュとトゥルースが話すのを聞きながら、ビッケバッケはふと横を見た。 
悲しげな表情の老人が、廊下へ消えて行った男の後姿を見ていた。 
ビッケバッケの視線に気づくと、老人はやはり悲しげな視線のまま微笑を浮かべる。 
 
「艦長、そろそろ貴方も出撃した方が良いのでは」 
「あ…ホーネット…そうだね。ワシも行ってくるよ」 
「私たちも行きましょう。ビッケバッケ、準備はいいですね?ほらラッシュ、行きますよ」 
「おう」 
「うん」 
 
二人の青年と、一人の老年の姿が廊下へと向かう。 
その背中を見ながら、ビッケバッケはふと正面を向いた。 
そこにはこちらを見て立っている操縦士がいる。 
 
「ホーネットさん」 
「ん、なんだ?」 
「あの、うんと、行って来ます。お留守番お願いします」 
「ああ、行って来い」 
 
操縦士は最後の一人を見送った。 
人気がなくなったブリッジを見渡して、窓の外へと視線を転じる。 
老若男女が整列して一人の話を聞く姿は、見ている方にまで緊張が伝わるらしく 
操縦士はぶるりと身震いをした。 
 
 
「フフ…留守番よろしく、か。言われる側はまだ慣れないな」 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Frederica》 
 
鬱蒼とした森だった。 
森の香りの密度が濃いだけでなく、敵意や殺意、魔法が編まれる兆候さえ見えるようだった。 
そんなものは普段の彼女には見えないものだ。 
人の死に対して敏感になっているのかもしれない、と彼女は思った。 
彼女自身が手をかけた者はいないのだが、彼女たちのパーティーが進む道は血を吸い込み真っ黒になっている。 
 
「顔色が悪いよ、フレデリカ」 
「ディアナ」 
「今は森を焼いてるんだよね。煙が出てる」 
「うん・・・。やけど、怖いね」 
「そうだね・・・」 
 
草を踏みしめる少女たちの正面を、二人の青年が歩いていた。 
二人とも長い槍をもち、同じ鎧を着ている。 
後ろからでは全く見分けがつかない。 
 
「ねえ、レーヴェ、フルンゼ」 
 
二人が振り返った。 
同じタイミングで。 
 
「ちょっと待って」 
「今あそこで戦闘してる」 
 
レーヴェが指差す先を見た。 
途切れた木々の向こうに、ちらりと人影が見えた。 
その先で光が反射する。 
 
「火、消したの?」 
「そうなのかしら」 
「消したんだよ。森の火はすぐに広がるから、危ないもん」 
「そうそう」 
 
森の向こう側とこちら側で、戦力の差はどのくらいあるのだろうか。 
彼女は森の向こう側にいる青年を思い浮かべた。 
その横で、ディアナが前を行く青年たちに声をかけた。 
 
「レーヴェ、フルンゼ、気をつけて、この先ユーベルビュントがいる」 
「わかった」 
「わかったよ」 
 
頷いて木の陰に隠れながら進む彼等の後ろを、慎重についていく。 
すぐに魔法の気配がした。 
 
「耐えた!」 
「大丈夫、倒した」 
 
レーヴェとフルンゼが口々に言った。 
彼女は二人の後ろから覗き込むように、前方を見た。 
すぐ前にいるのは、センダック老師だ。 
老師達はマテライトのパーティーをバックアップしているが、彼女の位置からではマテライトのパーティーは見えなかった。 
 
「敵、結構遠い?」 
「近いよ。すごく近い」 
「僕達も今回は離れずに着いて行ってるからね。ただマテライトがすごい気合入ってて」 
「うん。すごい気合入ってて、ガンガン倒してるんだ」 
「ねえ、マテライト見える?そんなに気合入ってるんじゃ、他の人が心配だわ」 
「ちょっと待って」 
「あ、いたよ!回復お願いだって!」 
「わかったわ」 
 
彼女の支援がぎりぎり届くところで、金色の鎧が鈍く光りながら動いていた。 
それより手前にいた白髪のセンダックが、杖を振りかざすのはよく見えた。 
金色の鎧に赤い光がともる。 
 
「ホワイドラッグ」 
 
マテライトたちがいる辺りに白い光が集まった。 
すぐに消える。 
金色の鎧がきらきらと光った。 
どうやら手を振っているようだった。 
 
「大丈夫みたいね」 
「ええ・・・」 
 
彼女は小さく安堵の吐息を漏らした。 
だんだん少なくなってきた森の木々の向こうを横目で見る。 
脳裏に描いていた青年の姿は見つからない。 
 
「あの高台のところにいるのが司令官ってわけ?」 
「ここからでも大きく見えるね」 
 
その会話に釣られて、彼女は上を見た。 
周囲の兵士達より頭がひとつ分高く、少し上等な防具を着けた男が立っている。 
見上げている自分達を見下ろしている男がふと笑ったような気がして、彼女は杖を握り締めた。 
 
「行こう、ビュウ達も先にいるでしょう?」 
「うん」 
「そうだね」 
「ビュウたちにはゾラがついてるんだっけ」 
「そう。確かプチデビも?」 
「あの子達を管理できるの、ビュウだけだもんね」 
 
湿った重い土に足を取られながら、坂を上る。 
一足しかない靴が茶色く汚れていく。 
靴を買い換えることは考えていなかった。 
当然だが、自分の意思で参加した反乱軍は、傭兵仕事では無いのだから給料はない。 
装備品に関しても、事前に届出を行うことで一括調達される決まりだ。 
それでも、少しだけ支給されるお金がある。 
身の回りの細々したものを整えられるように、という配慮らしい。 
しかし彼女はそのお金を使っていない。 
 
(ヨヨ王女を救出したら、お天気がいい日に靴を洗う時間くらいあるかしら) 
 
長く編んだ髪を背中に押し上げて、彼女は空の機嫌を確かめるべく上を見た。 
どんよりした空気の遥か上にあるその空を、先ほど見上げていた司令官の首が飛んで行った。
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