『というわけで、もうすぐ終わりそうだから食事でもどうかな』
「うん、やだ」
『おごるよ』
「あんま遠くだと行けねーぞ」
『B市だよ。迎えはいるかい?』
「駅前ならわかる」
『よかった。誰にも邪魔されたくないからね。それじゃあ、駅前で』
「おー」
もう少ししたら出かけるから、と言おうとして、今は誰もいないことを思い出した。
同居人は今メンテナンス中だ。いつ帰って来るかは知らない。またパーツとか変わって帰ってくるのだろうか。気づかないだろうけど。
本を開き直した。新刊を買ってきたけれど、前の巻がどこで終わっていたか思い出せず読み返したら、今まで気が付かなかった伏線に気づいて新たな楽しさを知ってしまった。
「すげーよなー、漫画家って。少なくとも俺より社会に影響与えてるよなー」
それを言えばこれから会うアイドルだかなんだったかをやっている男もそうなのかもしれない。
あまり歌番組だとかを見ねえからわかんねーけど。
「やべえよなあ。キングが薦めてくる本」
つい熱中して読んじまう。
『今どこだい?』
「あ、わりまだ家」
『まだ出られそうにないかな』
「んー。もうちょっとかな。これ今日買ったやつだから」
『今日買った・・・?』
「おう。あー忙しいんだっけ、お前。待てなかったら今度にしようぜ」
『・・・今日はもう君に会わないと寝られそうにないんだ。だから待つよ』
「ふーん。じゃあ後でな」
「え?漫画?」
「そう。キングに借りたらハマっちゃって買っちった」
「僕との時間を漫画で削るなんて、君くらいだよ」
「いや普通だろ、男と飯食うだけじゃん」
なんかビルの上の方の個室だけど。
ぜってー自分じゃ入らねえっていうか俺サンダルで来ちゃったんだけど良かったのかな。
入れたんだからいいのか。
「お酒は飲むかい?」
「んー。こういうところの酒ってよくわかんねーからいいや」
「部屋、取ってあるから休んでいってもいいんだよ」
「ぜってー落ち着かねーから」
いつもいつも飯の後部屋がとか休んでとか。
あ、こいつ疲れやすいのか?まあ兼業してるしな。
「んじゃ、ごちそーさん」
「待って、プレゼントがあるんだ」
「花はいらねーぞ」
「・・・君に似合う花だと思ったんだ。気に入らなかった?」
「あの後持って帰る最中に散るわ変な目で見られるわ、あのなあ、ハゲに花は似合わねえんだよ」
「そういうかなと思って、今日は君が喜びそうなものを用意したんだ」
「んー?」
翌日、遊びにきたキングが冷蔵庫の上においておいた箱を目ざとく見つけて聞いてきた。
自分で言うのもなんだが、うちじゃあまず買わないような高級品だからな。
「ねえ、どうしたのこの昆布」
「もらった」
「ふくびきとかで?」
「いや、アマイマスク」
「・・・」
キングが考え込んでいる。
前回もらった花はゴミ箱へ直行したが、さすがに食べ物だとそうはいかない。
餌付けされているような気がしないでもないけど、昆布に罪はないよな。
「ジェノス氏は今日帰って来るの?」
「さあ、聞いてねえな。てかこれってやっぱ何かお返しとかしたほうがいいんかな」
「それはやめたほうがいいと思う」
「え、なんで」
「なんでって、変な見返りを求められたらどうするの・・・」
「それはいやだな」
「ああいう人は避けると距離を詰めてくるし、これまで通りいいとこ取りだけすればいいと思うよ。実力行使で来たら、まあそれはないと思うけど、その時はその時だし」
「・・・なんで俺のまわりにはストーカーみたいなやつが多いんだ」
「なんでだろうね・・・」
夜、湯豆腐でもいいかと尋ねると、いいよと返ってきた。
ちょっとリッチに、スーパーの59円豆腐じゃなくて、豆腐屋の豆腐でも買おうか。
木綿と絹を混ぜても楽しそうだ。
とりあえず、今日キングに借りた、昨日読んでた本のスピンオフとかいう漫画を読んでから。