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                  《Side Crew》 
「煩い奴が入ってきたぞ!」 
「まだボスが来てないのに何だあいつ!」 
 
そんな叫び声が響く廊下には、数人の男たちがいた。 
どの男も青いバンダナを頭に巻き、袖のないシャツを身に着けている。 
屈強な体は戦士であってもおかしくないほど鍛えられており、陽に焼けている。 
区別がつかない男たちの中の1人が、片手に本を持ち艦内を歩いていた。 
罵声が響き、目の前の部屋に品のない色をした鎧の男を閉じ込める所を見る。 
奥の部屋の前にも、暴れる男を2人がかりで押さえ込んだ同僚がいた。 
大変そうだなぁと呟いた彼の後ろから、彼らのボスが現れた。 
右手の扉の前で止まったボスが、振り返る。 
そこでボスを待っていた数人のメンバーを確認すると、扉を開けて出て行った。 
彼の同僚に続いて、彼が数年前に声をかけて乗ることになった商人の男、そして正体不明の禿げ上がった爺が扉をくぐる。 
最後にくぐった彼は後ろ手に扉を閉めた。 
 
ボスの声がする。 
禿げた頭の向こうにある背の高いボスの肩越しに、頭、というより髪が見えた。 
金髪だ。 
頷く声は彼と同じくらいの歳に聞こえる。 
ボスが振り返ったので、彼は横に避けた。 
前を通ってブリッジへと戻るボスを見送ってから、先ほどまでボスと話していた男を見る。 
青年だった。 
ひとりひとりに挨拶をしている。 
言葉は少ない。 
慌てて変装を解いた同僚を見てもニコリともしなかった。 
青年は彼にも挨拶をしてから、扉を開けた。 
青年の後ろからさらに数人の青年がついていく。 
3人くぐり、扉は閉まった。 
 
「あ、おおい、待って、ワシも行く~っ」 
 
白髪の小柄な老人が扉を開けようとして-開かなかった。 
蝶番が軋んでいる。 
彼が見かねて手を貸すと、老人は丁寧にお礼を言ってから小走りに去った。 
 
「あんな非力でジジイとか、反乱軍て人手がないんですかね」 
 
後ろからそんな声がした。 
右手に帝国兵の装備を抱えている。 
うけを狙って滑ったやつだ。 
 
「飯を作る係じゃないか」 
「そうかなあ」 
「なんぢゃお主達、センダック艦長を知らんのか」 
 
禿げたジジイが意外そうな声を上げたので、彼は聞いた。 
 
「艦長?今のが?」 
「この船が未だカーナのものであった時代の艦長ぢゃ。カーナ王の側近での、恐ろしい程の魔力を持ったワーロックなのぢゃ」 
「ワーロック?」 
「白魔法も黒魔法も使えるということじゃ」 
「はぁ…?」 
「それがどうすごいかお主達にはわからんかのう。そうぢゃな、お主達のボスがこの船を操縦しながらクルーの仕事も全部こなすような」 
「ボスなら出来るぜ!」 
「おう、ボスはすげえんだからな」 
「それぢゃ、そのボスと同じくらいのすごさぢゃ」 
「本当かよ」 
「本当ぢゃ」 
「へぇ~~~」 
 
半信半疑で返事をする同僚と同時に、扉の向こうから響いてくるダミ声を聞いた。 
30分前までの静けさはもうない。 
彼はその場で語らう同僚の輪を抜けて扉を開けた。 
正面の奥に親友がいたので声をかけて近付いて行く。 
 
「お前、リーダーとか言うやつと話したか?」 
「話したぜ。一応、力になれること考えてるっての伝えておいたけど」 
「そうか。なんか言ってたか?」 
「別に?無口なやつだな」 
「愛想はあるけどな」 
「それで何やるか決まったのか?」 
「ああ、オレ本なら大量にあるからどうかと思って」 
「本の虫だもんなあ、お前」 
 
親友が笑った。 
彼も笑って、それじゃあと本を持っていない方の手を振った。 
機関室へ戻ろうと目立たないように作られた扉の前に立つ。 
開けようとして後ろから聞こえた何かが砕けるような音に振り返った。 
金色の何かが目の前に迫っていて、アッと思うより先に体が避けた。 
それは彼の横で通路の点検をしていた同僚を弾き飛ばしながらブリッジへと飛び込んでいく。 
同僚の無事を確認しようとブリッジを覗き込んだところを、背中に硬いものが当たり前へ吹っ飛んだ。 
強烈な衝撃に一瞬意識が遠くなる。 
迫ってくる地面に手をつけようとしたが、そこに先ほど飛ばされた同僚が転がっていたので彼は慌てて軌道を変えて、結果腰を捻った。 
下になった同僚が呻きながら目を開ける。 
大丈夫かと声をかけたところで頭上を金色の何かが飛んで行く。 
慌てて首を引っ込めて目で追うと、それが先ほど閉じ込めた煩い男-ついでに言えばたった今彼らを吹き飛ばした男-だったということが判明して、彼と同僚は二度ほどそれを蹴り足跡をつけてからブリッジを後にする。 
 
「何だあいつら!!」 
「いって、いててて」 
「あ、おい、腰捻ったのか?大丈夫か?」 
 
そのまま同僚に付き添われて機関室へ入った彼は、しばらくの間動くことが出来なかった。 
夜遅くに親友が戻ってくるまで、じっと耐えて過ごしたのだ。 
 
「誰かに湿布貼ってもらえばよかったのに」 
「いや、みんな忙しいから…」 
「そりゃそうだけどさ。ここな?」 
「ああ」 
「はいよ。あ、そういや旗?がブリッジに貼られてたぜ」 
「旗?」 
「カーナの国旗だってさ。結構雰囲気違うぜ、あるだけで」 
「明日見に行こう」 
「おう」 
「それで、もう反乱軍のやつらは寝たのか?」 
「緊張が取れてすっかり寝てたよ。一人だけ外にいたけど」 
「ふーん」 
「ま、そのうち寝るだろ。オレも寝るよ」 
「ああ、ありがとな。おやすみ」 
「おう、おやすみ」 
 
パチンと、機関室の照明が切られた。 
エンジンはずっと回ったままなので音は絶えることは無い。 
でも彼らクルーは昔からエンジン音のそばで育ったので、苦にはならないようだ。 
 
欠伸をひとつして、彼はすぐに眠りについた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Frederica》 
久しぶりに見る姿は、少年を青年へと変えていた。 
休息する暇も無かったのか、やつれたような気もするし、顔色も悪い気がする。 
いつの間にか背丈は自分より頭ひとつ分高い。 
最後に会ったのは、確か編物をするための毛糸を調達してくれた時に話した時だから…。 
彼女は考えた。 
目の前の青年がドラゴンを探す旅路へついた時、彼女はベッドに臥せっていてお別れも言えなかったのだ。 
戦闘からくる疲れなのか、青い顔をしている青年へ向けて彼女は口を開いた。 
 
「せめて今日はゆっくり休んで…」 
「みやげ話は、あとにしてもらおうか!」 
 
遮られた。 
操縦士の男とは、この船に一緒に乗り込んだ。 
マテライトがいつの間にか調達していた人員が、この船に向かう彼女たちと途中で合流したのだ。 
この船に-今センダック艦長がファーレンハイトと名づけた-乗り込む際、疑いの眼差しを向ける帝国兵と堂々と渡り合うだけならともかく、皇帝のことにやたら詳しかったことに、彼女は未だ疑問を覚えている。 
ダミ声が響くブリッジで、彼女はちらりとそばに立っている男を見た。 
つややかな長い髪をゆったりとうなじの下あたりで纏めている。 
後姿だけ見たら女性に見えないこともない。 
 
(でも変装は無理ね。肩幅が大分広いもの…) 
 
腰から下のラインは、優雅な足捌きもあってまるで貴族のようだった。 
そのくせ、マテライトの巨体を一撃で壁まで吹き飛ばす力がある。 
 
(筋力が無くてもタイミングや場所で簡単に相手を転がすことが出来るって、ビュウさんが教えてくれた…) 
 
でもその場合、なおさら彼は只者ではないということになる。 
彼女はさりげなく視線をそらして、傍に立つビュウを見た。 
リーダーとしての風格…とでも言うのだろうか。 
堂々としていて、周囲の空気が違うように見える。 
でもそれは自分の目がフィルターを通しているせいだと、彼女は思っている。 
大きな国旗が掲げられたのを見ていたビュウが、彼女の視線を受けて見つめ返した。 
 
「明朝集会じゃ!今日は早く休み明日に備えるのじゃ!!」 
「男部屋は左側、女性の部屋は右側でアリマス!いい匂いがするでアリマス!」 
 
そう言い残して半ば体を引きずるように退場したマテライトを見送ってから、彼女はビュウの袖を引っ張った。 
ブリッジから出て、細い通路で向かい合う。 
目を合わせようとして-動悸がしたので逸らせたまま、 
 
「あの…新しい操縦士のホーネットさんのことなんだけど」 
 
と切り出した時に、彼の目元がぴくりと一瞬だけ動いたことに、彼女は気付かなかった。 
 
「なにかあった?」 
「違うの。ただ、何かが…おかしいなと思って…その、うまく言葉に出来ないのだけれど」 
「うん」 
「操縦士にしてはこう、場慣れ…とも違うけど。ううん、疑うなんて良くないわね。ごめんなさい、ビュウさん」 
 
首を振って否定した彼女に向けて、彼は頷く。 
 
「これから色んな国の人が乗るから、習慣の違いから違和感を感じると思うけど…」 
 
そうね、と頷いた彼女が顔を上げると、彼は横を向いていた。 
その先を追うと、扉から半身だけ覗かせた男がいた。 
 
「オレの噂かな?」 
 
硬直する彼女をさりげなく自分の後ろに隠したビュウが、部屋に戻るように彼女に言った。 
ぱたぱたと遠ざかる足音を後ろに聞いて、彼は扉から出てきた男-新操縦士に声を掛ける。 
 
「少し、時間はありますか」 
「まだどこにも飛ばないからな。正直暇だ」 
「話を」 
 
2人のランサーが横を駆け抜けていった。 
女性達のはしゃぐ声も聞こえてくる。 
彼は閉口した。 
それを見て、男が外はどうかと提案する。 
彼は頷いた。 
男の後ろについて歩きだした彼が、女部屋の扉を細く開けてこちらを見ていた彼女を見つけて、微笑した。 
その姿が見えなくなって、彼女の心臓は高鳴った。 
焦って廊下へ出ると、誰かのぽよんとした腹に当たり尻餅をついた。 
当たられた相手は微動だにせず、片手に持ったおにぎりをぱくつきながら、 
 
「どうしたの?顔色悪いよ?」 
 
と彼女に手を差し出した。 
ハッとしてその手を取って立ち上がると、おにぎりを持つ手も合わせ包むように握って、 
 
「ビッケバッケ、お願いがあるの!」 
 
と、有無を言わさない勢いの“お願い”に、ビッケバッケは頷くしかなかった。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side View & Hornet》 
男の背で揺れる銀色の髪を見る。 
ゆったりと結われた髪は碧の紐で括られていて、それはとても優雅な後ろ姿だった。 
甲板へ出る。 
踏み躙られて焦げた芝生のにおいはもうしなかった。 
既に赤く染まった空が銀の髪を染めた。 
赤と橙のグラデーションが銀色と交じりあい、不思議だが美しい色に思えた。 
振り返った操縦士の男が、一瞬目を瞠った。 
訝しげにその理由を尋ねると、男は笑いながら答えた。 
 
「君の髪がな。夕陽に染められていい色をしていたんだ。美しい」 
 
先程自分が考えていたことと同様の言葉が返ってきて、彼はむず痒いものを感じた。 
傍に寄ってこようとするドラゴン達を目で制して、彼は男を見上げる。 
意を決してから口を開いた。 
 
「サウザーの、右腕だったんだって?」 
 
男はかなり驚いたように見えた。 
だが取り乱したり、誰から聞いたのかと尋ねたりはしなかった。 
ただ、そうだと頷いただけだった。 
 
「知っているのはオレだけだよ。…だから、疑っているのもオレだけだ」 
「ああ」 
 
男は顎を数度撫でて、指を止めた。 
 
「要求でもあるのか」 
「凄腕のクロスナイトだったと聞いた」 
「ふむ」 
「オレに剣をおしえてくれ」 
「俺は剣を捨てたんだ」 
「でも反乱軍の船に乗っているってことは、戦争を見たくないってわけではないんだろ?」 
「見たくないさ。ここにいればお前等が行って帰るのを待つだけだからな」 
「…」 
 
ビュウが唇を引き結んだ。 
男は夕陽に照らされるその顔を見て、美しい、とまた思った。 
唇が開くところをまた見たくて、男は彼に質問を投げた。 
 
「俺も聞きたいことがある」 
「?」 
「今日、指揮を取っていたのはお前か?」 
「そうだ」 
 
唇が動いた。 
彼はそれだけで満足した。 
それでも始めてしまった会話を繋げるため、先を続けた。 
 
「大将だけ倒せば後の連中は何もできなくなったはずだ。それはわかっていたか」 
 
彼は少し躊躇った後、わかっていたと答えた。 
 
「では何故全ての兵士を殺した?」 
「…」 
 
男は彼の瞳に迷いを見て取った。 
建前を言うべきか本音を言うべきか悩んでいるように見える。 
またほんの少しの間を置いてから彼は言った。 
 
「あんたは卑怯だ」 
「なんだ、突然」 
「嘘なんかつかせてもくれないんだろう」 
「そんなことはない、とも言い切れない」 
「…」 
 
急速に暗くなる空に、2人の姿が包まれた。 
最早余韻しかない太陽の光がさすほうを見て、彼は絞りだすように声を発した。 
 
「皆に…人殺しに慣れてもらうため」 
 
男が見ていた彼の横顔を照らす光が消えた。 
周囲に闇が迫る。 
男が見ていると、また彼が唇を震わせた。 
 
「反乱軍はまだ名ばかりで実力もない。オレも、ない。ドラゴンだってまだまだだ。しばらくは敵の強さを探りながら仕掛ける相手を選ばないといけない」 
「そういう点ではここの守備が甘くて良かったな」 
「知ってた」 
「うん?」 
「この船がここにあることも、あんたが乗り込んでいることも、あえて弱いものを乗せていることも、知ってた」 
「…スパイでも入ってるのか?」 
「直接聞いたから。いや、手紙でだ。…まさか本当だとは思ってなかったけれど」 
「直接?」 
 
彼が男を見た。 
その瞳に、先程までオレルスの空が映っていた瞳に、闇が降りているのを見て、男は口を閉ざした。 
自分がここにいることを知っている人間を思い浮かべる。 
1人しかいなかった。 
 
「あんたは」 
「せめて名前で呼んでほしいな」 
「…ホーネットは、何か企んでいるのか?」 
「俺はアイツのやり方が気に食わなかったから反乱軍に参加したんだ」 
「かつての親友に剣を向けるのか」 
「それは俺の役目じゃない」 
「!」 
 
空は完全に闇で覆われた。 
ブリッジからの光と、甲板へ出るための扉に付けられた小窓からの光だけが辺りを照らす。 
それらの光が届かないところに男はいて、彼は背中を照らされていた。 
ブリッジに人影が写る。 
すぐに消えた。 
それを見た男が、また顎を撫でた。 
 
「ここの空は思ったより寒くなるぞ」 
「そうみたいだな」 
「俺が気になるなら隣に寝るといい。機関室の横だからうるさいがな」 
「オレはドラゴン達と寝る」 
「信用されたと思っていいのか」 
「ホーネットが…裏切る予定なら、オレが傍にいても無駄だ」 
「買い被ってないか」 
「ない」 
 
即答した彼に苦笑する。 
 
「俺も注意しよう。アイツと知り合いなのは俺だけではないようだしな」 
「知り合いなんかじゃない」 
「…ふ」 
 
男は口を笑みの形にしながら彼の横を通り抜けた。 
艦の扉を開ける。 
男が振り向くと、扉からの光は彼の足元迄しか届いていなかった。 
完全な闇の手前に立ち、ブリッジからの薄い光が届いてはいるが、男が開けた扉からの強い光には当たっていない。 
薄暗い背中は彼が闇を見つめていることを表している。 
 
「ビュウ」 
 
男が彼の名を呼んだ。 
彼は振り向かなかった。 
そのまま闇の中へ数歩。 
背中さえ見えなくなった。 
それでも男が闇を見つめていると、突然の存在感が圧迫感を伴いながら、ぬ、と、薄明かりの空間に赤黒い異形の顔を突き出した。 
その人間に在らざる者は、一瞬目を大きくした男を見て目を細めた。 
笑われた。 
そう男は感じた。 
異形の主は暗闇に顔を戻すと、一陣の風を起こした。 
バサリと一度だけ羽ばたく音がした。 
男の体に絡み付いていた圧迫感はすぐに消えた。 
 
「あれが…ドラゴン?」 
 
今になって汗が吹き出た。 
男は艦内へ戻ると足早に自室へ戻る。 
ドラゴンを間近に見たのが初めてではない男にとって、その衝撃は違和感として記憶された。 
 
男がドラゴンに興味を持つきっかけとなったその出来事は、後にブリッジの非常口からの飛び降りを容認させることになる。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Zora》 
まずベッドを決めた。 
誰がどこに寝るのか、それはすんなりと決まった。 
いずれベッドの数が足りなくなると、彼女は女部屋を見渡して思った。 
次に彼女は床と窓に目をやった。 
男所帯だったにしては綺麗に磨かれているので、彼女は満足した。 
他の部屋の様子を見ようと廊下に出ると、血の気の引いた真っ白な顔のフレデリカを見つける。 
早く休みなさいと言う彼女の言葉に、フレデリカはみつあみを揺らしながら頷いた。 
頷いたが、ブリッジへ続く廊下を見つめたままそこを動かない。 
彼女はブリッジを覗き込んだ。 
正面の大きな窓からこっそりと外を見ている、ふくよかな体型の男の後姿が見えた。 
 
「ちょいと、ビッケバッケ」 
「え?あっ、ゾラさん」 
 
ちょっと待って、と言ったきり彼は振り向かない。 
陽の落ちた外をジッと見ているので、彼女はその横に立って何気なく外を見た。 
暗くてよく見えないが誰かが立っている、とわかったとたん強引に手を引かれて窓から離された。 
 
「ゾラさん!」 
「なんだい、好きな子の姿でも追ってるのかと思ったら」 
「ちがうよう」 
 
ばれたかな、ダメかもどうしよう、そんなことを言いながら1人焦る彼に、フレデリカが声を掛けた。 
少し慌てながら彼はフレデリカのもとへ走って、なにやら小声で話しながら姿を消した。 
 
「ふうん?」 
 
フレデリカがビッケバッケにビュウの様子を見てくれとでも頼んだのだろうと考えた。 
恋路のことかと思いつつも、それにしてもフレデリカの顔色はおかしかったと気付く。 
窓から数歩離れたそこからはもう下が見えない。 
また見ようと思う気分でもなくて、彼女は溜息をついた。 
計器の類を見渡してやはりきれいにされていることに満足する。 
再びふと窓を見たとき、黒っぽい何かがよぎって行った。 
どのドラゴンかはわからなかったが、ドラゴンならば乗っているのは間違いなくビュウだろう。 
 
「ビュウには色恋よりもドラゴンだね」 
 
そう呟いた。 
 
「ワシもそう思う」 
 
後ろから予想外の返答が来て、彼女は驚いて振り返った。 
白髪の老人がぼうっと立っていた。 
 
「ワシの部屋、ここなの」 
「ああ、艦長室は個室なんですね」 
 
老人-センダックが頷いた。 
 
「艦長となると途端にやることが増えて大変ですねえ」 
「うん。でもワシ、前もやってたから」 
「そうなんですか。でも無理はしちゃいけませんよ。手伝えることがあったらアタシでも、誰にでも声をかけてくださいね」 
「ありがとう」 
 
センダックが手を振って部屋へ戻って行った。 
彼女は来た道を引き返し、ロビーまで行こうかと考えてからやめた。 
女部屋に戻ると、さすがに疲れたのか皆が寝静まっている。 
近くのベッドにフレデリカの顔を見つけて、胸を撫で下ろした。 
明日からは掃除に洗濯に…買い物がまともにできるようになるにはまだ時間がかかるだろうから、肌着や何かも繕った方がいいかもしれない。 
あれこれと仕事を考えていた彼女もやがてベッドに入った。 
暗くなった部屋に数人分の寝息だけが聞こえる。 
久しぶりのベッドはやはり心地が良かった。 
 
(テードは酷かったものねえ) 
 
まるで一ヶ月も前に感じるのに、まだテードを離れたばかりだということに驚きを隠せない。 
魔法で癒せない傷を自分が与えているとき、白魔法を学んだ点から見ても彼女の性分から見ても違和感以上のものを感じた。 
それは死体を空へ還したときに重くのしかかって来た。 
あの庭には出撃のとき以外には近づかないだろうと感じる。 
 
(アタシは何のために白魔法を覚えたんだっけかね…) 
 
怪我人も事故で亡くなった人も見たことがある。 
無惨な亡骸は戦いで死んだ者だけとは限らない故に、傷だらけの亡骸だけをさして“むごい”とは、感じなかった。 
彼女達が“殺した”者達は憎悪や疑問や何かを全て彼女達に託して死んでいった。 
プリーストがそこにいるのに何故- 
そう言っているように感じた。 
それは傷を癒す力を持つ自分だから感じた一種の被害妄想なのだろうか。 
思考が堂々巡りをしそうだと気付き、彼女は布団の中で首を振った。 
既に始まったことなのだと自分に言い聞かせる。 
髪を結わえていた紐を解く。 
明日は久しぶりにゆっくりとした湯船に浸かれるかもしれない。 
そんな期待に思考をスライドさせて、彼女は微睡みに意識を手放した。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side Lancers》 
「ようやく僕たちの出番だね、レーヴェ」 
「そうだねフルンゼ」 
「明日は皆の前でランランランサー!」 
「ずっと練習してきた僕らの演舞のお披露目だね!」  
「何しろずっと練習してきたもんね!」 
「楽しみだね」 
「うん、楽しみだ」 
「眠れる?」 
「眠れない」 
「少し練習しようか」 
「そうだそれがいいよ」 
「誰じゃこんな時間までヒソヒソ話とる奴は!!早く寝るのじゃ!!」 
「……………」 
「……………」 
「寝るしかなさそうだよ、フルンゼ」 
「そうだねレーヴェ」 
「明日早く起きよう!」 
「そうだね!」 
「それじゃあ、おやすみ」 
「おやすみ」 
「…(ランランランサ~)」 
「…(ベッドの中でもヤリヤリ!)」
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