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毒々しい。
呟いた。
奴はその紅色に染められた唇を釣り上げた。
笑みの形を作ったそれの奥から、濃い桃色の内部が見える。
生き物のような明確な意志を持ち、それは紅色の唇を辿った。
突如わき起こる衝動。
背中に走った、産毛が総毛立つ何か。
性悪な猫のように目を細め、笑う奴を引っ張った。
「とりあえず、その口紅は似合わん」
腕の中で、肩をふるわせて奴は笑う。
紅いその色だけで惑わされる自分は大層フガイナイ。
「だから、落とせ」
「やーだ。気に入ってるんだもん」
クスクス。
紅い唇を釣り上げて笑う。
女らしくシナを作った、その言動。
ホントにこいつは女装が好きな変態だ。
「何で落とさなきゃいけないの?」
俺の腕の中から、見上げて奴は聞いてきた。
もう限界だ。
「馬鹿猿が…」
「やだぁ、冥きゅんてば。今は明美って呼んで」
「…ぶっころ」
「猿野くん、監督が呼んでたっすよ。
あ、また明美さんやってたっすね。
わわ、ちょっ、それはだめっす猿…明美さん!
発禁食らうっす!って、口紅を直すのは後にしてくださいっす!
監督に怒られるっすよ!」
すれ違い様、奴は子津の耳元で。
「やぁね、子津きゅんてば。女が口紅を直す時って、どういう時か知らないの?」
奴はそう言い残して出て行った。
「え?あ、寄り道しないでまっすぐ行くっすよ!
…ふう。あれ?犬飼君、どうしたんっすか?
赤いっすよ?」
慌てながら手の甲で唇をこすると子津は。
「熱でもあるっすか?顔が赤いっす」
…俺はさらに赤くなっていたことだろう。
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