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                  《Side Sauzer》 
胸騒ぎがした。 
昼間に聞いた反乱軍結成の報告のせいかもしれないし、夕方に聞いた神竜の居所を突き止めた報告のせいかもしれない。 
どちらとも知れないがどちらでもない気もした。 
以前胸騒ぎがしたときは地下牢の少女に会いに行った。 
少女はいつの間にか大人の雰囲気を身にまとっていた。 
自分の右腕である男に、女にされたのだろうと思った。 
あの男は楽しい話を知らないだろう。 
そう聞くと少女はほんの少し笑みを浮かべた。 
次に神竜の話をする。 
相変わらず、知らぬと言い返してくる。 
そんなはずはないと彼が一歩近づくと、それだけで緊張が限界に達したのであろう。 
少女は恐怖に彩られた顔を背けて、唇だけで何かを呟いた。 
それが知っている男の名で、萎えた。 
 
「敵に助けを求めるのか」 
 
彼がそういうと、少女はハッとして顔を上げた。 
その様子を見もしないまま彼はその場を後にする。 
何処にいようと誰にだろうと自分には守られる権利があるという気持ちが 
節々から感じられる少女の言葉に、守られて来た人間特有の傲慢さを見た気がした。 
 
色恋に縁のなかった彼の右腕の男が、少しずつ少女へ傾いて行くのを感じる。 
それでもいつか気付くだろう。 
支配することを当り前として生きてきた人間と、自ら切り開いた道を進んできた人間との間の齟齬は必ず大きな壁となる。 
少女は壊れそうな道具だ。 
だが右腕の男は違う。 
文字通り彼の右腕なのだ。 
壊れてしまっては困る。 
 
「…引き離す?」 
 
馬鹿馬鹿しい。 
そんなことをせずとも、少女が手に入れられるのは身体だけだ。 
彼はそう感じていた。 
 
 
 
 
 
 
開いていただけの本を閉じる。 
胸騒ぎはいつの間にか静まっていた。 
窓の向こうには、夜風に当たらせてくれと言いながらテラスに出ていった男の姿がある。 
 
「パルパレオス」 
 
声を掛けた。 
そう大きな声でもなかったのに、男は振り向いた。 
いつものきびきびとした動作で窓を開け、部屋へ戻った男がなんだと尋ねた。 
 
「ここからなら2日はかかるだろう。明日出発し森へ行こう。お前は王女を頼む」 
「わかった」 
「反乱軍が結成されたな」 
「そのようだ」 
「船が奪われたぞ」 
「何番艦が奪われたんだ?そんな報告は聞いていないが」 
「もともと奴らの持ち物だった船だ」 
「…!いや、しかし何故場所がわかったのか。あの船の行動を知っているものはほとんどいなかったろう」 
「そうだな。しかも幹部を降ろした途端にやってきたからな。さぞかし身体を張って情報を集めたのだろう」 
「タイミングが良かったのだな、恐らく。そんなに使える奴がいるとも思えない」 
「フ…」 
「なんだ?」 
「いや、なんでもない。ところでキャンベルだが、その反乱軍どもが来ても今の兵力で凌げると思うか」 
「反乱軍とは名ばかりの寄せ集めの集団なのだろう?」 
「だろうな」 
「十分だと思うが」 
「そうか。ならば明日はお前のドラゴンでいこう」 
「供を連れていかないのか?」 
「反乱軍は来ないのだろう?」 
「…わかった。王女に伝えてこよう」 
「ああ。私はもう休む。明日夜明けに来てくれ」 
「わかった」 
 
扉が開き、閉められた。 
生娘の処女を奪ったことに責任でも感じているのだろうか。 
 
「女の扱いくらい教えてやったほうがよかった…か」 
 
特に依存しようとする女に対する警戒くらいは-そう考えたところで彼は苦笑した。 
これではまるで自分が嫉妬しているようだ。 
読みかけの本を開く。 
今度は集中して読むのだと、自分に暗示をかけた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
 
                  《Side Ectarina》 
(まだ暗いわ…それに寒い…) 
 
「おや」 
 
(あっ、もう人がいるの?…どっどうしよう) 
 
「お嬢さん、まだ貴女がうろつくには早いですよ」 
 
(どうしようどうしようこっち来ちゃう?…いえ、来ないわ。何を見て…?) 
 
「ん?」 
 
(きゃ) 
 
「そう警戒しなくていい。私は今この船の機嫌を取るのに精一杯だ」 
 
(…?) 
 
「おい、機関室聞こえるか」 
 
(そういえばこの人は…操縦士さんよね) 
 
「ああ、そうだ。行くぞ。1、2、3…駄目だな。原因はわかりそうか?」 
 
(ああ、陽がのぼってきた…。きれい) 
 
「そうか、頼むぞ。…クソ帝国軍め、手荒に扱いやがって…」 
 
(凛々しい…) 
 
「!」 
 
(!?) 
 
「これはレディの前で汚い言葉を使ってしまい失礼しました」 
「…あ……いえ」 
「私は席を外しますが」 
「あの…はい」 
「では失礼」 
 
(知らない殿方と会話してしまった…こんな気持ち初めて…) 
 
「あ、いたいたエカテリーナ。起きたらいないんだものびっくりしたわよ」 
「あの、あのねアナスタシア」 
「え?どうしたの?」 
「私、私…」 
「なあに?」 
「殿方と…お話しを…」 
「えっ、本当!?すごいじゃないエカテリーナ!」 
「あの、えっとそれでね、あのね」 
「落ち着いて落ち着いて!誰なの?待ってアタシが当てるわ!」 
「あのね…好きに…なっちゃったかも…」 
「ウソ~!!待って待ってエカテリーナのお眼鏡にかなうんでしょ?えっと…そうね…トゥルース?」 
「ううん」 
「ビッケバッケ?」 
「ううん」 
「ええ??そうね後は…あ、ビュウ?ビュウでしょ!」 
「ううん…」 
「他に!?他にまともそうな人いたかしら」 
「紳士だったわ…」 
「紳士??」 
「あのね…ホーネットさん」 
「ホーネット…?ホーネッ…と…。あ、操縦士の!?ちょっとちょっとまだよく知らない人なのに!一目惚れなの?」 
「そう…それに近い…かな…」 
「そうなんだ。あの人結婚とかしてないの?」 
「結婚………」 
「してないわよね、こんなところに来るんだもの!なに?なに話したの?」 
「あのねお嬢さんって呼ばれたの…」 
「え~!キザなの?もっとさばさばしてるように見えたのに」 
「優しいの…」 
「ふうん……。じゃあさ、好きなものとか聞かないとね!」 
「そんな、私聞けないわ」 
「大丈夫よ、誰かに聞いてもらえばいいのよ」 
「そう…そうね……」 
「なんじゃお主たち早いのう」 
「わっ!!なんだマテライト…びっくりしたじゃない!」 
「普通に声を掛けただけじゃ!そうじゃ、今日昼にブリッジに集合じゃからの」 
「はあい」 
「なんじゃ。緊張感ないのう」 
「あるわよ!エカテリーナ、行こう!」 
「え?あの…えっと…」 
「なんじゃ。気にせず行っていいのじゃ。集会で遅刻はしないようにの。ついでに他の奴らにも集合を伝えるのじゃ」 
「あの、はい」 
「…」 
 
 
 
「もう、ほんとマテライトってうるさいわよね!」 
「…アナスタシア」 
「なあに?」 
「マテライトさんは……私たちを心配してくれたんだと思う…」 
「そんなわけないわよ」 
「だって、ガミガミ言わなかったし…、いつもはどこへ行くのじゃとか言うのに言わなかったし…。 
 こんな早くに起きてたら、誰だって心配するわ…」 
「…」 
「ね…?」 
「まあ…エカテリーナがそういうなら、そういうことにしておくけど」 
「ウフフ」 
「あ、笑った」 
「え?」 
「ううん。…ねえ、ビュウなら聞いてくれるんじゃない?」 
「ビュウさん」 
「ね!後で聞いてみてもらおうよ」 
「でも引き受けてくれるかしら…」 
「大丈夫よ!ね?」 
「…うん!」 
 
(私、また人の力をあてにしてる…?ううん、でも直接話すなんて私には無理よ。 
 そう、…これから自分自身で話すようにすればいいんだわ。 
 今だけ。まだ、今だけ…) 
 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
                  《Side View》 
ブリッジから見える空は青かった。 
早朝からダミ声で起こされた陰鬱な気分も、空の青さを見ればなんてことはない気がしてくる。 
雲が流れて行った。 
これで4個目だ。 
 
「おいビュウ、まだうろつくのか?」 
「ああ」 
「あんまりうろついてるとやばいぜ」 
 
ラッシュに咎められつつも周囲を見渡した。 
先程ドラゴンのもとへ行こうとしたら、扉の前に老人が陣取っていて、外へ出させてくれなかった。 
仕方なくブリッジへ戻って来たのだが、まだ始まる気配がない。 
艦長室を横目で見て、まだ開いていないことを確かめた。 
ざわめきが耳に入る。 
皆がブリッジに集まり整列している光景はそうそう見られない気がした。 
横を見る。 
ビッケバッケは暇を苦としていたし、トゥルースは…見ただけでわかる。 
並んで待ってろと言いう目をしている。 
急に船が揺れた。 
驚き振り向くとホーネットと目が合った。 
 
「こいつの調子は悪くないんだが…」 
 
じゃあ操縦士の腕が悪いんじゃないかと言おうとして、やめた。 
また皆の方を見渡す。 
昨日の疲れは残っていないのだろうか。 
特に女性に。 
 
「フレデリカ、ディアナ、おはよう。昨日は眠れた?」 
「おっはよー。もうぐっすりよ」 
「ビュウさん…。ええ、私は大丈夫。ビュウさんは…」 
「大丈夫。昨日も何もなかったしね。…しばらくは様子を見るけど、それは」 
「ランランランサー!!」 
「キャッ」 
「…えっと」 
「お隣、ランサーなの。彼ったら、振り回すのよ。ぶるんぶるんって…」 
 
身体に悪いわ。 
頬に手を当てながら困り顔でそう呟いた彼女は、心なしか先程より顔色が悪く見える。 
もともと病弱な女性だったことを思い出して彼は体調を尋ねたが、儚さをにじませた笑顔が大丈夫と答えた。 
 
「何かあったら言ってくれて構わないから」 
「ええ、ありがとうございます」 
「ビュウったら、フレデリカにはほんと優しいわよね!」 
「ディアナ、ビュウさんはみんなに優しいわ」 
「はいウソー!ビュウはドラゴンのほうが好きだわ、きっと」 
 
苦笑して-後半部分に的を射られたこともあって-目をそらすと、ディアナの向こうに小柄な少女がいた。 
少し不機嫌そうで、時折後ろを気にするような素振りをしている。 
その横の、人見知りが激しい少女は、彼が今まで見たことのない熱心な眼差しで何かを見つめていた。 
そういえば、この2人はかなり早朝からブリッジにいた気がする。 
 
「アナスタシア、エカテリーナ、おはよう」 
「おはよ、ビュウ。まだ始まらないの?なんか前へならえって感じで飽きちゃった」 
「うん…もう少しだとは思うよ」 
「あーあ。つまんないの」 
「今日早かったね。眠れなかった?」 
「違う違う。反対よ。昨日すぐ寝ちゃって、早く起きすぎたのよ」 
「ああ、なるほど」 
「エカテリーナもそう。でもエカテリーナにはイイコトあったみたいだし。あそうだ。 
 後で相談したいことがあるんだぁ。よろしくね」 
「うん。じゃ後でね」 
 
アナスタシアの後ろに目を向けた。 
小柄な少女の後ろにいるせいでさっきからずっと見えていた、圧迫感のある青年が2人。 
 
「バルクレイさん、グンソーさん、おはようございます」 
 
アナスタシアが小さく反応したのが目の端で見えた。 
 
「おはようございます、ビュウさん」 
「昨日は眠れました?」 
「ええ、ぐっすりでした…。あのですね、ベッドが足りないのでタイチョーさんとグンソーさんが一緒に寝てました…」 
「はは…」 
「昨日ビュウさんはどちらで?男部屋では見かけませんでした…」 
「ドラゴンとね。まだ慣れない場所だし動いてる島は久しぶりだから興奮してたし」 
「そうですか…。忙しいですね」 
「今日明日にはもう平気だよ。順応性もね、見習いたいくらいだから」 
 
それじゃと手を上げた。 
青い鎧をキシキシと鳴らせながらバルクレイも手を振った。 
 
「ビュウ!」 
「メロディア、おはよう」 
「ねえビュウ前が見えないよー!だっこしてー!!」 
「まだ何も始まってないよ?」 
 
そういいながらまだ幼さを残す少女を抱き上げる。 
と、小さな手が彼の頬を挟み額に巻いた布に小さな唇が押しあてられた。 
テードでもたまにされていたスキンシップだ。 
 
「はは、くすぐったいよメロディア」 
「ふふっ。ありがと!」 
 
少女を降ろす。 
噂好きな顔見知りがにんまりと笑んだのと、仕方ないねぇと微笑む中年の女性と、その横の妙齢の背の高い女性が、上目遣いにチラチラと彼を見ているのにも気付いた。 
その視線を受けて彼が微笑むと、背の高い女性は少し困ったような笑顔になった。 
 
「抱っこいいなって思ったの。わたしもしてもらおうかな…重いから、無理ね」 
「重くないですよ。やってみましょうか?」 
「えっ?いいわよそんな」 
「こう見えて鍛えてますから」 
「ねぇねぇ、ルキア」 
「えっ?なあに?メロディア」 
「髪伸びたねー」 
「へえ…。ルキアさん、短かったのですか?」 
「あ、うん。そうなの。やだ、ビュウ見たことなかったわね。私ずっと長いのよ。でも焦げちゃったからちょっと切ってね。 
 また伸ばしてるの。少しは女らしくと思って…似合わないかな?」 
「え~似合うよルキア」 
 
と幼い少女。 
 
「短いのも凛々しくて私は好きだけど」 
 
と噂好きの少女。 
2人の少女に、 
 
「ね!ビュウはどっちが似合うと思う?」 
 
と迫られて彼は言葉を濁す。 
 
「いや、あ、どちらも似合うよ。短いのは見たことないけれど」 
「…やっぱり長いの似合わないかな…」 
「え~!ビュウはっきりいいなよ!ルキアキレイだって!!」 
「いやだからさ、ルキアさん美人だから……その」 
 
視線をそらした彼がさらに後をにごす。 
唇を尖らせた少女達に覗き込まれて、彼は仕方なく後を続けた。 
 
「だから、髪が長いと色っぽさが増してさ…直視しづらいっていうか… 
 その…キレイな脚をいつも出してて刺激的だなとか。 
 ほら、ずっと兵舎で男ばかりだったからその…あんまり女性をどう思うって考えたこともないし、 
 ……ちょっとドラゴンの様子見てくるからまた後で」 
 
逃げるように廊下へ飛び込んだ彼を見送った面々が、ルキアに視線を戻す。 
金髪の美女は赤い顔でそわそわしながら、スカートの大きなスリットの袂を握り足を隠そうとしていた。 
それを見て、幼い少女が腰に手を当て怒ったポーズで床を蹴った。 
噂好きの少女はにんまりと笑いながら手帳に忙しなくメモを取っている。 
その様子をそばで見ていたゾラは、 
 
「あの子、口数少ないと思ってたけど…色々考えてるんだねぇ」 
 
と呟いた。 
 
 
 
廊下に出て一息ついた彼は頬を触った。 
別に熱いわけでもない。 
これなら逃げるようにしてこなくても平気だったかもしれない。 
今更ではあるけれど。 
彼は溜息をつく。 
可愛い少女は見慣れていたが、艶っぽい綺麗な女性は見慣れていないのだ。 
失礼な態度を取ってしまっただろうかと思いながらトボトボと歩く。 
不意に声を掛けられて顔を上げると、クルーの1人が、王家の人間が暮らすための部屋の前で手を振っていた。 
 
「ビュウさんコッチコッチ」 
 
入ってはいけない部屋へ招かれ、彼は疑問を顔に浮かべる。 
クルーは真剣に-しかしどことなく嬉しそうに、 
 
「ヨヨ王女が戻るまで何かと寂しいだろ…用意しといたぞ」 
 
といくつかの本を差し出した。 
トゥルースが好みそうな本が並んでいるなと眺めていると、最後に金髪の裸の女性が 
椅子に片足を上げてこちらを見ている表紙の本があった。 
慌てて目を逸らす。 
 
「なぜこんなのが…」 
「王女とビュウさんて身分の違いを乗り越えたカップルと聞きました!女性がいなかったらほら、つらいでしょうあっちの世話が。 
  だから取り寄せておきましたよ!あ、大丈夫ですまだ若いですからね、そんなコアな内容でなく脱いでるくらいのですからほら」 
「見せなくていいですし王女とはそんなんじゃ」 
「照れなくていいんですよホラホラ」 
 
顔を背けてまた走った。 
部屋を出てまた溜息をつき、顔を上げると金鎧の男が仁王立ちでそこにいた。 
 
「何をしておるのじゃ!さっさと戻るのじゃ!」 
「あ、はい」 
 
すぐに男は大股で去っていった。 
その姿が見えなくなると、後ろの扉からクルーが出てくる気配がした。 
 
「そういや、本やノートはドラゴンに食べさせると頭がよくなるらしいぞ…」 
「…」 
「だがあれはやめておいたほうがいいかもな。あればっかしてると頭が悪くなって攻撃的な性格になるっていうしな。 
 ビュウも気をつけた方がいいんじゃないか?」 
「あれ…?」 
 
クルーがさっと金髪女性のあられもない姿が表紙の本を掲げた。 
その動作と同じくらいの早さで目を逸らした彼は手を振ってブリッジへの道を辿る。 
先程とは別の入口からブリッジに入りそっとルキアの様子を伺おうとすると、鈍い光の巨体が視界を遮った。 
 
「整列でアリマス!」 
「あ、はい」 
 
まだあまり話したことがない壮年の男が、艦長室に戻っていく。 
用意が出来たようでアリマス、という言葉が断片的に聞こえてきた。 
ラッシュの隣に立とうとすると、背を押されて前に立たされた。 
これでは代表者のようだ。 
 
「静かにするでアリマス!!マテライトどののありがたいお話を黙って聞くでアリマス!!」 
 
物々しい雰囲気の中、マテライトがゆったりとした足取りでやってきた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
 
                  《Side Lukia》 
『悪い人じゃないのはわかってるんだけどね。やたらと回りくどいし、鬱陶しいし、要は1人だけ熱いみたいな…。むさくるしいのよね』 
 
(ディアナが言っていた意味、今ならわかるわ…) 
 
“ワシらはグランベロス帝国に反旗を翻すのじゃぞ!!” 
 
しゃがれ声が響くブリッジに、彼女は仲間とともに立っていた。 
みんな前を向いているので、先ほどまで気にしていた視線も今なら気にならない。 
 
(やっぱりちょっと考えたほうがいいかしら) 
 
機動力を武器にした彼女の脚力を最大限に活かせる服装が、今の姿だ。 
スカートは剣を持つ自分には相性が悪いし、何より似合わないと言われた過去のトラウマがある。 
 
(この間フレデリカに借りたスカート、似合うってディアナは言ってくれてたけど…) 
 
それもきっとお世辞だろうと、彼女は思っていた。 
一度切ったものの再び伸ばし始めた髪も、最近は少しもてあまし気味になっている。 
指に髪を絡ませながら、ダミ声が響いてくる前方をちらりと見た。 
たくさんの頭が並ぶ先に、眩しく見える一画がある。 
何故そう見えるのかまだ考えたことは無い。 
たまに頭をよぎるけれど、意識してしまうと離れられなくなりそうで。 
 
“じゃが…しょせんは反乱軍と呼ばれてしまう卑しい身分じゃ… 
 そのことを忘れんように、ワシはワシらのことを解放軍ではなく反乱軍と呼ぶのじゃ!!” 
 
「…マテライト、声大きいわねぇ」 
 
ぼそりと隣から声が聞こえた。 
顔を前に向けたまま呟いた隣人を横目で見て、彼女は少し口元を綻ばせた。 
まるで息子を見るような顔で、隣人は前を向いている。 
そして、もう体調は大丈夫そうだし、もっとビシバシやってもよさそうだね、と続いた。 
 
“反乱軍を指揮して行くのは…このワシじゃ!!” 
 
手加減していた隣人に対しても頭の上がらなかったマテライトが、さらに頭が上がらなくなると思うと、少しおかしい。 
思わず笑みをこぼした。 
あの男を息子のように思ってみれば、きっと今とは違うものが見えるのだろう。 
そうしたら、このコンプレックスの塊ような自分自身も好きになれるだろうか-そう考えた矢先、幼い声がダミ声に被さった。 
 
「もーやだー。マテライト話長い!」 
「え?」 
「あ、こらメロディア!」 
 
突然列を抜けたメロディアに伸ばした手が宙を切った。 
それが楽しかったのか、幼い少女は急に明るい顔となり、駆け回り始める。 
 
“なんといっても、ワシはカーナのマテライトなのじゃ!” 
 
横目に、そう言いながらビュウに詰め寄る男が見えた。 
 
(ちょっと何してるの、近いわよ!) 
 
「メロディア!待ちなさい!」 
「ダメよそこは艦長のお部屋なんだから…こら、メロディア!」 
 
“早速練習じゃ!右向け右!” 
 
みんなが一斉に右を向く。 
突然の注目に、彼女は思わず赤面した。 
すぐに視線は外されたものの、身体の動きは鈍くなる。 
その間に、素早い動きで少女を捕まえた彼女の隣人が、 
 
「いい加減にしなさい!」 
 
と一喝した。 
同時に響いていた号令が一瞬止まり、ほんの数秒後に 
 
“まわれ!” 
 
と聞こえてきた。 
おかしな程にくるくると回る仲間たちに、彼女は一瞬噴出しそうになる。 
慌てて口元を押さえて並んでいた場所へ戻り、幼い少女を抱きかかえた隣人を手招きした。 
元の場所に再び立ってから、彼女の隣人と少女は小さな声で会話をする。 
 
「マテライトに一対一で規律を教えてもらう必要があるようね、メロディア」 
「ええっ、それだけは…ごめんなさい」 
「おやつ抜きとどっちがいいかね」 
「え~。やだぁ」 
 
どう接していいのかわからない彼女と違って、小さなこどもの扱いが上手な隣人の横顔を見る。 
こどもどころか、大人や頭の固いマテライトでさえ、この隣人には頭が上がっていないようだ。 
 
(年齢のせいなのかな) 
 
彼女は思った。 
そもそも元がこんな性格だからこそ結婚することが出来たのだろうか。 
 
(それとも、“お母さん”…だから?) 
 
ふと、自分には無縁な気がして彼女は沈思した。 
急に世界が遠いことのように見えて、早く休んだほうがいいと心の片隅で理性が呟いた。 
それでも気分が落ち込むのを止める術を見つけられないまま、スカートのスリットを握り締めていた手を開く。 
 
(もう訓練も終わったことだし、部屋に戻ってもいいのかしら…) 
 
ざわつき始めた列を最後尾から眺めて、彼女は小さな溜息をついた。 
幼い少女が、再び青年の肩に乗っている。 
先程のことで気恥ずかしいのだろうか、青年は少女を肩から降ろして、彼女には微笑と会釈だけして列の前へと戻っていく。 
見送って顔を上げると、大きな窓から差し込む光が彼女の顔を照らした。 
この世界に暮らす人間にとって、見慣れた景色が窓の向こうに広がっている。 
ただ見慣れた空を見ただけなのに、突然心が落ち着いた。 
 
(ああ…そっか) 
 
顔を上げ無ければ見慣れた空も見えないのだ。 
彼女は先程とは打って変わった明るい顔で、隣人にこう言った。 
 
「ねえ、ゾラ。私にもお料理教えてくれる?」 
 
隣人は少し驚いた顔で、しかしすぐに優しい微笑みをたたえながら、 
 
「もちろんだよ」 
 
と頷いた。 
彼女は嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに笑った。 
-数時間後に涙を流しながら玉ねぎを切り刻むことになろうとは、まだ想像もしていない。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
 
                  《Side Taicho》 
一堂に会した面々を眺めて、彼はそっと拳を握る。 
自分の半分程しか人生を過ごしていない彼らに命を賭けさせるのかと、心の奥で声がした。 
不甲斐ない自分にそんな価値があるのかと、その声は問いかけてくる。 
自分の声にさえ反論出来ないままいた彼の顔に陽が当たり、ふと、見上げた。 
空を見渡すための巨大な窓と、全身で空を見渡せる小さな展望台で空を睨み付ける男が目に入る。 
その巨体で遮られていた陽の光が、男が腕を組んだために彼の顔に当たったようだ。 
彼より10…いや、もしかすると20近く年上のその男は、ギラギラと燃える瞳でとらえどころのない空を見つめている。 
何も見ていないのかもしれない。 
もしくは、何かが見えているのかもしれない。 
昔気質のその男は、先ほどまでとは打って変わった静けさで佇んでいる。 
 
「もう艦長との話は終わったのか?」 
「後で行く」 
「ふうん。ドラゴンのほうが大事か」 
「急ぎじゃないからいいんだ。それよりドラゴンが腹を空かせて暴れるほうが危ない」 
「そんなもんなのか?おいビュウ、飛び降りはやめてくれよ」 
「ここから出られるのか」 
「ああ。非常口みたいなもんだから少し狭いがな」 
「へえ。ああ、すぐ庭だ」 
 
ぼそぼそと話す声が耳に入った。 
片方はまだ聞き慣れない新しい声。 
もう片方は- 
 
(ビュウ、なんだか不機嫌でアリマス) 
 
知っている声なのに、耳慣れない声だ。 
あえて視線を送らず、そっと耳だけそばだてる。 
 
「おい、まさか飛び降りる気か」 
「いけないのか?」 
「当たり前だ」 
「それはすまない。これからの分も謝っておく」 
 
突然起こった風に、反射的に顔を上げる。 
そして、 
 
「「「あっ」」」 
 
思わず発した声が、操縦士と見知らぬ老人の声と見事に調和した。 
クリーム色のマフラーの先が窓の下に消えて行く。 
彼は慌てて窓に張り付き、つま先立ちで下を見た。 
足場と思えないようなところを2度ほど蹴っただけで、彼は地面へとたどり着く。 
ホッとするのも束の間、今度はカーナの教育係より年上に見える男-先程声が重なった見知らぬ老人-が、ビュウの後を追って外へと飛び出した。 
どこにそんな力があるのかわからない身のこなしで、やはり軽々と地面へ降り立った。 
 
「この高さを…何者でアリマス」 
「あの方は伝説の人だ」 
 
思わず呟いた声に返事が来る。 
彼は横を見た。 
太い操縦桿を握った長髪の男が、苦笑いを浮かべている。 
 
「伝説のドラゴンおやじだ。まあ、ふざけた名前だと思うだろう。でもあの人の伝説は少なくとも100年以上前からある」 
「ひゃ、ひゃくねんでアリマスか?」 
「何かの基準で襲名してるんだろうがな。ドラゴンに好かれることが絶対条件だとすると、次のドラゴンおやじは…フ、ビュウだな」 
「ビュウがドラゴンおやじでアリマスか」 
「あの様子を見ればそうとしか考えられまい」 
 
視線で促され、彼は再び外を見た。 
ドラゴンがビュウ以外の人間の-つまりはドラゴンおやじの-周囲に集まっている。 
 
「サラマンダーがビュウ以外の人間に懐くのを見たのは始めてじゃ」 
 
ダミ声が聞こえた。 
彼は顔を上げて、声の主を見る。 
 
「そうなのでアリマスか?」 
 
彼に対する答えは無かった。 
その代わりに、ダミ声が問いを投げかけた。 
 
「操縦士、お前はなんなのじゃ」 
 
彼はその問いを向けられた男を見る。 
銀色に輝く髪を、非常口から流れ込む風に躍らせている男は少し笑っていた。 
 
「どこにでもいる、空に憧れ操縦士になった男だ」 
「フン。せいぜい猫をかぶっておるといいのじゃ」 
「猫か……ふ。それは私ではないだろう」 
「ビュ…ワシの仲間に何かしおったら、死んでも殺してやるのじゃ」 
「そうか。期待している」 
「フン」 
 
金色の鎧の男と、操縦士の男を交互に見ていた彼は、しばらくしてから操縦桿を握る男の立ち姿に違和感を感じた。 
自然体に見えるのだが、隙がない。 
こちらが殺気を放てばすぐにでも返して来そうな…いわば静かな臨戦態勢なのだ。 
 
「…強そうでアリマス」 
「強そうでなく強いのじゃ。…ワシでさえ足元に及ばんのじゃ」 
「えっ、マテライト殿でもアリマスか」 
「じゃが戦闘には加わらんのじゃ。それでいいのじゃ。力があるだけで理想のない男は願い下げじゃ」 
「そう言ってもらえるのは助かる。ついでにその台詞をあの青年にも言っておいてくれ」 
「編成や作戦はアイツに任せておる。ワシが言う筋合いはないのじゃ」 
「…」 
 
それきり途絶えた会話にどことなく居心地の悪さを感じて、彼は後ろを振り返った。 
若干乱れてはいるものの、面々は未だにそこに立っている。 
彼に一番近いところにいる三人の若きナイトたちは、中央の少年を挟んで二人が真剣な顔で話をしていた。 
途切れ途切れに聞こえる内容から察すると、今後の資金について話しているようである。 
考え込んだ二人に、中央のナイトが笑いながら口を挟んだ。 
すぐに小柄なナイトが一喝する。 
 
(ああ、いじけたでアリマス) 
 
唇を尖らせてそっぽを向いたナイトを見て、彼は小さく笑みを漏らした。 
ナイトたちの後ろで、時たま長い槍が見える。 
どうやら彼らの後ろにはランサー達がいるようだ。 
 
(あの二人の名前…思い出せないでアリマス…。名前を覚えるのが大変でアリマス) 
 
彼の腹心であるヘビィアーマーは、人の名前を顔を覚えるのが得意だ。 
普段はぼうっとしていてつかみどころがないのだが、出来事ばかりか不思議と天気まで覚えている。 
王を守護するための、けれど平和な国の兵士は出入りが少なかったので、新しく名前を覚える必要はそれほどなかった。 
しかし今は続々と仲間が加わって来る。 
特にナイト達は名前を知っていただけで、なかなか一致しないのだ。 
何しろ顔を見たのは昨日が始めてで、すぐにドラゴンに乗り込みそのまま戦闘になったのだから。 
 
(ビュウは覚えたでアリマス。あとあの大きいナイトがケッケバット…ビスケット…違うでアリマス。仲間の名前を覚えられないなんて…やはりダメダメでアリマス…) 
 
彼は深く溜息をついた。 
 
 
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 
 
                  《Side Gunso》 
(人がいっぱいで蒸れるであります) 
 
ボリボリ 
 
(おや、タイチョー殿がまた落ち込んでいるであります) 
 
(セリーヌ様にも頼まれたであります) 
 
(後で何があったのか聞かないとであります) 
 
ボリボリ 
 
(蒸れるであります) 
 
ボリボリ 
 
(早くお風呂にでも入りたいであります) 
 
「グンソー殿」 
「はいであります」 
「戦闘経験はどのくらいありますか?」 
「昨日の戦闘が始めてであります」 
「えっ、昨日がですか」 
「はいであります。タイチョー殿を守るために逃げることが私の役目であります」 
「なるほど…」 
「どうしたでありますか?」 
「その、私の見間違えだったかもしれないのですが」 
「はいであります」 
「昨日の戦闘のとき、マテライト殿はガンガン敵を倒してましたが…あの、その後といいますか、あの…」 
「ああ、あれは当たり前のことであります」 
「そうなのですか?」 
「我々は貧乏であります。資金も必要であります」 
「そうですか…そうですね」 
「卑しいと思うでありますか?」 
「その…思わないといえば嘘になります。複雑です」 
「何も思わなくなってしまったら、それこそ反乱軍であります」 
「そうですね。ありがとうございます、グンソー殿」 
「いえいえであります」 
 
ボリボリ 
 
「…」 
「…」 
「蒸れますよね、鎧」 
「蒸れるであります」 
「早く脱げる日が来て欲しいです」 
「はいであります」 
「…」 
「…」 
 
ボリボリ 
ボリボリ
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