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 危険を告げる音が耳に届いて、腰を上げた。
 先ほど着たばかりのパーカーを脱いで布団に放り投げ、生乾きの手袋をはめる。
 ブーツを履いて外に出れば音は一層大きくなって耳をつんざくようだった。
 あまりにも煩かったので、一番近くのスピーカーをはたいて壊す。
 いい音量になった。
 夜の間に越してきた、この人気のない町に鳴り響く音は、趣味を満喫する自分の体を包むように、まとわりついてくる。
 それは最近感じている、このむなしさを後押しするような気さえしてくる。
 避難指示から予測した怪人の出現場所へ向かい、発見した怪人を吹っ飛ばしてそのまま帰る。
 まだ鳴り響いていた音は自宅の玄関の鍵を開ける頃になってようやく途切れた。
 怪人が多いのか、しょっちゅう聞くためにもはや警告ではなく歌のように感じて来たその音は、そのうちに空っぽの自分の中を満たしてくれるだろうか。
 手袋を洗いながらそんなことを考え、そして干した。
 
 使えそうなテレビを拾う。
 あの音を聞かずともニュースを見ればどこで何が起きているかわかるようになった。
 そういえばここしばらくあの音を聞いていない。
 スーパーとの往復を繰り返す日々。
 道中で見かけた怪人をとりあえずひっぱたく日々。
 猛烈に叫びたくなる日もあれば、ひどくつまらなく感じる日もある。
 うろついている怪人は何をしているのだろうか。
 あれの親玉はいるのだろうか。
 何が、楽しいのだろうか。
 
 
 
 
 
 
 
「先生」
「ん?」
「どうしたんですか?もしかして魚が焦げていましたか」
「ああ、いや、音がな」
「音ですか」
 箸を置いて姿勢を伸ばす弟子が先を促すように聞いてくる。
 程よい出汁の味噌汁をすすりながら、昔は音が気になっていたことを告げると、弟子はいつもの勢いでノートにペンを走らせた。
「テレビがあってよかったですね。今は携帯でも連絡が来ますし」
「ああ、そうだな」
 外出するたびに怪人と遭遇していた頃が懐かしく感じる。
 ヒーロー活動を始めたばかりの時はよく怪人と鉢合わせして何度も血を見たっけ。
「・・・つまんねえな」
「え?今何かおっしゃいましたか?」
「うん、味噌汁おかわり」
「はい!」
 結局一番変わったことは毛髪くらいなのか。
 あまり考えたくない。
「どうぞ、先生」
「おう」
 他人が作った料理のほうがうまいことを思い出すくらいに、一人に慣れすぎたせいだろうか。
 ここのところ、たまに非常に眠くなる。
 
 
 
 
 
 
 夢に鳴り響く音はひどく煩わしくて、とても寝ていられずに目を開ける。
 目覚ましを見ると、布団に入ってから3分と経っていなかった。
「ジェノス、起きてるか」
「はい。どうなさいましたか?」
「何か聞こえるか」
「・・・。・・・・・・いいえ」
「そうか」
「何か聞こえましたか?」
「いや、半分夢を見てた。何でもねーよ」
「そうですか。明日は鍋をしましょう」
 おう、と返事をする。
 再び耳の奥から聞こえてくる音が思考に靄をかける。
 そのうち懐かしい歌のように聞こえるようになって、途絶えず頭を巡り、そして消した。
 耳を澄ましてしまえば頭の中ではずっと音が鳴り響いていることに気がついてしまう。
 気がついたらたぶん、ヒーローでは無くなってしまう予感がある。
「なあ、ジェノス」
「はい」
「この町に警報が出たら教えてくれよ」
「警報ですか?」
「なんか、慣れすぎてスルーしそうだから」
「わかりました」
 
 
 
 
 
 
 趣味が仕事になって、なんか思っていたのと違うヒーロー業は意外と退屈で、そして時に面倒だ。
 このままでいいのだろうかと考える。
 考える度に、昔憧れたヒーローの背中を思い出す。
 どんなヒーローだったかもう覚えていないのが悔しいけれど。
 それでもまだヒーローを続けるだろう、と窓の外で風に揺れる手袋を見てから目を閉じた。
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