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「あれ、ちんでるの?」
2mほど先の地面に転がった蝉を指差して、ピノコが言った。
木のトンネルのような道にたまたま出来た大きな日溜まりに、腹を上にして落ちている。
「あれはまだ生きているんじゃないか」
ふうん、とピノコが言った。それでも足は動かそうとしない。
「蝉が怖いのか」
首を振る少女を見て、蝉を見る。
変わらず蝉はそこにいる。
「近づくと急に動くのが驚くのよさ」
「ああ、そういうことか」
蝉は生きているのか死んでいるのか、私の見立てでは生きているが、それでも何かが近づこうとしない限りは倒れたまま死んでいくつもりなのだろう。
私はピノコをおいて足を踏み出した。
「なあ、ピノコ」
少し後ろを振り返って、私はピノコを見る。木漏れ日の中もじもじと立往生する少女らしさに、愛らしさを覚える。
「今まで何度も死んだと思った人間が息を吹き返したのを見たお前でも、蝉は怖いのか?」
膨れたような照れたような怒ったような複雑な表情で、そしてこれははっきりとわかる。度胸が勝った顔ですたすたと私の横まで歩いてきた。そのまま私を通りすぎて、突然動き出した蝉に思わず足を浮かせながらも蝉の向こうへと渡りきった。
蝉を見る。
死んでいる。
私は横を通りすぎた。蝉はピクリとも動かなかった。
「蝉、ちんだの?」
「そのようだ」
死骸となった蝉は先程よりも一回り小さく見えた。
すでに九月も半分を過ぎた今時分、どこへ行っても蝉の鳴き声はしない。最後だったかも知れない蝉の死は夏の死そのもののように思えた。
「行こう、ピノコ」
蝉を見つめる彼女に声をかけ、私はゆっくりと歩き出した。
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ともひと
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