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 あの日から3週間が経つ。
 ほんとたまたまなんだけど、日々人は誰かの誕生日だとか、親しくしていた開発の人の退社だとかで、毎週末に連続で飲み会が入った。
 それはいいのだが、酔って帰って来る日々人がおかしい。1週目、私は 自分の部屋で寝ていたところを襲われて寝ぼけているうちに指を突っ込まれてしまった。しかも翌朝になると覚えていなかった。
 寝ていると襲われる。そう思った私は2回目の週末、ソファでDVDを見ていたが、酔っ払って帰ってきた日々人は抱きついてきた。なんとかケツは死守したけれども。激しく抵抗してなまじ正気を取り戻されても、あれだ。その後の弟の人生とかを考えると、酔って記憶がない間の出来事は思い出させたくないわけで。兄と男とで板挟みだ。 
 そして3週目。つまり今日だ。流石にやばい気がする。二度あることは三度あるというし、今日は日々人が飲み会から帰って寝付くまで私も出かけたい。いっその事明日帰るくらいでどこかで飲み倒そうか。いや、飲んじゃダメだろ私まで。
 
 
 
「なんだ、帰らないのかオニーチャン」
「今そのオニーチャンの気分じゃないからやめてくれる?」
 そこの自販機で買ったのだろう珈琲が入ったカップを片手に新田が現れた。
 周囲をちらりと見回した後、私の正面に座る。
 私は冷めた珈琲に写った自分の冴えない顔を見てまたため息を付いた。
「おい、なんかあったのか?」
「ん?んー、まあいろいろあるようなことだよね」
「どうせ日々人さんのことなんだろ?」
「なっ・・・んでわかったの」
「オニーチャンの気分じゃない、って言うから」
「あ、そう・・・そうね」
 そういやあ新田にも兄弟がいるけれど、こんな相談されても困るだろうなあ。なんでうちの弟はあんなにアホなんだろう。確かに新田くらいいい男なら変な気分になるやつもいるかもしれない。でも自分で言うのもなんだが、私であって、兄だぞ。
 知らず知らずのうちにまたため息をついていたようで、新田に苦笑された。そんな顔でさえいい男だ。
「新田はかっこいいのにな」
「は?」
「なんでもないよ、うん」
 誰かに相談したい出来事だが誰かに相談できる内容じゃない。しかも兄弟がいるやつにだ。
「お前な、なにかあるんだったら早めに相談するか折り合いつけろよ」
「いや、あれだよ単に日々人のワガママについていけないっていうそれだけだから」
「日々人さんが?」
「あーえっとあの日々人がな?日々人に相談されて私にはその経験がないものだからなんて言ったらいいか悩んでいるというか」
「ふうん?」
「えーっとその・・・日々人に迫ってくる人がいるみたいで」
「モテるだろうな、日々人さんは」
「付き合ってる人とかじゃないんだけど、酔う度に襲ってくるらしいんだよ。いや、ちゃんと拒否してるし逃げてはいるらしいんだけど。でも酔ってるときのことは覚えてなくて、酔ってない間は全然その恋愛感情とかもない風で、普通なんだって」
「・・・へえ」
「そんな時どうやって対処すればいいのかなって相談をな、されて。あこれは日々人の沽券に関わるから誰にも言わないでくれよ」
「わかってる。・・・そっか。日々人さんがな」
 じっと、私を見た新田が、すぐにニヤッと笑った。
「つまり相手の真意がわからないんだな?酔ったフリかもしれないし、素面で告白してくれれば、はいいいえで答えられるもんな」
「う、うん?いやそれは、はいになることは無いんだけど・・・」
「なんで?」
「えっと性・・・人・・・人妻・・・のような、やつでさらに日々人にはその気がないっていうか、そんな感じ」
 ふうん、と言った新田がまたニヤリと笑う。
「一度真摯に告白されてみたら?気が変わるかもしれないし、流されるかもしれないぜ」
「流されちゃダメだろ、さすがに」
「フッ。あんたさあ」
「ん?」
「いや。オニーチャン、その後のことはともかく、酔っているのか酔ったフリなのか確かめる方法ならあるぜ」
「えっ、いやあ、でも酔ったフリじゃさすがにできないんじゃないかなあ」
 本当に酔ってない限りあんなことをするはずもないと思うのだけれど。
「ま、今日はうち来いよ。どうせ暇なんだろ?」
「どうせ暇で悪かったな」
 新田とは後で待ち合わせることにして、ひとまず休憩を終わらせるために私は冷めた珈琲を飲み下した。
 
 
 
「え、ええと、日々人くん酔ってたんじゃないの?」
「は?酔って?酔ってたよ気持ちよく。ねえ、なにそれ」
「何それもなにもだからちょっとヤメテ」
 ソファに座る私にグイグイ詰め寄ってくるのは、帰ってきて私を見つけた途端に抱きついてきた日々人だ。が、一瞬で離れるとその顔は先程までとは真逆である。
「どこの?どういう関係?」
「だからえーっとお前には言わないって約束したから」
「はあ?」
 とりあえず酔ったフリだったということはわかった。同時に淡い希望を打ち砕く絶望でもあったけれど。
 ようやく離れた日々人が、仁王立ちで立ち塞がる。私は何も後ろめたいことはないのに、酔ったフリだったという現実に打ちのめされそうで目を合わせられない。
「お前がつけたんだろ」
「俺じゃない!っていうか一週間も保つようなことしてない!」
「・・・やっぱり今までのは酔ったフリだったのね」
「!」
 ようやく日々人がたじろいだ。
 でもすぐにムッとした顔になる。
「そーだよ。仕方ないだろ、むっちゃんが無かったことにしたんだから!」
「するだろフツー!男同士というのはともかく兄弟だぞ俺らは!」
「だからって当てつけることないじゃん!」
 当てつけ。そうか、新田がやれといったのは当てつけだったのか。
 洗濯バサミで首を挟まれたのも。風呂に入っていけと言われたのも。確かに相手が激情したら、理由が明確になるもんな。
「あー、えっとな」
「それとも何むっちゃん、俺には抵抗しておいて、実は男が良くなっちゃったとか?」
 本心じゃない、とわかってはいた。わかってはいたけど、本心じゃなかったらそれは私への恋愛感情の肯定でしか無い。そして私は自分の拳を止めることができなかったし、後悔もしなかった。
 頬をおさえる日々人に寝ると言い捨てて、私は自分の部屋に戻った。
 しばらくしてから部屋の前で足音が止まり、小さくゴメンという声が聞こえた。
 私は返事をしなかった。
 
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