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「あの、涼介さん、ちょっといいですか」
 そうコテージの裏に呼び出された時はがらにも無く高揚した。
 少し興奮気味に、少し低いところから見上げてくる彼の、少し尖らせた唇から出てきたのは弟の名前だった。頭から冷水を浴びたような体験というものはそうできるものではないだろうに、自分の浮かれ具合に頭が痛くなる。
 ひとしきり話を聞いて、つまり。
「あいつが言うことを聞かないから、俺から注意しろってことか?」
「涼介さんの言うことなら聞きますし!」
 走る前でさえこんな顔は見たことがない。いつも何を考えているかわからない表情で、それでも自分と目を合わせると赤くなるところが、不思議と可愛いと思ったのだ。
「藤原」
「?」
 腹の中のものをぶちまけたおかげで興奮が収まってきたのか、普段の調子に戻りつつある顔を眺める。思わず苦笑した。
「恋人の噛み癖をやめさせて欲しいなんて相談は、お前を好きじゃないヤツにして欲しかったな」
「――あ」
 薄く口をあけて止まり、すぐに俯いた彼の拳がぎゅっと握られた。
「俺が言ったこと、忘れてたんだ?」
「・・・忘れ、てました。あの・・・スミマセン」
 かなり弱々しい声が聞こえて来た。嬉しい反面、困らせたいわけではなかったという後悔がほんの少し頭をもたげる。
「いいんだ。まだお前に頼られる人間であると認識できたことは素直に嬉しいんだ」
 複雑そうな表情がちらりとこちらを見た。が、すぐに視線をそらされる。今まで見たことがない表情だ。
 何せDのときは眠そう(最近、楽しそうにしている顔が若干わかってきたくらい)だし、少し前に家に押しかけてキスをした時でさえこんな顔は見なかった。
(あの時は爆笑した顔や照れた顔を見れたけれど――)
 やはり色々な顔を見たいと思ってしまう。
 現在弟と付き合っている、それも男だというのに。
「・・・まいったな」
「あの、本当にスミマセン・・・忘れてください」
「ちょっと、良いかな」
 手招きをして、コテージの裏手の林の中へ入る。涼しいというより少し肌寒い。
 そして相変わらず警戒心が薄い藤原がのこのこと後をついてくる。
「まいったっていうのはね」
 振り返り、手を差し出す。藤原は訝しげに小首を傾げながらも手を差し出した。握手をするように差し出してきた手首をつかみ、引き寄せ、手のひらを自分の股間に押し当てる。
「藤原を見ていると俺もこうなる、ってことだよ」
 すぐに手が逃げ――るかと思いきや、硬直していた。視線も手の先に向けられている。
 何も知らない生娘なわけではないのに。
 そう、何も知らない子供では、ないのだ。
(あいつのせいで)
 つかんでいた手首を上下に揺らした。反射的に引いた力は弱く、彼の腕は変わらず自分の手の中にあった。
「幻滅したろう?」
 パッと顔を上げた藤原に、小さな苦笑を見せた。自分の本心を伝えるためにここまでやる必要があるのか、という自嘲でもある。
「藤原は俺に、夢を見てるんじゃないか」
「・・・?」
「ちゃんと、伝わっていないかもしれないから改めて言うよ、藤原。俺はこういう意味でお前のことが好きだ」
 藤原の顔が耳まで赤く染まった。
 耐え切れず抱き寄せて赤い耳を舐めると、どもった声が俺の名前を呼んだ。
 情事の最中に名前を呼ばれたことは幾度もある。――それなのに自分が恋をした相手に呼ばれたことは無かった。この衝動は危ういと、警鐘が聞こえた。
「・・・すまない」
「え」
 手を、腕を開き、一歩下がった。藤原の赤い、照れと驚きなのか、いくつかが混ざった表情が見上げてくる。
「理性が、もたない。・・・しばらくしたら戻る。先に戻っていてくれ」
「あの」
「何も――何も言わないでくれ、藤原」
「・・・」
 長い数秒が過ぎて、藤原が軽く頭を下げてからロッジへと戻って行った。
 その場にしゃがみ込みたくなる衝動をこらえ、大きく呼吸をする。
 彼に関わってから計算が狂うことが多い。それはプロジェクトDのときにはありがたいほうへと転ぶことが多いが、それ以外のときは意外性ばかりが目立つ。
 彼が絡むと自分の行動でさえ予測がつかないのは、自分の行動が計算ではなく心情的なもので動かされてしまうせいなのだろう。
 最近の自分の行動は自分自身でさえ目に余る。自分らしくないとさえ思う。
 理性が、壊れてしまうのではないか。
 本気の恋はもうしないと思ったのに。
「・・・まいったな」
 もう一度呟いて、今度こそその場にしゃがみこんだ。
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