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 急患の連絡もない、予定通りの休日に外を眺めていたときのことだ。
 最近会っていないな、と気がついた。
 突然そんなことを考えるほどにはどうやら暇を持て余しているようだ。
 椅子に座ったまま大きく伸びをする。
 バルコニーは風も通すし、日陰ながらほどよく暖かさもあり、眠気が襲ってくる。
 ハンモックを吊ってやったらピノコははしゃいでいたが、いつの間にか寝ているようだ。
 眼下の白い波は光を反射して輝いている。
 崖下まで降りたら眩しくて見ていられないくらいかもしれない。
 その海の向こうに黒い雲が見えたと思ったらあっという間に空が覆われた。
 バケツをひっくり返したような雨粒が落ち、やってきたときと同じ速さで去っていった。
 音に飛び起きてハンモックから落ちたピノコは、再びハンモックに横になっている。
 こちらも素早い。
 少しして、今度は陸の離れたところに黒い影が見えた。
 ゆっくりと近づくにつれて、その影が誰でどういう状況なのかがわかってくる。
 靴の中に水が入っているのであろう、グチャ、グチャ、という音が聞こえるくらい近づいてきた影は、そこで止まり、肩をすくめながらこう言った。
「・・・他意はないんだけど、シャワーを借りたいんだよね」
 髪が長いだけに、頭も重たそうだ。
 コートは水を吸っているし、裾からは今もポタポタと滴っている。
 ずぶ濡れで私に伺いを取る男がおかしくて、私はそのまましばし突っ立っている男を眺めていた。
「意地が悪い」
 その言葉にようやく、話しかけられてからずっと無言でいたことに気がついた。
「しばらく会わなかったことへの意趣返しなの」
「・・・多少、ざまあみろとは思ったがね」
 扉を顎で示すと、ビチャビチャの男(太陽に当たっている場所だけは少し乾いてきた)は、鞄をハンモックがかかる柱の横に置き、脱ぎづらそうにコートを脱いだ。
 上着もシャツもその場で脱いで、手すりへかけていく。
「さて、この靴のまま上がっていいものか」
「御免こうむる」
 仕方なく腰を上げて、タオルを持ってくる。
 ついでにクリーニング屋に電話も。
 戻ると、男の靴は斜めに立て掛けられ、今はびっちり張り付いているのであろう靴下を脱ぐのに苦労していた。
「ズボンも脱げよ」
「え?ここ、外なんだけど」
「誰も見てない」
「お前さんは見てるじゃないか」
「私は見る権利があるだろ?」
 ここの家主なのだから変なことをされないか監視する必要がある、という意味で言ったつもりだった。
 一瞬腑抜けた顔をした男が、
「エッチだね、先生」
 と言うまでは、そんな意味にも取れるとは気が付かなかったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 クリーニング屋にずぶ濡れのスーツを渡し、車を見送っている最中にピノコが起きた。
「おはよう、ピノコ」
「おはようちぇんちぇ。よく寝た~」
「少し遅めの昼にしよう」
「はぁい」
 一服してから中へ行く、と言ってから、ピノコに伝えていないことに気がついた。
 同時にピノコの叫び声がする。
「ななななんでうちでお風呂に入ってるのよさ!ヤラチー!」
「濡れ鼠を哀れに思った先生が風呂を貸してくれたんだよ」
「ああ、雨が降ったからな」
「雨なんて全然降ってないいい天気なのよさ!」
「ああ、うん今はね。通り雨だったから」
「しょんなこと言って、またちぇんちぇーにちょっかい出しにきたんでちょ!」
「まあピノコ、服がないまま放り出せないからそれまではガマンしてくれ」
「ほんと!人が寝ているスキに上がり込んで油断もすきもないのよさ!」
 プリプリするピノコをなだめながら、お湯を沸かす準備をする。
 またカレー?と言う男に文句があるのか聞くと、また肩をすくめる。
 女性のように髪を束ねて結んでいると、細い首筋が余計に強調される。
 それなのに私のシャツはちょうどいいようだ。
 丈は少し短いようだが。
「しょれで?いつ来るのよさ」
「何がだ?」
「服!」
「ああ、さっきクリーニングに出したからな。明日だ」
「ってことは泊まり!いやああ!」
「泊まらせてもらえるんだ?」
「服がないし、私のものは小さいようだからな」
「ということは、先生の奥さんの手料理を食べられるってわけだ」
「おくちゃん!」
 この男は口がうまくなった、と思う。
 俄然やる気を出してカレーを平らげ買い物に出かけようとしたピノコに歯磨きを促し、財布を確認し、送り出す。
 部屋に戻ると途端腰を引き寄せてくる風呂上がりの男とカレーの匂いがする口づけを交わしながら、たまにはこんな休日も悪くない、と思った。
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