【Gypsophila】

あー　とか、

んー　とか、

時には溜息をつきながら。

そのうち、

むー　とか、

かー　とか、

言い出したもんだから。

溜まったもんじゃない。

隣のオッサンよ、ちょっと静かにしてくれって。

言いたくなるわけだ。

周りの（いや、俺らしかいないけど）注目浴びてんぞー、と。

どうしたもんかね。

てかここは遊泳オッケーな海だよな？

ってことは、釣りっていけないんじゃね？

…よし。

理由があればこっちのもんだ。

おい、お

ジジイ。ここで釣りしてんじゃねぇよ。釣り禁止ってソコに書いてあるだろ

…

おっさんはムッとした表情で振り返ったが。

まぁ、相手が悪かったな、相手が。

オッサン、振り返った時の勢いはどこへやら。

まぁ、こんなもんよね人生は。

伊勢っち、こわーい

そうでシュ。もうちょっと優しい方がもてるでシュ

なおさらこの方がいいってことか、それは

伊勢ってば意地悪だねー

赤坂がそう言ったとき、後ろで水音が上がったもんだから、俺は驚きながら振り返る。

イッテ…

そう呻いている高城を見つけた。

す、透けちゃって。

ななななにってシャツがほらアレよ。

たっ、高

いつまでも座り込んでないで。立てよ。

いや、そのえっと

？

何か、絡まっちゃって

どうした

伊勢が、海水に手を突っ込み、高城の足をま、ままままさぐっ…

ん、これか

そう言って伊勢が（ようやく）高城の足から手を離す。

つまんでいたものを高城に見せた。

釣針、だな

糸つき？

あぁ

九郎ちん刺さったの？大丈夫？痛くない？

大丈夫だよ、そんな、ちょっとチクってしたくらい…

ほら、立て。

伊勢がそう言って手を差し伸べた。

高城がその手を取って立ち上がる。

………。

…早く離せよ。

いつまで仲良くお手手つないでるのよ。

男同士だろ。

気持ち悪いだろ。

………。

はぁ。

何だよ、もう。

このイライラ。イライラにイライラする。

………。

あぁ何だ。

俺ってそっちのヒトだったんだ。

…ちぇ。何だよ。

気づいた途端に玉砕かよ。

…やっぱり遠山の方が可愛いって。

そう思え、自分。

高城が伊勢の手を離してりゃ。

伊勢が高城に手を差し出さなけりゃ。

高城が海の中転ばなきゃ。

そもそも釣針なんちうものが無けりゃ。

吉国くん顔こわーい

へっ？

うんうん。その顔その顔。

その顔って…俺そんなひどい顔してた？

うん。ヒドイなんてものじゃなかったもん。なんていうのかな。

うらやましーんだろ。

えぇっ！？

ん？吉国、何が羨ましいんだ？

え、いや、俺は別に何も

無理するな

ちょっ、おまっ、伊勢！





そもそもあの釣りをしてたおっさんがいなければ。

あーぁ。

もーやってらんね。