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夕波くらく啼く千鳥
われは千鳥にあらねども
心の羽をうちふりて
さみしきかたに飛べるかな



第一連







 その日も雨だった。
 私は車に積んであるはずの傘を探したが、生憎と見当たらなかった。
 昨日の雨でも使った記憶があるのだが。

 気づく。
 そう、昨日も使ったのだ。
 だから、無いのだ。
 家の中で広げられ、吸収した水分を空気中に発散させているのだ。

「あぁ、参った・・・・」

 いつもしていることだ。
 日常を忘れていたらしい。
 何が私をそこまで焦らせているのか、わからない。
 わからないことに腹を立てる。

「・・・・」

 自分を落ち着けるにはどうすればよかったか。
 手で顔を覆った。
 深呼吸をする。
 肩は戦慄いていた。
 顎から滴ったのが雨だけではないことに、眉をしかめた。
















 もう一人の黒い医者に出会った。
 会った、というよりは姿を見た、という方が正しいだろう。
 向こうは私に気づいていなかったのだから。

 その医者は、もう一人女性を連れて歩いていた。
 依頼人の関係者か何かだろうか。
 そう、仕事の関係の人間だ。
 頭はそう思っていた。
 思っていたが。

 体は踵を返していた。
 途中看板に仕事道具の入った鞄をぶつけた。
 すれ違う人間に不信な目で見られた。
 肩が当たった男からは呼び止められたが、無視した。
 気づくと歩調は早くなり、何時の間にか走っていた。
 取り敢えず後部座席に乗り込んだ私は、置いてあったタオルをかぶった。
 足元を探る。
 傘を探す。



 そして、今に至る。



 タオルで顔の水滴を拭った。
 髪から垂れてきたのでまた濡れた。
 拭くのを諦めた私はまた濡れた。



 何度目かの溜息をつく。
 空が見たい。
 唐突にそう思ったが、ここは車の中で。
 尚且つ今は雨が降っているわけだから。



「現実逃避も甚だしいな」



 鼻で笑い飛ばした。
 それがまた自嘲気味だったことに自嘲する。
 いつまで経っても終わらなさそうなので、やめた。



 取り敢えず背もたれに体を預け、目を閉じる。
 また深呼吸をした。



 海が見たい。
 思った。
 ふと思った。
 先ほどよりももっと軽い気持ちでそう思った。
 海ならばそう遠くない。
 雨でも見ることが出来る。



 私は私の願いを叶えるために、この場から離れることとした。
 

 


































 走っているうちに上がった雨。
 天上は当初私が望んでいた空を見せていた。
 視線を元に戻せば、そこには海があった。
 とても穏やかとは言いがたい海だが。
 雲の切れ間から覗く夕陽が眩しくて、目を細めた。



 夕陽と私の間に影が引かれた。
 鳥が飛んでいる。
 あれは何という鳥か。
 春や秋によく見る鳥だ。
 私の家のすぐ裏にも飛んでいた。



 ぼんやりと鳥を目で追っているそのうちに。
 いつしか夕陽も沈みきり、私は一人残された。



 ふと、気づく。
 海へ行こうと、思ったくらいの軽い気持ちで、ふと、気づく。







































 彼のそばにいるのが私ではないことに、ふと、気づく。



 気づいた私の目からは涙が落ちていく。
 大の大人が。
 みっともない。
 久方ぶりに流した涙を手にとった。
 自分にこの感情がまだあるとは到底思っていなかった。



 一度空を仰ぎ見る。
 まだ曇ったその空を、飛べるだろうかと、ただ思う。
 飛ぶ気もないのに、そう思う。



 私は帰ることにした。
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