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父さん、微かに覚えています。
あなたは私を抱き上げてキスをしましたね。
母さんは優しく微笑んでいました。
美しい笑顔でした。

父さん、私はもうあなたを忘れることにしました。
これ以上は恨むことさえ億劫です。
あなたは今愛する人の顔を毎日見ることで私の悲しみを思い知るでしょう。
けれどもあなたはもう自由です。

それなのに、父さん。
まだあなたを夢に見ます。
今もあなたを呼んで起きる朝があります。
母さんとあなたと三人で過ごした静止画のような日が脳裏に焼きついています。

そんなとき私は非常に泣きたくなるのです。
あなたを自由にしようと、私を自由にしようと決めたと言うのに。
私にはあなたを追って起きる朝が来るのです。
あなたの笑顔を思い出して私は泣くのです。

出すつもりもないこんな手紙をしたためては、
生ゴミとともに庭で焼いています。 私があなたを許そうとするのはもしかして逃避なのかもしれません。 あるいは、これ以上積もると危険と言う自己防衛なのかもしれません。 でも私はそちらは専門外ですしさすがに自分の精神状態を分析することは 出来ません。 父さん、――あなたを許すべきだと母さんは言うかもしれません。 しかし私はそんなに心の広い人間にはなれそうがありません。 許したら、あなたが私の心から消えてしまうような気がします。 それだけは、 「あ!なにサボってるのよさ」 「サボって・・・お嬢ちゃん、ここでは客人に庭でゴミを燃やさせるのかい?」 「アンタは客じゃないって先生が言ってたのよさ」 「ええ?そりゃ本当かい、お嬢ちゃん」 「さっきからもう!お嬢ちゃんじゃないのよさ!レディなのよさ!」 「はは、そりゃ失礼」  ビリ、と男の手の中の手紙が破られた。  庭先に掘られた穴の中で煌々と燃えていた火は、  今や炭になった木材の下でじわりと灯っている。  破いた紙を火バサミで挟み、隙間から見えた赤い光に押し付けた。  誰にも届かない手紙は端から黒く染まり溶けるように黒く散っていった。
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